第三十話.本気の一撃
第三十話なのと戦闘早く終わらせたかったので連続投稿!
合成獣は低く唸ると、タローを強く睨み付ける。その紅の眼には憤怒が灯り、辺りに息苦しくなる程の殺気が撒き散らされた。
合成獣の尻尾である蛇が毒液を音速以上のスピードで放つ。それは衝撃波をまき散らしながらタローを殺さんと迫るが、対してタローが取った行動は拳をぶつけることであった。
毒液がタローに当たる瞬間。
その毒液だけが嘘の様に消え去り、押し出された空気のみがタローの背後を二つに分かれて風の様に流れて行った。
(魔力の吸収……アイツの攻撃も魔力による攻撃だから吸収出来るんですのね……)
唯一タローの能力について少しは理解しているエミルがそんな考察をしていると、色的な変化はないものの、その考えを肯定するかのようにタローの魔力量が上がっているのが感覚で感じ取ることが出来た。
よくよく考えると本当に化物クラスの能力である。例え身体能力を強化したとしても、魔法を放ったとしても、斬撃を飛ばしたとしても、それらは全て魔力があるからこそ成り立つのであり、吸収されたら跡形もなく消えてしまう。だが、タロー自身は自然魔力を吸収することによって強化出来てしまう為、戦闘においては常にタローが圧倒有利な状態と言ってもいい。
一つ惜しい点があるのは味方の魔力まで吸収してしまう事か。現に僧侶の背中に現れていた光の帯のようなものは消え去っており、さっきの謎の力も使えなくなっているようだった。
「あまりこの力に頼りたくないんだけどなぁ……」
少し苦笑を見せるタローを中心に、突如衝撃波が発生した。エミルのその目には、体内に詰め込んだ魔力が一気に体外へと放出されるのが見えた。
それによって雲が晴れ、降り注いでいた雨がようやく止まる。代わりに眩しい太陽が顔を出し、辺り一面を照らし続けた。
恐れをなしたのか、合成獣は一歩、二歩と後ずさる。それは無意識だったのか、合成獣自身も顔をピクリと動かし、驚きのような反応をみせた。
「行くよ」
その言葉と共にタローは一瞬で合成獣との距離を詰めると、合成獣の顎に下から拳を突きあげた。
反応に遅れた合成獣は一〇メートル以上も宙に浮くが、風を発生させて体勢立て直すと尻尾から毒液を吐き、更にタローが立つその空間からガラスにひびが入るような音が鳴る。
だがそれは、タローが腕を振るうだけで全て消跡形もなく消え去った。
タローは拳を硬く握ると、成す術もなく落下してくる合成獣を見上げる形で視界に入れる。
「僕の本気は──」
タローは地面を蹴って飛び上がると、合成獣顔面に向かって斜め下に本気の拳を入れた。
瞬間、体中から血を出しながら合成獣は吹き飛び、まだ木が生い茂っている場所へと衝撃波を撒き散らしながら衝突した。
「もしかしたらちょっと痛いかもね」
タローは地面に着地すると、手をぱんぱんと払う。
「タロー!」
するとそこに、エミルとマイが駆け寄ってくる。タローはそちらに顔を向けると、驚愕によって目を見開いた。
「ぼ、ボロボロじゃないですか!! 大丈夫ですか!? いますぐ薬草で回復を──」
「ちょ、ちょちょちょちょっと落ち着きなさい!! 私は大したことないわよ!!」
外見だけで見たら、マイの怪我は掠り傷程度だろうか。それなのにまるでいつものエミルのような過保護っぷりに、マイは慌ててタローを落ち着かせた。
「はぁ……私よりも問題はエミルよ。あの合成獣の毒を喰らったから今すぐ街に戻って毒を抜かないと──って、あれ、あなたさっきよりも顔色良くなってないかしら」
ジトッとエミルの顔を見つめるマイに対し、エミルはニヤニヤとした笑みで返す。
「お姉さまへの愛があれば毒なんて関係ないのですわ!!」
愛は不滅なり! と高らかに笑うエミルに、タローとマイは元気そうで何よりだと苦笑した。
「とまあそんな冗談は置いておいてですわ」
さっきまでの高笑いが嘘かの様にいきなりエミルは顔を引き締めると、立ったまま唖然としている僧侶――シズクを視界に入れた。
「わたくしはこの方に助けられたのですわ。さっきのよくわからない力もですけど、体内から毒だけを抜くなんて初めて見たんですの。貴方は本当にEランク冒険者ですの?」
「あっ……え……その……」
顔を伏せ、言葉に詰まるシズク。別にこの力について話せないわけではない。ただただ人見知りが激しく、まともに会話をすることが出来ないのだ。
マイはやれやれと肩を竦める。
「ほら困ってるじゃない。それに、それを言ったらタローはFランクよ?」
「うぐ……ブタローは別ですわ!! 固有能力が強すぎるんですの!!」
「あら、その感じだとエミルはタローの固有能力が何だか知ってるのかしら」
マイの目が、再びジトーっとエミルを見つめた。タローも少し驚き気味にエミルの顔を見る。
『ならこれは、マイさんには秘密ですよ』
タローの言葉がエミルの脳裏に浮かび上がる。
タロー自身は忘れているのだろうが、間違いなくあの時に約束を交わした。それを破るほどエミルの性格はねじ曲がっていない。
「し、知らないんですの……」
「本当かしら……? 怪しいわね……」
「ブタローの事なんて何も知らないですのー!!」
叫ぶように言葉を放つエミルだが、もはやここまで否定すると知っていると言っているようなものだ。
マイは溜息を付くと、これ以上はこの件に関しては何も問い掛けなかった。
その代わりにぼそりと呟く。
「何よ……私だって知らないのに……」
「……? 何か言いました?」
「何もないわよ」
不思議そうに首を傾げるタローに対し、マイは少しムスッとした状態で返した。
マイは白銀の剣を鞘に入れようとしてサイズが合わない事に気付くと、レザー装備で良かったとベルトに挟むようにして剣をしまう。
「ここはまだ危険よ。詳しい事はまた街に戻ってからにしましょう」
このマイの言葉に、ここにいる皆が首を縦に振るのであった。




