プロローグ
タイトルから〜世界最強のFランク〜を削除しました。
始まりの街。それはこの世界を旅する冒険者達が最初に訪れ、旅の準備を整える場所として有名な街である。そしてその一人、この世界にしては珍しく黒髪の青年は大きく深呼吸して、街の入り口から茶色の目を輝かせた。
「着いた……っ……!」
茶色い無地のシャツの長袖で額に浮かんだ汗を拭うと、そうだそうだとズボンのポケットの中で忙しなく手を動かす。
「ええっと……あった!」
そのポケットから取り出されたのは、一枚の紙。目的地へと辿り着くための街の地図である。と言っても完成度はそこまで高くなく、青年は街の地図と暫くにらめっこした後に、頭を掻きながら歩を進めた。
「うぶっ……! す、すすすすいません!!」
「おう、ちゃんと気ぃつけて歩けよ」
時に人とぶつかり、
「ここかな……って──」
時に女風呂に入り殺され掛け、
「こ……ここだよね……?」
「あぁ? 誰だテメェ」
「は……ははは──ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
時に盗賊の密会を覗いてしまった。
「ひ……酷い目にあった……でも……!!」
青年は深呼吸をして、地図と前にある建物を交互に確認する。間違いない、ここが、これこそが青年の求めていた冒険者ギルドだ。木製の扉の上には冒険者のマークであるドラゴンが描かれている。
青年はここに来るまでの道のりを思い返しながら、もしここが別の場所だったら……なんて心配が頭を巡る。今度は本当に殺されてしまうかもしれない、そんな恐怖が扉を開ける腕を止めてしまっているのだ。
「……僕はもう逃げない……」
青年は扉を開けようと取っ手を掴む。覚悟を決めろ、と自分を奮い立たせる。すると、青年が覚悟を決めるよりも早くその扉が自動的に開いてしまった。青年はどうしたらいいか分からないまま取っ手から手を離し、バランスを崩して地面に尻もちをついてしまう。
「あのー……大丈夫ですか?」
「いてて……あ……だ、大丈夫! です! 多分……」
手が差し伸べられる。その腕は華奢で、男ではなく女である事がそこから推測出来る。青年はその手を掴んで立ち上がると、助けてくれた人と向き合った。
冒険者なのだろうか。扉から流れる風で揺れる黒髪は腰ほどまであり、太陽光でキラキラと輝いている。顔立ちは可愛いというよりは綺麗よりだろうか、全体的なパーツが整っており、手入れを怠っていないのがひと目でわかった。そして落ち着いた深い青のフリルスカートに花柄の装飾が落ち着いたオーラを更に増長させている。
いや、こんな人が冒険者であると考えるのは少し無理があるのではないだろうか。やはり間違えたのでは無いか。
そんな考えがタローの頭の中で激しく暴れ回り、フリーズしてしまった。
「──っ……」
青年が暫くフリーズしていると、その女性が不思議そうに青年を見つめた。だが青年が持つ地図を見て目的を察したのか、笑顔を作り出す。
「もしかして、冒険者登録にきたんですか?」
「うぇ……!? は、はははははい!! そうです!」
慌てて答えると、女性はクスクスと笑いながら「付いてきてください」と青年を中へと案内した。
今の時間は人が少ないのか中はガラガラで、とても静かな空間だ。一部の中の作りが食堂のようになっている為か、青年は少しもの寂しさを覚えながらも受付へと辿り着いた。
受付嬢はその受付内へと入っていくと、笑顔を崩さずに紙を取り出し、男にペンと一緒に渡す。男は受け取ったはいいが、困惑した顔で受付嬢を見つめた。
「えぇっと……文字は読めるんですけど書くのがちょっと苦手で……」
「あ、大丈夫ですよ。それでしたら私がご質問致しますので、それにお答えいただければこちらで記入致します」
その言葉を聞いた男は安心したのかホッと胸をなでおろす。
それから受付嬢は出身地や年齢を聞いていく。男がそれに全て正直に答えると、受付嬢は「問題ありません」と紙の隅にサインの様なものを書く。
「では最後にお名前をお教え下さい」
「は、はい!」
受付嬢の言葉に男はひと呼吸おき、
「僕の名前はタローです!!」
と、満面の笑みを浮かべながら大きくはっきりとした声で答えた。