古今閑話集 4
本日2話目の投稿になります。ご注意下さい。
『始まりの町』で町長兼パーティーの斥候役をしている『マーシュ』だ。
驚愕したと言っていい。俺たちが4人組ではないかと勘ぐったヤツがいたと。なぜ分かる。
そう。俺たちは冒険者ギルド登録をしていたパーティーで、組んでもう長い事になる。だが、この町に来てからは、そうそう4人で行動する事はなかったはずだ。それを初見で看破するだと! 何者だ!
その後、すぐ理解する事になった。
そいつは『指輪持ち』だったようだ。しかし、『緑』の『ニューフェイス』でそれができるのか? そういう『能力』なのかもしれない。そう思うようにして、乱れた心を落ち着けた。
この町には、これまでにも沢山の『指輪持ち』が訪れては消えて行った。文字通り、他所へ旅立って行った者もいれば、死んで逝った者もいる。小さな町で、大した産業もないが、平和で穏やかな所がウリだ。それなりにいい町だと思っている。だからこの町に来た。
この町は『始まりの町』。俺が産まれるもっと前は、別の名前だったそうだ。記録には残されていないが、ごく一部の者には、そう伝えられている。
『テンプレ』を起こさせないためだそうだ。『テンプレ』の理解はできなかったが、他にも、この町からギルドをなくしたのはそのためだとか。馬車が襲われないよう、定期的な巡回や周辺のモンスター討伐を頻繁に行うよう依頼されているのもそうらしい。
そのために俺たちはギルド員としてではなく、傭兵として雇われ、この町にいる。報酬もいいし、いい町だと思ったから依頼を受けた。体力の衰えを感じ始めたタイミングで出された依頼に飛びついたという経緯もある。
4人ともそうだ。
リーダーは戦士のガイ、
マルチに何でもこなすアオール、
守備力がダントツで盾役を好むティガ、
性格から町長もやらされている斥候のマーシュ
ガイ、アオール、ティガ、マーシュ
全盛期には、息もつかせぬ連携を得意とし、いかつい風貌と浅黒い素肌から、「黒い4連組」と恐れられたものだ。今では懐かしい記憶だ。
それから、『ニューフェイス』には、あまり町をうろつかせないよう注意するように。などもあったか。宿の手配をして、丁寧に接すればいいらしいので、大した負担ではないのだが、やはり『テンプレ』の理解はできなかった。
これはごくごく一部の者にしか通達されていないのだが、『指輪』には『色』によるレベルの違いがある。
「シルバー」に始まり、「緑」、「赤」、「青」、「黒」、「金」、「赤黒マーブル」の7段階。鮮明な単色ではなく、濃く深い色なので、よく見ないと見分けられない。
さすがに「金」は目立つだろうが、俺はまだ見たことがない。そもそも『指輪』なんてものは、誰もが身につけられる物で、同じような色もあるくらいだ。『指輪持ち』の指輪と普通に売られている指輪の区別はできないと思う。俺からすれば、『感知装置』があるから分かるだけだ。
* *
挨拶もそこそこに、マニュアル通りにいろんな事を伝えた。
俺の顔が怖いのか、町長と斥候を兼業してることが意外なのか、驚いた表情を見せていたのが印象的だった。
~指輪持ちについての重要事項の説明~
●禁止事項
素性を探る
能力を聞く
その存在を広める
過剰な接触
●マニュアル対応
目上の者に報告する
一般人として扱い、保護する必要はない
●伝達事項
今この町にいる人数
何人いるか分からない事
どこにいるかも分からない事
王都を訪れる必要がある事
無為にひとつ所に長く留まれない事
●不確定要素
使命の有無
~~~~~
これまでの『指輪持ち』の印象を聞かれ、
我々には理解できない特別な存在
大いなる力を持った存在
生活を向上させてくれる存在
技術を革新させてくれる存在
混乱の対象になる存在
火種になる存在
女性好きな存在
と記憶を辿りながら答えた。
面倒事に巻き込まれてしまった感を漂わせ、ため息をついていた。特に『指輪持ち』が善くも悪くもしでかしていると知った時、表情がコロコロ変わり分かりやすかった。指輪については知らない者の方が多い。と教えた時には少しホッとしていたか。
彼の『能力』については、詳しい報告は上がってきていない。『何かある』『身体能力』『謙虚さ』『素直さ』くらいだ。
彼も『能力』を振り回し、有頂天になってしまうのだろうか。いや、この反応からすると無い。物怖じしない態度といい、思慮深い受け答えといい、先を見通すような鋭い視線、それに加え警戒心も強いときている。そんな人物が、他者を顧みず、自分勝手にしでかしてしまうとは考えにくい。
俺がそんなことを考えていると、今後への警戒心からか、引き締まった顔に変わる。覚悟を決めた顔だ。イヤらしい笑みや傲慢な態度も見られない。現実的で謙虚な性格なのだろう。思考の闇は深そうだが、周りからの報告と同様に、悪い人物ではないと評価した。
さてさて、彼はこれからどのルートを進むのか。
無事『王都』に辿り着けるのか。
その後に何を為していくのか。
また1つ、楽しみが増えたようだ。
読んでいただき、ありがとうございます。