リターンズ 2
…………
ん? 来たか?
雰囲気が変わる。サーッと空気の温度が下がるみたいな気配。デカい個体のお出ましだ。あれがボスか。確かに黒いな。
赤い目が、より際立って不気味に見える。
あんなんに森の中で遭遇したら、タダじゃ済まんだろうな。
冷や汗もんだ。
獲物を見据えて静かに歩み寄ってくるボス狼。
うわっ。鳥肌立った。これ、ヤベーやつだ。
だが、重役出勤たぁ、感心しないねぇ。
「ボスたる者が弾の後ろで観戦していては、勝つ戦いも勝てんよ。数の利も活かせまい!」
声を出して、自分を奮い立たせる。あれはヤバい。目を見てしまうと、つい立ち竦んでしまいそうになる。雰囲気に飲み込まれる前に先制攻撃を。
「『我が身を守り賜え』《石弾》×10(すべて大)」
ドンッ!ドンッ!……バッシャーン!
ボスを狙ってみるが、全てかわされた。かすりもしない。
「速い、な、なんという運動性だ」
ボスってのは伊達じゃないんだな。
シリーズの違いは気にしない。
目が真っ赤だからな、しつこいな。
赤は速くなる色だ。譲れない戦いがここにはある!
遊んでる時間もないし、楽しめる状況でもない。そもそもそんな趣味もない。てか余裕なんてないし。
アイツが攻撃してくる前に何とかしないと。もしかしたら、この櫓、崩されるかも……
イヤな事を考えてしまう。足場の悪さと、石弾の攻撃のおかげか、すぐに突っ込んでくる気配はない。だが、あの大きさとスピードだ、もしもがあるかもしれない。
だからこそ、
「見せてやろう、強化された『生活魔法』の威力とやらを!」
もう十分溜まったはずだ。髪の毛が逆立ってるのがわかる。金髪じゃなくてよかったよ。事案が発生するよ。俺はスーパーにはなれないからね。戦闘民族じゃない。
なんとぉーーっ!
「『我が身を守り賜え』《イカズチ》!!」
ボスを指差して叫ぶ。
ピカッ!バチバチッ!ッドォーーン!!
…… …… ……
バチバチッ、バチバチッ、バチッ……ッ
指先から放たれたイカズチが、あっ、という間もなくボス狼を貫いた。そう、貫いていった。
避ける間もない。恐らく理解できなかったと思う。俺でもそうだから。即死を期待したわけではなかったのだか、結果としてそうなった。
ピクリとも動かない。絶命だ。
狙いは、感電による麻痺。濃霧と放水によって、少しでも水に濡らす。電流を流れやすくするためだ。軽度でも痛みと痺れ、重度なら感電死に至る。と。
広範囲に影響を及ぼし、麻痺させる。その後に《矢尻弾》で止めを刺す。こういう作戦だった。
結果としては成功だ。だが、作戦としては……
まだまだだな。改良の余地はある。威力が有り過ぎた。嬉しい誤算だ。《帯電》時間の調整が課題だな。
「『我が身を守り賜え』《矢尻弾》×20」
ドシュッ!…………
止めは刺す。麻痺してるのもいる。
今回は逃がさない。
「悲しいけどコレ、戦闘なのよね! 遊んてるわけじゃない。やられる前にやる。これは決意だ!」
一番殺傷力の高い《弾》、《矢尻弾》を惜しみなく放ち続けた。
…………
「こんな所で朽ち果てる己の身を呪うがいい!」
ちょっと言い過ぎた。でも言いたかった。
締めにはいいんじゃないかと判断した。独りだから言えたんだよ。
おそらく、あのボスと森でやり合ってたら、ヤラれてたかもしれない。こっちは独りで、あの数と、あの敏捷性。もし勝てたとしても、ボロボロだっただろう。気付く前に狩られてたかもしれない。
今回は、下準備できた時間があったこと、作戦、それに運の要素が大きかったと思う。そう思わされた相手だった。『生活魔法』が強化されていなければ、多分立場は逆だった。俺は今立っていないだろう。二度と御免だな。ああいう規格外とは対峙したくない。
前回の時とは規模が違う。辺り一面の残骸の数々。
焦げたニオイと立ち込める煙と土埃。表現するなら合戦の跡。一方的だったけど。
終局である。
ボス狼の遺体だけはアイテムボックスに回収しておく。
所々炭化していて、見るに堪えない。
だが、受け止める。俺がやったのだから。乗り越えて、前を向こう。
決意をさせてくれた。ありがとう。
襲われたのだから正当防衛だ。というつもりもない。こちらもヤル気だった。これは戦いだ。
魔力に関しては、やはり分からなかったな。これだけやって、だるさも感じない。まだ発動できるということは、『生活魔法』が特別なんだろうと結論付けることにしよう。
魔力も問題なさそうなので、敬意を払い《火葬》を行う事にした。もう暗くなっているが、このまま放置は気が引けるし、今は暗いほうがありがたい。酷いからね。朝日はスッキリ拝みたい。
ということで、
《大規模火葬》遺体を焼却し、埋葬する。その名の通り《火葬》の大規模版。強化されたからなのか、敬意が伝わったのか、スムーズに発動し、ほどなくして処理が完了した。
「そのうち俺にも時が見えるようになるのかな?…………」
《穴埋め》《土均し》で、はい元通り。
今日の成果
強化された生活魔法の検証
有用性の確認
モンスターを討伐するという気概を得た
やり切った達成感
達成したことによる自信
魔力量は考えなくても大丈夫
また1つ、大人の階段を登った。
戦闘時間としては短いものだっただろう。たが、朝から砦の強化と探索。そしてこの戦闘、片付けだ。
もういっぱいいっぱい。
ここはやはり……
「風呂だな」
疲れを癒やすにはこれが一番!
風呂は思った以上に体力を消耗するから、ヤバい時には入らない方がいいとは思う。脱水症状も怖いしね。
だからこその、《癒やしの光》だ。もう無敵だ! 俺の風呂を邪魔する存在はいない。独りだし。邪魔する存在(敵)がいないからこその無敵だ! 最強だからじゃない!
反対される理由(敵)がないのだよ。だからこそ、
「風呂入ろ」
…………
ちゃぽ~~~ん。
「ふぅ」
砦の風呂もいいね。旅人の小屋の代わりに、誰かの為に作ったけんだけど、結局一番乗りは俺だし。
気にしない~気にしない~気にしない~
望みは高くて果てしないからな。
とっちめちん。
そう言えば、やっぱりレベルアップとかないのな。
あんな強敵とか、数ヤったのに、身体に変化なし。
レベルアップ音聞きたいなぁ。
鳴らないかなぁ、軽快に心地良く。
もしかしたら、微弱だけど実は変化してたりして?
なんだかなー。
レベルアップによる身体機能の上昇と、
『生活魔法』の魔力量無関係と、
さあ、どっちがお徳?
うーん。他の指先持ちを確認したいよなぁ。
簡単にはいかないだろうけど、これも確認事項だな。
でもなー。俺でも教えたくないもんなー。
よっぽどのお人好しか、圧倒的な強者でもない限り厳しいわな。まぁ、いろんな可能性は否定せずに、進んで行くだけだな。
そろそろ《ジャグジー》もいっときますか。
「あああああぁぁ」
足の伸ばせる《浴槽》《癒やしの光》《ジャグジー》
電球色間接照明、スマホBGM
「極楽じゃ~~」
…………
「ふぅ~~」
俺は、どうしてこんなところへ来てしまったんだろうか。
王都に行きさえすれば、何らかの答えが見つかるのだろうか。
まあ、行くしかないんけどね。
「あーー、やっぱりビール!」
読んでいただきまして、ありがとうございます。
『生み出す』『書き続ける』楽しさ、苦しみをご存知の皆様。そんな方々に真面目に評価していただけると、今後の動機付けにもなり、更にやる気にもなれる単純な生き物です。
どうぞよろしくお願いします。