第二十五話.仲間入り
明日で1日投稿終わります。
それから次の日。
「──わたくしをパーティーに入れて欲しいですの!!」
それは突然だった。
タローとマイがのんびりと街を歩いていると、何処からともなくエミルが現れ頭を下げてきたのだ。
「ブタ……いえ……ここはタロー……? とにかく! ブタローの記憶喪失はわたくしの責任ですわ!! わたくしが責任を持って元に戻しますの!!」
「そんな大袈裟な……」
マイはそう苦笑するが、それはそうだろう。魔王軍の事についてマイは聞かされていない。つまりマイからしたら、エミルはタローに一日忘れられただけとしか感じられないのだ。大袈裟だと思うのも仕方ないだろう。
「わたくしがしっかりとブタローを守るのですわー!」
「なかなか気合が入ってるわね……」
と言っても、マイにとってこれは嬉しい変化であった。
エミルはその性格から人に嫌われ、エミル自身もまた嫌っていた。
その代わりにマイにだけ執着して生きてきていた。それは過去のトラウマがあるから仕方ないかも知れないが、そろそろエミルにも信頼できる仲間が必要だとマイは考えていたのだ。
マイは隣を歩くタローを見ると、タローは申し訳なさそうに頬を掻いていた。
「すいません……やっぱり思い出せなくて……」
だが、その言葉を聞いたエミルは首を振る。
「昨日も言いましたけど、それはわたくしの責任であり、貴方のせいでは無いのですわ! 貴方の記憶はわたくしがしっかりと戻しますの! その為のパーティーですわ!!」
自分に任せろと言わんばかりにドンッと胸を張るエミル。その様子は、昨日のテンションからは考えられない程明るいものであった。
「どうするのかしら。これについてはタローが決めてちょうだい」
「え、僕がですが? 僕は全然……というか、むしろ歓迎なんですケド……」
「なら決まりね」
マイは薄く笑うと、エミルの表情は更に明るいものとなり、マイに抱き着いた。
「やっぱり大好きですわおねぇざまぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁ!!」
「いやぁあぁあぁああぁぁぁぁぁ!」
今日着ている装備はいつもの白銀の鎧ではなく、レザーアーマーである。その為エミルが顔を引っ付けたり抱きついたりすると、その感覚が伝わってくるわけで。
しまいには舐めたりし始め、ぞわぞわとエミルに対する嫌悪感がマイに襲いかかってくる。
その様子を見ていたタローは笑っていたが、何かが視界の端に映ったのか、顔を引き締めてマイたちを置いて走って行ってしまった。
「あ、ちょ、タロー!? 助けなさいよ!!」
マイの言葉を無視してまでタローが向かった先。それは、とある冒険者たちの元であった。
ようやくエミルもそれに気付いたのかマイから離れると、急いで二人はタローを追いかける。
「――駄目だよ暴力なんて」
タローは一人の男の拳を手で受け止めていた。その背後には涙を浮かべている女性の姿。どうやらこの男が殴りかかろうとしていたのを察し、タローが止めに入ったようである。
「邪魔してんじゃねぇよクソがッ!!」
相当気が立っているのか、男は強引にタローの手を振りほどき、鋭い目つきでタローを睨みつけると、怪訝な顔を作り出した。
「……あ? お前どっかで会ったか?」
「多分訓練の時じゃないかな」
タローはあまり怖がっている様子を見せないまま平然と答えて見せる。
するとその言葉を聞いた男も納得したのか、納得したかのように頷き──思い切り笑い飛ばした。
「おいおい冗談キツイな!! あの魔力すらまともに扱えない無能野郎だろ? どうだ? Fランクから抜けれたか?」
「んー、それがまだFランクで……」
「だろうなぁ!!」
タローは頬を掻きながら苦笑すると、男は馬鹿にしてるのかまた笑い飛ばす。
すると突然、パシッと肌を叩いたような、そんな乾いた音が街の賑やかさにも負けず鳴ったのが分かった。
「失礼ではなくて? わたくし、貴方みたいな確かめもせずに馬鹿にする庶民が大嫌いですの」
エミルがその男の頬を叩いたのだ。 その顔は嫌悪感にまみれており、その言葉が真実だということをはっきりと示していた。
男は未だに状況が分かっていないのか目を見開いたまま固まっている。
すると、隣からマイがニヤニヤしながら入ってきた。
「へぇ、エミルも変わったわね。タローが馬鹿にされたのが嫌だったのかしら」
「なっ──違いますわ! これはただ人を馬鹿にしたのを許せなかっただけで!!」
「いつも私以外はいつもブタ扱いなのに、タローは人間なのね」
ニマニマとしながら話すマイに、顔を真っ赤にしながら黙り込んでしまうエミル。
エミルはマイ以外の人物に興味を示さない。つまり、どれだけ人が馬鹿にされていたところで、マイ以外ならどうでもいいと感じる人間なのだ。なのにタローが馬鹿にされたことでイラつきを覚え、男に平手打ちを喰らわせた。
そんな思考がぐるぐるとエミルの中で回り続ける。
「わ、わ、わたくしはただ、ただ──」
「あら、エミルが固まっちゃたわ」
ぷしゅぷしゅと蒸気を頭から出すエミルを置いて、マイはまた別の固まって動かない男に近付いていった。
「久しぶりね。どういう状況でこの女の子を殴ろうとしたのかは分からないけれど、暴力に頼るのはあまり良くないわね。もちろんエミルもね」
「ひゃ、ひゃい……」
「……」
エミルはぐるぐると目を回しながらも、何とか答える。だが、男は何も答えることはなかった。ただ歯を強く噛み締め、その場を去っていく。
「あ……待って……」
涙を浮かべていた女の子は震えた声を出すと、人混みの中を歩く男を追って何処かに行ってしまった。
タローはその方向を暫く眺めたあと、ぼそりと呟く。
「……付いていくんだ」
それは誰に対して言ったつもりではないが、マイがその言葉を拾ったのか小さく首を振った。
「ついていくしかないのよ。きっとね」
マイはそれだけ言うと、まだぷしゅぷしゅと壊れた機械の様になっているエミルに先にギルドに行くとだけ告げ、タローと並んでその場を去っていった。
「はっ──わたくしは何を!!」
エミルは混乱状態から脱すると、急いで二人の後を追うのであった。




