第十二話.乱入
ちょっと無理やりですが、戦闘シーンがダラダラと長くなってしまったので大幅カットしました。
余計に違和感が増えました。
タローは歩を進め、マイの横を通り過ぎていく。
未だにマイの体は動かない。息をするのにも一苦労で、自然と息が上がってしまう。思考能力も低下しているのか、物事を考えることさえ困難であった。
「あ、別に殺すつもりはないよ。僕も君達と同じだから気持ちは分かるし」
ふっ、と身体が軽くなるのが分かった。
タローが能力を解除したのだろうか。合成獣以外の魔物は自分の身体が動くようになった瞬間に、その場から飛ぶようにして去って行った。
残るは合成獣のみだが、合成獣はまだタローの威圧を受けているのか身動きが取れていない。
「あ、まだ君は逃さないからね。大丈夫、君に怪我はさせないから」
タローは優しく語りかける様に喋りながら合成獣へと近付いていき、その顔に手を触れた。
合成獣はビクリと体を震わせたが、タローが撫でる事によって段々と落ち着いてくるのが分かる。
「もう無理やり襲わせちゃ駄目だよ。これからはちゃんとほかの子たちの事も考えてあげてね。分かった?」
合成獣は唸りながらも、こくりと頭を縦に振る。
それを見たタローは笑みを浮かべると、暫く何か話した後、タローは踵を返してマイの元へと帰った。
「どうや今は逃げてくれるみたいです! 戦わずに済みましたよ!!」
タローの言う通り、合成獣の姿はもう見えなくなっていた。
だが大事なのはそこではない。
「えっ……あなた、もしかしていま魔物と話してたの?」
「……なんとなく? ですかね?」
「はぁ……本当にあなたってよく分からないわね……」
笑って誤魔化すタローに対し、マイはため息を付く。
知れば知るほど謎が深まっていく。
魔物と会話するなんて聞いたことがないが、これもまた能力なのだろう。
これで最低でも三つも能力を持っていることになるが、それを知ったマイは驚きよりも呆れの感情の方が大きかった。
「……まぁいいわ。魔物を見逃すのはちょっと嫌だけれど、戦わないに越したことはないもの」
「そうですね! 森の主に見つかる前に早く薬草を探しましょう!」
タローはそう元気よく笑うが、タローの言葉に引っ掛かりを覚えたマイは首を傾げた。
「森の主はさっきの合成獣じゃないのかしら?」
「えっ? そうなんですか?」
気付いていなかったのか、とマイがため息を付きかけた──その時だった。
タローの背後。不自然に暗くなっている森の奥で、何かが動いた気がした。
(……気のせいかしら)
気配も何も感じない。それはタローも同じようで、ニコニコとしながら背後の事は一切気にしているようには見えなかった。
だが、冒険者としての勘が告げる。
「──うしろっ!!」
マイが叫ぶが、少し遅かった。
いきなり目にも止まらぬ速さでタローの身体が横方向へと吹き飛んだのだ。
「タローッ!?」
あまりにも速すぎるその攻撃にマイは警戒心を最大にまで引き上げ、剣を構えて前を見据える。
「まさか……本当にアイツが森の主じゃなかったなんてね……」
合成獣。
それはその名の通り、何体かの獣を合成し作られた人工的な魔物だ。
だが、いま存在している合成獣の殆どが贋作と言われている。これは合成獣を生み出した人物を真似する者達が増え、その合成獣同士が繁殖した結果だ。
「趣味が悪いわね……! 昨日? 一昨日? 忘れたけれど、竜といい最近は何でこうも強い魔物と遭遇するのかしら……!」
贋作があれば、もちろん原作がある。
全てが黒く、見たものを吸い込んでしまいそうな体毛をした合成獣。
あらゆる魔物と戦ってきたマイですら実際に見るのは初めてである。そのレベルで個体数が少ないのだ。
(まずいわね……)
昔読んだことのある本に書かれていた事が事実であるならば、竜を遙かに超える力がある筈である。
それを踏まえてマイはこれからどう動くかを考えるが、何もいい策が思い浮かばない。逃げるにしても戦うにしても、さっきの攻撃スピードを見る限りどれもほぼ不可能に近いからだ。
すると合成獣が首を動かし、血のように紅い眼でマイを睨みつけたと思うと、その眼が淡く光り出した。
「──っ!?」
手が震え、脚から力が抜けていくのが分かった。心臓がこれまでに無いほど早く脈打ち、早くこの場から逃げろと脳が警鐘が鳴り響かせる。
ただ睨まれただけでこれだ。さっきのタローと同等……いや、下手をしたらそれよりも強い威圧感に、マイの全身から汗が滝のように流れ出していく。
「イテテ……だいぶ吹き飛んじゃったなぁ……」
そんな中でも、緊張感のないタローの声が聴こえてくる。
なんとかそちらへと顔を向けると、折れた何十本もの木を何とか乗り越えながらこちらへと歩いてきていた。
「ちょっと油断してたなぁ……。まさか、さっき逃した魔物達が森の主を呼んでくるなんて」
タローの言う通り、その漆黒の合成獣の周りにはさっき逃した魔物達の姿が見える。逃げたあと、そのまま身を隠すのでは無く森の主を呼んできたのだろう。
「えっと……マイさん。本当は巻き込みたくないんですけど……」
「分かってるわよ。そこら辺の雑魚敵は私に任せてちょうだい。こんな事……本当は言っては駄目なんでしょうけど、私じゃ確実にあいつを倒せないもの。お互い様ね」
この漆黒の合成獣は、ランクで表すとするなら間違いなくSランク以上。タローでさえも討伐できるかどうかは分からない。
だが、倒せる可能性があるのは間違いなくタローだ。
「……すいません。あの黒い魔物は僕が殺します。マイさんは他の魔物を対処して下さい。あのわんちゃんも任せました」
タローが言い終わると同時に、タイミングを図ったかのようにさっき逃げていった贋作である合成獣が他の魔物達を連れて姿を現してきた。
マイはため息を付くと、震える手を無理やり動かして剣を地面に突き刺す。
「……まさかFランク冒険者に命令される時が来るなんてね。ナズナに知られたら笑われるかしら」
マイは自分自身に対して鼻で笑い嘲笑すると、しっかりと前方にいる敵を見据えた。
「ここは任せないタロー! 死ぬなんて事は許さないわよ!」
「はい! では──」
タローの姿が消え去ったかと思うと、突如として衝撃波が発生し、漆黒の合成獣が勢い良く森の奥へと木を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいった。
マイはそんなタローの別次元の力に少しの間目を見開いていたが、すぐに持ち直し、地面に突き刺した剣に魔力を送る。
「さてと……私はタローほど甘くは無いわよ」
マイは淡く光る剣を引き抜くと、その切っ先を合成獣へと向けた。
「伊達にSランク冒険者をやってないって所を見せてあげるわ」