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始まりの冒険者  作者: くろすけ
始まりの冒険者〜世界最強のFランク〜
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第十三話.マイvs合成獣(贋作)

なんと戦闘はこれで終わり。なんてこったい\(^o^)/


 狼型の魔物達がマイを取り囲む様にして動き始める。その数は五体。


 本来なら囲まれるのはほぼ死を表す。だがマイは動揺を見せなかった。


 囲まれたからと言って雑魚は雑魚、自分の驚異ではないと思っているのだろう。


「まとめて掛かってきなさい」


 マイはそう鼻で笑うと、その挑発に乗ってかマイを囲んでいた狼型の魔物たちが一斉に襲い掛かってきた。

 マイは焦る様子を見せずに前方の魔物に狙いを定め、剣を横薙ぎに振るう。するとその魔力を乗せた斬撃は、本来届かない筈の距離である魔物二体の胴を深く切り裂いた。


 そしてすぐにマイは身体を反転させ、後方から襲い掛かってきていた一体にその剣を投げつけた。

 その剣は見事魔物の頭部へと突き刺さるが、それを確認する事もなくマイは両端から飛び掛かってきていた魔物の頭部をそれぞれの手で掴み、乱暴に地面へと叩きつける。


「ゼロ距離魔法よ」


 マイの手が淡く光ったかと思うと、その両手から突然紅色の炎が噴き出した。もちろん避けることも出来ない魔物は見事に焼かれ、あっけなく息絶える。


「さて、こんなものかしらね」


 マイは息絶えた魔物から手を放し、剣を回収する為に剣が突き刺さった魔物へと近付いていく。


「――ッ」


 だが、そんなことはさせないと遂に合成獣が動き出した。


「……私の愛剣に面倒なことしてくれるじゃない」


 予想外だったと言わんばかりに首を横に振るマイ。その視線の先には、剣の柄の部分に毒が付着している愛剣の姿があった。


 合成獣の尻尾であるヘビが剣の柄を狙い、毒を吐いてきたのだろう。これではまともに剣を使うことが出来ない。


「まぁいいわ。魔法は得意じゃないけれど、あなたを倒すことくらいは出来るもの」


 次はマイが攻める番であった。

 マイは脚に魔力を集中させると、地面を力強く蹴って走る。すると合成獣との距離が一気に縮まり、マイは合成獣の懐へと潜り込んだ。


「冷たいから気を付けなさい」


 マイが合成獣の胸に手を当てたかと思うと、その瞬間にまるで巨大な氷が砕け散ったかのような爆発が発生した。

 合成獣はゼロ距離からの爆発に耐え切れず、成す術もなくその巨体が吹き飛んでしまう。


「――ッ!! 危ないわね」


 氷の爆発によって深い霧が立ち込める中、その霧の中から突然氷の槍がマイの顔面に向かって飛んで来た。マイは何とか寸前のところで回避するが、頬に掠ってしまい、血が垂れる。


 恐らく吹き飛ばされたその瞬間に魔法を飛ばしてきたのだろう。

 マイは頬に垂れる血を腕で拭うと、やるじゃないと笑みを浮かべた。


 やがて霧が晴れ、合成獣がこちらへと歩いてきているのがはっきりと確認する事が出来た。その胸には赤黒い血が毛に付着しているが、特に出血している様子はない。


回復(ヒール)かしら……厄介な合成獣ね」


 合成獣が空に向かって吠える。すると合成獣の眼が紅く光り、マイの事を睨みつけた。

 だが、特に何もしてくることはなく、マイの様子を伺うだけで攻撃はしてこなかった。


 そこでマイは違和感を感じる。


(幻術……合成獣のくせに生意気ね)


 幻術、それは相手の視界を騙す魔法であるが、合成獣が使うなんてことは聞いたことが無い。


 マイは少し戸惑いながらも辺りを見渡すが、特におかしなことは無かった。普通ならば僅かに空間が歪んだりして相手の居場所が分かったりするのだが、これにはそれが見当たらないのだ。それはつまり、この合成獣の幻術がかなり熟練された事を表していた。


 マイは試しに小さな火炎球を掌に生み出し、ずっと止まったままの合成獣に撃ち出してみる。そしてそれはマイの予想通り当たった瞬間に合成獣の身体を貫通し、合成獣の姿が煙の様に消え去った。


 それを確認したマイは目を瞑る。


 息を止め、ほんの少しの物音でも聞き逃さないように極限まで集中する。


 そして、その時は突然やってくる。


 マイは後方へと大きく飛び跳ねると、さっきまでマイが居た地面が音を立てて抉れるのが分かった。そして、そこから合成獣の姿が現れる。


「音を消して移動していたみたいだけど、惜しかったわね」


 攻撃する為に力を入れたその瞬間に発生した僅かな土の音を、マイは聞き逃さなかったのだ。

 合成獣は攻撃を外した悔しさからか、ヘビで出来た尾から毒を吐いてくる。もちろんそんな攻撃はマイに当たるはずもなく、難なく避けたマイは一気に合成獣との距離を縮め、魔力を集めた拳で合成獣の顔面を殴った。

 合成獣は僅かに怯むが、その隙に反撃しようと足を上げて地面に叩きつける。だが、その攻撃は避けられるでもなく、真正面からマイに受け止められてしまった。


「わかった? あなたじゃ私に勝てないのよ」


 腕を交差させてガードしていたマイはその足を力ずくで押しのけると、すぐさま地面を蹴り、合成獣の頭部へと乗る。


「本当はダサくて言いたくないのだけれど……この際仕方ないわね」


 マイは振り払おうと暴れる合成獣に耐えるために左手で(たてがみ)を掴み、余った右手を頭部にかざした。


「『水の精よ。我が呼び声に応え、我が幻想を具現化せよ』」


 マイが呪文を唱えた瞬間、その掌から氷の長剣が生成され、合成獣の頭部を貫通して地面に向かって深く突き刺さった。そこから徐々に合成獣が凍結していき、合成獣の動きが鈍くなっていく。


「はぁ……ほんっとダサいわね。誰よこんな詠唱考えたやつ。殴ってやりたいわ」


 マイは溜息を付きながら合成獣の頭部から降りると、大きく体を伸ばした。

 そしてマイは振り返り、胴体まで凍結が進んでいる合成獣を視界に入れる。


「良い戦いだったわよ」


 マイがそう笑うと、それに反応したヘビの顔が弱々しく動き、マイの姿を捉えた。そして最後の抵抗かほんの少しだけ毒を吐き、それがマイの服へと付着する。

 最初は呆気にとられていたマイだったが、それが最後の抵抗だと理解し、苦笑した。


「最後の最後までお疲れね」


 その呟きを最後にヘビが凍結し、完全に合成獣の動きが止まった。

 それを確認したマイは、大量に木が倒された場所──タローと漆黒の合成獣が居るであろうその場所を視界に入れる。


「……タローは大丈夫かしら」


 姿が確認できない程遠くまで移動したようだが、果たして本当に大丈夫なのか。タローならば大丈夫だと信じてはいるが、やはり不安は拭い切れない。


「――マイさーん!!」


 そんな時に、何処か遠くから聞きなれた声が聞こえてきた。

 マイの口から自然と笑みが浮かび上がり、タローを探すためにマイは辺りを見渡す。


「ここ! ここですよー!!」


 ズドンッ! と音が鳴ったかと思うと、マイの目の前に穴が生まれた。そしてその穴の中から泥だらけになりながらも現れたのは、傷一つないタローの姿であった。

 一体何故空から降ってきたのかは分からないが、もうタローに対して驚かなくなってきたマイは自然とその事実を受け入れる。


「あ、そっちも終わったんですね! よかったです!」


「えぇ……何とか倒したわよ」


 タローとマイは氷漬けにされた合成獣を視界に入れながらそんな事を話し合う。


「それにしても早かったわね。もう少し掛かると思っていたのだけれど」


 そんなマイの疑問を聞いたタローは「実は……」と照れくさそうに自分の髪を触った。


「場所を移動するために一発殴ったら倒しちゃってました」


 あはは、と笑うタロー。

 だがマイはもう驚かない。というかそんな気も何処かでしていた気がすると、マイは苦笑した。


「じゃあ薬草を集めて帰りましょうか」


「あ、もう集めましたよ! じゃん!!」


 タローはズボンの後ろポケットに無理矢理詰め込んでいた薬草を取り出し、嬉しそうにマイに見せてくる。

 暫く目をぱちくりとさせていたマイだったが、マイはタローの頭に手を置いて撫でる。


「タローって、本当によくわからないわよね」


 タローは何者なのか。タローの能力は何なのか。そればかり気になっていた自分が馬鹿らしくなったのか、マイは自分に対して鼻で笑うと、森から出るために踵を返した。暫く自分の頭に手を置いていたタローもそれに気付き、隣に並んで歩く。


「あ、マイさん。ずっと気になっていたんですけど……」


「ん? 何かしら」


 止まったタローに向き合う様にしてマイも足を止めた。


「えっと……見えてますよ?」


「何が?」


 タローの言葉の意味が分からなかったマイは首を傾げる。

 だが、それもすぐに理解することが出来た。


 タローがマイの体に指差し、それに釣られてマイは自分の体を視界に入れた。


「……」


 マイは沈黙する。

 ちょうど胸元辺り。ぎりぎり見えてはいないが、何故か所々肌が露出していた。


 そういえば、最後の最後に合成獣のヘビから毒を喰らった。ほんの少しだった為気にしていなかったが、まさかレザーアーマーとその下に来ていた服までも溶かしてしまうとはマイも思っていなかったのだろう。


 マイはさっと腕で隠すと、タローを睨みつける。


「……変態」


「えぇ!? 誤解ですよー!!」


 その言葉を聞いたマイはいたずらっぽく笑うと、「冗談よ」と、前を向いて歩き始めた。


 ▽


「ここですわね、お姉さまがいらっしゃる街というのは……ヒヒッ。汚い愚民(ぶた)どもからこのわたくしが守ってあげますわね」


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