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始まりの冒険者  作者: くろすけ
始まりの冒険者〜世界最強のFランク〜
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第十五話.エミルと目的


 暫く気まずい空気が流れる。

 タローはその気まずさからかマイに目で助けを訴えかけると、マイは溜息を付き、仕方ないと首を横に振った。


「で、何でエミルはこっちに来たわけ?」


 マイの言葉に、ずっと髪をいじっていたお嬢様──エミルは嬉しそうに反応すると、シュバっ! と親指を立てた。


「それはもちろんお姉さまに会うためですわ!!」


「……え、それだけ?」


「それだけですわ!!」


「はぁ……」


 もう溜息しか出なかった。

 この街に来る前、マイはここから馬車で飛ばしても三日は掛かる距離にある街で活動していた。だが、エミルが住んでいた街はもっと遠く、下手をしたら五日は掛かる距離である。それほどの距離なのにも関わらず、たったそれだけの理由でこの街に向かうことがマイには信じられなかったのだ。


「……それにしても、何で私がこの街に居ることが分かったのかしら。アンタに教えた覚えは無いのだけれど」


「それはもちろん、始まりの街に突如出現した竜をたった一人でSランク冒険者が倒したという噂を聞いたからですの!! そこでわたくし、ピーン! とお姉さまセンサーが反応したから駆けつけてきたのですわ!!」


 タローの時とは一八〇度違うそのテンションの高さを維持しながら、そんな滅茶苦茶な事を話すエミル。

 エミルの言うことが本当ならば、あの竜を倒したその日からこの街へと向かってきていることになる。もしそうだとすると噂の広がり方が音速を超えている気がするが、確かにエミルなら有り得る事だとマイは呆れたように息を吐いた。


「あなたがこの街に来た理由は分かったわ。でも残念だけど、私はアンタと組む気はないわよ」


「ガビーン! なんでですの!?」


 言葉からしてあからさまに落ち込むエミルは、マイにグイっと詰め寄る。


「何でって言われても……まずお金に困ってないからクエストを受ける必要がないもの。それにこの街のクエストはどれも簡単だからパーティを組む必要が無いのも一つの理由ね」


 エミルのそれに対し、マイは冷静に当たり前だと言わんばかりにそう返す。

 すると何故か、エミルが反応するよりも早くタローが「え!?」と反応した。


 それを聞いたマイは苦笑すると、タローに近付き、その頭に手を置いた。


「そうね、取り敢えず今はタローのお手伝いって所かしら。さっきも言ったと思うけれど、私はタローとパーティを組んでるのよ。これがアンタと組まない主な理由ね」


 ごめんなさいね、と最後にとどめの一撃を放つマイ。その言葉はエミルの心に深く突き刺さり、エミルは胸を押さえながらぷるぷると体を震わせた。


「……貴方」


「……え? あ、僕ですか?」


「貴方以外に誰がいるんですの!!」


 エミルは顔を上げると、シュバッ!! と涙目になりながらエミルはタローを指差す。


「わたくしは認めませんの!! お姉さまがこんなへなちょこな野郎とパーティを組むはずがないのですわ!!」


 エミルはそう言い放つや否や踵を返し、何処かへと行ってしまった。

 何が何だか分からなかったタローは目をぱちくりとさせる。


「……結局何だったんですかね」


「別に気にしないでいいわよ。いつもあんなテンションだから」


 マイは慣れているのか特に気にしている様子はなく、やっと何処かに行ってくれたという解放感からか

マイの顔には少し笑みが含まれていた。


「あれでもエミルはあなたと同じ固有能力者だから、それ仲良くしてやってちょうだいね。あの子、あんな性格だから友達が居ないのよ」


 マイのその言葉に、あぁ……と納得してしまったタローは、頑張ってみるという意思表示か何度か頷く。


「でも、マイさんはなんであんなに好かれてるんですか?」 


 タローは地面に座ると、気になったのかマイにそんな質問を投げかける。

 するとマイは記憶を探っているのか顎に手を添えた。


「んー……別に何かあったわけじゃないわね。確かだけど、魔物に襲われていたところを私が助けたのよ」


 マイはあまりよく覚えていないのか自信無くそう話すと、タローはなるほどと相槌を打つ。


「……まぁこんなところで話すのもなんだし、冒険者ギルドにでも行ってクエストでも探しながら話さないかしら」


「あ、そうですね! クエスト! クエストいきましょう!!」

 

「な、なんか今日は食いつきが凄いわね……」


 マイは餌に群がる魚のような勢いで賛成するタローに若干押されながらも、冒険者ギルドへ向かうために歩を進めた。

 タローはその後ろ姿を暫く眺めたあとに立ちあがると、その背中についていく。


「あぁー……何て素晴らしいのかしら。誰にも囲まれないのがこんなにも楽だなんて知らなかったわ」


 人通りがある程度ある表へと出たマイは、のびのびとしながらそんな事を呟く。

 マイとすれ違う人は皆マイを気にしてはいるものの、一昨日や昨日のように群れて動きを妨害することが無くなっていた。まるで昨日とは別の街に来たかのようなそんな感覚に少し寂しさを感じながらも、マイは堂々と街を歩く。


 恐らくこれは、エミルが脅したりしたのだろう。エミルの性格上マイに近付く庶民を絶対に許さない。どんな手を使ったのかは分からないが、今のマイにとってこれほど有難いものはなかった。


「何か静かですねー」


 タローはいつもとは違う街の人を不思議に感じているのか、マイの後ろで呑気にそんな事を呟く。


「多分エミルが何か言ったのよ。ほら、エミルが街の人たちを追い払った時も素直に言うことを聞いていたし」


「そういえば確かにそうでしたね……」


 タローが納得すると同時に、冒険者ギルドに到着したのかマイが足を止めた。いきなりの事だったのでそのままタローはマイの背中にぶつかってしまい、反射的に謝る。

 するとマイは身を翻し。タローの頭に手を置いた。


「別に謝らなくてもいいわよ。じゃ、今日は何のクエストに行こうかしら」


 マイとタローは、冒険者ギルドの中へと入っていく。

 

 その後ろ姿を壁から顔だけを出して覗く人物が一人。


「魔力量からみてFランク……いえ、Eランク? どっちにしてもお姉さまは卑劣な庶民(ブタ)野郎に騙されてるのですわ」


 エミルは気のせいかドス黒いオーラを醸し出しながら、心の中で固く決意する。


「今度はわたくしが助ける番ですの。絶対に庶民(ブタ)野郎の化けの皮を剥いで見せますわ」



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