赤い目をした野獣 リターンズ
旅人の砦に戻ってきた。
順路で言えば、次の町に向かう事になるのだが、どうも気になった。『始まりの町』の野獣だ。
一度気になりだすと、もうダメだ。そういう年頃なのだ。仕方がない。
ただ、何の策もなく、気になったから行くという事でもない。
逃げていった奴らの方向に行ってみれば、もしかしたら。という事だ。あれだけ仲間がやられても平気で向かってくるようなヤツらが逃げ出したのだ。何かある。と考えるのが普通だと思う。
じっちゃんの名にかけるまでもない。
始まりの町に寄らなかったのは、食料の問題もないし、また感知されるのもなんだかな、と思ったから。それと、『攻撃の手段』を見せびらかすような気もなかったからだ。見せないに越したことはない。
独りというのは危険ではある。数の脅威は重々理解している。それでも挑むのは、『約束を果たす』ためだ。
戦闘していた戦士達と並んでいられるように、自信をつけ、再度討伐に参加すると。だからやる。
もしかしたら、もう片付いているかもしれないが、それはそれ。探索している地図には、この砦の向こう側は入っていなかった。あの時点では。
あの野獣は、狼。赤目のモンスターだ。
群むれのボスは、黒い大きな個体で、ある程度の知能があり、厄介な存在として苦労していた。まだまだ可能性はある。とみている。そして、早めに片付けないと、更に悪化していくだろうと。ならばやれることをやる。
櫓で見渡し、探索エリアを広げ奥へと進む。それなりの数がいるのだから、何かしら見つけられると考えている。後はこれの繰り返しだ。
流石というか、やはりというか、何も見つからなかった。初日からは期待していない。そんなうまい話はないからな。
幸いなことに砦は変わりなかった。ヤバそうなままだ。誰か訪れたような形跡もなかった。必殺の《洗浄》祭りでスッキリさせた。快適だ。
シェルターと比べてはいけない。そもそものコンセプトが違うのだから。砦と言っているが、俺が作った力作だ。ワンルームマンションと変わらない快適さがウリだ。石たけど。
今日はこれまでにしようと拠点に戻る。
あのモンスターは狼だ。もしかしたら夜行性なのか? ふと疑問に思い、薄暗くなった外の様子を見てみることに。
「おう。ビンゴか」
赤い鈍い光が近づいてくる。
あちこち廻ってニオイを残してきたからな。追ってきたか。
「よし。見せてやるぜ今回は徹底的にな」
躊躇しない。甘えはみせない。壁を越えてみせる。
こうなる事を見越して更に砦の要塞化を進めた。
お堀を深くしたり、城壁っぽくしたり、櫓建てたりね。
こっちは独りだから、動きやすいように動線を考える必要もない。壁をくの字にしたり、星形にもしていない。すぐにできた。要塞職人になれるよ。本格的に作るなら、もっと拘るけどね。
もう来ちゃうとは思わなかったよ……
ここを攻略するには、軍隊が必要だ。でもこっちは独りしかいないから、簡単かもよ。
「さあ、始めよう。新たな一歩だ」
急いで櫓にのぼる。格好つけてる場合じゃない。
ここ大事。あんなのと同じ土俵で戦いたくないよね。
うわ。めっちゃ赤い。
オームが怒ってるの? ねえ。怒ってる?
グルル、グルルと唸り声が夜の静寂に響く。連日の討伐隊の成果といえるだろうか、殺気立っている。
やっぱり怖い。生命の危機を感じるとはこういうのをいうのだろう。独りだしね。余計に怖さを感じる。
仲間が欲しいな。でもなー。面倒も増えるしなー。信頼できる人って都合よく簡単には見つからんよね。運命の出会いなんてねー。偶然助けたり、拾ったり、買ったり? そんなんすぐにあるわけないじゃん。どんだけー。だよ。
打算に駆け引きもある。一度助けられたくらいで忠誠までは誓わんわな。信頼関係ってのは、ゆっくり培っていくもんだ。相手の性格、好き嫌い。何に対して怒りを覚えるのか。まだまだ挙げればキリがない。簡単に友達とか言ってるから、矛盾に堪えられなくなって、心が病んでいくんだ。そういうもんだ。
いつまでも変わらず付き合える人なんて、何人も出てこない。親友なんて1人いれば万々歳。つかず離れずの距離感。ヒトとの付き合いには腹六~八分がいい。これはいろんな人が言っていた。俺もそう思う。
勢いのある時には見守り、困った時にこそ現れる。本物の友人だ。空気のような存在。理想だね。難しいけどね。
相手にだけ求めない。心地よい時ほど、ほどほどに。お互いに気を遣わず過ごせるなら、よい関係を保てるはず。なんにせよ努力は必要。
…………
またやってしまった。でもフラグだよ。立てたよ。いつもより長めに立てたよ。気持ちも込めた。よろしくね。
おしゃべりは面倒くさいから、おとなしい感じがいいなぁ……、でも、元気なのもそれはそれで悪くないしなぁ……
はい。
切り替えるよー。もうそこまで来てるよー。
魔力量の有無の確認もある。調子には乗りすぎないように自分に言い聞かす。しっかりと引き付けてから。
まだだ、まだ始めんよ!
「《帯電》」今のうちから貯めておく。
「《濃霧》」霧を発生させ、〈送風〉で指定した方向に徐々に広げていく。屋外だし広範囲だ。視界を遮るような効果はないが、何となく雰囲気は出てきた。
「《身体強化》」自身の身体能力にプラスの補整加える。
〈水〉による軽度の疲労回復、体温調整、水分補給、〈風〉による抵抗軽減、追い風。
「吹き飛べ!《放水砲》」ッドッシューーーーー
非致死性の兵器。高圧力水噴射。火の消化にも使用される。今回は違う目的もあり、ますは牽制。これくらいじゃ逃げないよな。殺気立ってるし。
「ダブルでいっとけ!《放水砲》」ッドッシューーーーー
ギャンッ、キャウン
両手からの放水。狙いは定めず広範囲に散らす。それでも流石暴徒制圧用。直撃を受けた狼は、軽く吹っ飛んでいく。
しばらく続けるが、一匹も逃げない。大したダメージはないのか、すぐに体勢を立て直し、また向かってくる。
この櫓には登りようがないんだけどね。ハシゴもないし、返しも付けたから。ネズミ返しからぬ、野獣返し。
飛びついてはくるが、脅威は感じない。慣れるものだな。
少しは削っておくか、怖いから。
「『我が身を守り賜え《石弾》(大)』」
ドシュッ! バッキャーン!
アイテムボックス内の弾を利用した発動。
クリティカルヒットだ。初だな。幸先いいな。
「まだだ、まだ終わらんよ!」
ざっと周りを確認、
「《石弾》×10(すべて大)」
ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ…………
減った気がしない。打ち漏らしもあるが、何匹いるんたよ。10? いや20以上か。まだ赤い目が集まってくる。
最終決戦なのか?
仲間という意識もないのか、我関せずって感じだな。連携もないのな。ボスはいないのか。まあいい。
もっと近くにおびき寄せたいからな、遠いのから更に削っておくか。
「ほら、こっちだ! 登ってこい!」
「《放水砲》」ッドッシューーーーー
周り一面、水浸しだ。お堀による高低差と水ににる足場の悪化。自慢の敏捷性も台無しだな。それでもメゲないハートの強さは尊敬に値するよ。
赤目の特徴なのか? 感情とかはないのかな?
モンスターだって言ってたから、そういうもんなのかもな。人は問答無用で襲われるのか?
始めからずっとそうか。ここまでやられたらそういうものだと納得もできるな。よし。モンスター認定です!
ん? 来たか?
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