リーレイの町
翌朝
正確には、翌々朝
検証とかやってると、いつの間にか日付変わるよね。って感じだった。
バンテージ!
朝起きて閃いた。
……使える布がない。
という事で、『認証の指輪』を隠す方法は、また保留。次の町に行ってから考える。武器や防具も見てみたいし。あまり気にしすぎると、余計に仕草で目立っちゃうから、そのまま堂々とすることにした。
*
ボス狼の遺体を『始まりの町』近くの森に置いてきた。大木の下に、さりげなく。えっ、不法投棄? いいんです、これは。おそらく直ぐに見つかるから。疑問に感じながらも、喜んでくれるでしょう。現在進行形で悩まされてる問題が無くなったのだから。文字通り亡くなったからね。
町にも行かない。誰にも伝えない。
面倒事に巻き込まれたくないから。
その後の処理は任せればいい。
遺体は、討伐完了の証拠となる。火葬するよりは町のためになると、勝手に判断した。
これも自己満足。約束は果たした。
「自信が持てるようになったら、また討伐に参加する」
自分ではそう思える。倒しちゃったけどね。
で、『導きの祠』経由で、次の町に向かって歩き中。
モンスターとかにも遭遇していない。順調すぎて、怖いくらい。あれだけいたゴブリンさん達は? 祠に近づくと出てくるとか言ってたと思うんだけどさ。一度行っちゃえばスルーですか? ま、出ない方がありがたいんだけどね。
特に急いでいるわけでもないので、のんびりと。
歩け歩け運動、みたいな?
まだ見ぬモンスターとか出てくるかもしれないから、最低限の警戒はしているのだが、……平和だ。
こんなに歩くのは何年振りだろう? 何十年?
文明のおかげか? 車に電車、飛行機まであったんだから、そうそう長距離を歩かない生活をしていた。そういう恩恵は受けてきた。
せいぜい買い物で歩き回るくらいかな。
新鮮だ。なんとなく懐かしさもこみ上げてくる。
何が何でも便利になればいいってもんでもないからな。当たり前が当たり前じゃなくなるって、感情が揺さぶられる。
歩くスピードは速い方だけど、長距離はしんどいね。寄り道もしたから、もう日も傾いてきている。ぼちぼち野営準備かな。
迷うのは、小屋を出すか、シェルターで済ますか。テントを張るなんて論外。もっと簡単に安全確保できるのだから。テントはない。売っちゃうか? いや。それもないな。使う時はきっとある。あるはずだ。
で、突然道の近くに小屋が現れるのも怪しまれそうなので、シェルターにした。隠しようがないし。道っぽい進路から少し離れ、目立たない所に用地を確保。
《シェルター設置》ん、埋設か? まあどっちでもいいや。イメージが下に向いてるから結果は変わらんし。登録名は《シェルター》だけだしな、その時の気分ってことで。
あとはお決まりの住環境を整えていく。もう、プロだね。ちゃっちゃっちゃっで完了。流石に一瞬では無理だけど、5分もかかってない。
この周辺に畑でも作れば、念願のスローライフ? いや無理だ。肉食べたいし。獲物の解体とかできないし、できればしたくない。デリケートなんだよね。こう見えて。
そろそろテンプレイベント起きないのかな?
あ、シェルターにこもってたら出会いはないか。モグラじゃないし。まあいいや。風呂のが大事。
***
『ようこそ、リーレイの町へ』
何やかんやあることもなく、翌日、町に辿り着いた。
時短だね。
門の上の看板に書いてあった。門番さんが言うセリフじゃないの? 期待してドキドキしてたのに。
『始まりの町より大きい』
第一印象がこれ。門番みたいな兵士はいるものの、出入り自由で、特に待たされることもなかった。
警戒していた万引きゲートのようなものはなく、すんなり中に入れた。中継地点と言うには立派で、行き交う人も多く、商売の盛んな町のようだ。少し落ち着いて、情報収集することにした。
いずれ行くことになる王都だ、急いでも仕方ない。独りでいることに慣れすぎると、引きこもりたくなるからな。それも問題だ。
まずは、宿を確保しますかね。
門の近くをうろつけば、だいたい何とかなるもんだ。
「あった」
食事なし宿泊5000~10000、5時間休憩3000
朝夕食あり6000~12000エーン
なんで値段まで分かるかって? 宿屋の前のに置かれた看板に書いてあるから。なんて親切設計。明朗会計でわざわざ聞きにいかなくてもいいからね。お互いウィンウィンだ。
適当に選んで、とりあえず2泊押さえた。基本トイレは共同。風呂はなし。
受付で、武器、防具、服屋の場所を聞き、早速出かける。
それにしても、やっぱり外国に来たなー。他世界? 皆さん顔のホリが深い。男性はゴツくて顔が濃い。女性はモデルっぽく整っているが、体型はマチマチだ。深くは掘り下げない。食生活が悪くないって事だ。
ゲテモノとかまだ見てないし、食材も見たことあるような物ばっかだ。助かる。いちいち確認する手間も省ける。
まずは防具屋か。盾の看板。分かりやすい。ユニバーサルデザインってやつだな。だいたいの人が理解できる。
~~ユニバーサル・デザイン~~
文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計。
「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインにすること」が基本コンセプト。
■一般的な例
○絵文字
非常口、お手洗い、駐車場、温泉、禁煙、等々
○シャンプーボトルの側面にギザギザの「きざみ」をいれて、触っただけでリンスやコンディショナーと識別ができる。
さらに、ポンプタイプで使用時に手が触れるポンプ頭部にも同様の「きざみ」がついている。
○牛乳パックの「切欠き」
目の不自由な方が、牛乳と他の飲料を区別でき、また切欠きの付いている反対側が空け口とわかるもの。
種類別で『牛乳』と単独でいっていいのはこれだけ。
牛乳と言っても種類があるので、パッと見ただけで、牛乳とそれ以外に判別できる。こだわりがある方、健康を気にする方にも便利なデザイン。
~~牛乳類の種類~~
『牛乳』
搾ったままの牛の乳(生乳)を加熱殺菌したもの。
成分無調整。水などを加えることは法律で一切禁じられている。
「成分調整牛乳」
生乳から水分、脂肪分、ミネラルなどの一部を除去し、成分を調整したもの。
「低脂肪牛乳」
生乳から脂肪分を除去し、低脂肪(0.5%以上1.5%以下)にしたもの。
「無脂肪牛乳」
生乳から脂肪分を除去し、無脂肪(0.5%未満)にしたもの。
「加工牛乳」
生乳に脱脂粉乳、クリーム、バターなどの乳製品を加えたもの。
「乳飲料」
生乳や乳製品を主原料にビタミン、ミネラルなどの栄養分や、コーヒーや、果汁を加えたもの。
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うんうん。こういう発想ができる人、有用性を理解し、実際に使ったり広めている人達こそが素晴らしい。ブラボー。俺も助かるし。
*
「いらっしゃい。気軽に見ていっておくれよ」
あごヒゲの長い、白髪のおじいちゃん。
とんがり帽子かぶれば、魔法使いだよね。店間違えたか? あのデザインの意味が違うとか?
店内を見渡すと、盾や鎧といった「防具」だらけ。
良かった。間違ってなかったらしい。
防具は、旅人の小楯と厚手の旅人の服だけだから、もうちょっと防御力をあげたい。ぶっちゃけ素人だから、違いがよく分からん。
「軽くて動きやすい防具と、腕にはめられる物があれば見せて欲しいです。予算は、いろいろまとめて買うと安くなりますか?」
命を預ける防具をケチるつもりはないが、値引き交渉とか大好物だから、ついつい聞いてしまう。クセだね。
「ほうほう、そうかねそうかね。ちょっと待ってなさい」
今の装備(旅人の短剣、ナイフ、小楯、革靴、マント)と全身をチェックし、ゴソゴソ店内を漁りだした。
「こんなのはどうじゃ?」
持ってきたのは、茶色い剣道の防具? 面はない。胴、小手、垂に、肩当て。何かの皮製で、そんなに重くない。でもデザインが……
「重さは問題なさそうですが、もうちょっとシンプルに。戦いに行く装備というより、必要最低限で、長い旅用の丈夫な装備が希望なんです。言葉が足らずにすみません。あとこの小手のような装備は他にも種類はありますか?」
「ほうほう、そうかねそうかね。ちょっと待ってなさい」
持ってきた装備を戻し、希望に沿うような物を持ってきた。
おっ、結構いいかも。
体には、さっきよりも丈夫そうな左の肩当てと、胸当てのみ。内側に衝撃用の厚手の布を貼ってある。
少し重くなったが、トータルではさほど苦にならない。動きやすく、ショルダータックルとかできそうだな。
深緑に塗るか。薄黒いからダメだな。
キラーアントの外皮で、ナイフくらいの斬撃なら弾いてしまうらしい。そのぶんお高いんでしょう?
小手は、オープンフィンガータイプで、甲と腕の所に金属の縦長の棒が幾つか埋め込まれた物。
守備力で言うと甲冑のガントレット、動き易さで言うと忍者が着けてそうな厚手の小手って感じかな。実際に盾代わりにもなるし、小楯の装着にも支障のない薄手の物だった。金属は鋼。
色も、薄い黒をベースに鋼の銀色が渋みを出していてgood。普段使いできそうなデザインとスッキリしたシルエット。
指輪も隠せるし、申し分なし。そのぶんお高いんでしょう?
もうビンゴ! 即買いした。
魔法使いっぽいおじいちゃんは、ニコニコしながら、端数だけオマケしてくれた。フード付きのマントを色違いで2枚、長旅用のブーツも買ったからね。
ありがとう。
張り切って装備し直し、軽い足取りで武器屋はやめて、服屋へ向かった。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
『読む』楽しさを感じられる皆様。
評価していただけると、更に楽しくなるかもしれませんよ。この夏に一度試してみては?
よろしくお願いします。