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古今閑話集 3

 本日2話投稿します。


 討伐隊の隊長をしている『ウラガ』だ。


 この忙しい時に、『反応あり』の報告を受けた。


 連日の野獣討伐、町長との打ち合わせ、下準備、討伐隊員募集、ギルドへの報告、作戦会議、警備員の調整、討伐実行、報告を受け、まとめる。事後処理、各所に報告……まだあるぞ。日々の業務もあるからな。普段は町長付きの警備をしているんだ。そっちの報告もあがってくるから、かなり忙しいんだ。そんな時に『反応あり』だと。


「それで今度は何色だ?」

 またいつものように『緑』か?


『緑』は『ニューフェイス』。面倒だが、ここでの印象次第でどう転ぶか分からないから、待遇(たいぐう)にはくれぐれも注意するよう何度も指導を受けた。敵を作るか、味方になるか。それくらい重要な事だと。


『青』は『一般人扱い』。『青』なら待ってましただ。誰が来たにしろ、こんな時にありがたい。この討伐隊に参加依頼をしなければ。おそらく受けてもらえるだろう。そういう人達のはずだ。


『赤』は『指名手配』の要注意人物だ。最悪だ。何かよくない事が起こるという警告だ。私はまだ遭遇したことはないのだが、話は聞いている。チートを振りかざし、やりたい放題。怒らせると手に負えないと。それだけは勘弁してもらいたい。



 良かった。『ニューフェイス』だ。

 対応した門番から直接話を聞き、人物像を確かめる。町長と今後の対応について相談しなければな。


  * *



 討伐隊の打ち合わせを終え、『指輪持ち』を捜した。すぐに分かった。周りとはずいぶん違う雰囲気、装備も簡易的な軽装で、事前に話を聞いていなければ、まさかと思っただろう。戦えるのか? そう聞いてしまいそうなほどだ。


 傭兵のリーダー、『ガイ』からの報告によれば、

 ()が言うには、森で野獣の群れに襲われ、返り討ちにした。野獣を5匹(ほふ)った。数匹は逃げていったと。

 実際に戦っているところを見たわけではないが、ウソを言っているようにはみえなかったし、その実力はあるのではないかと判断したと。


 私は、私の目で、彼を見極めなければならない。そういう役目だ。



「この討伐隊の指揮をしているウラガだ。あなたがタビトかな?」

 失礼にならないよう気を遣いながら、討伐隊への協力をお願いする。こういう話に慣れているのか、すんなり交渉に入ってきた。反応は悪くない。


「そもそも、数が増えた原因はわかっているのですか?」

「飼いならしたりはできないのですか?」


 そんな質問をされるとは思わなかった。どういう人物なんだ? つかみ所がない。戦闘における強さとは違い、一筋縄ではいかない(したた)かさがある。どんな修羅場をくぐり抜けてきたのだろうか。そう思わせるような強い意志をその言葉に感じた。


「後方支援ということでよければ参加しましょう」

 それでいて、警戒心も強い。兵士というよりは指揮官向きなのだろうか。見ている視点が違う。


  *


 パーティーの最後尾に彼をつけて森に入る。動きは素人。森での戦闘などしたこともないのだろう。そういう足取りだ。問題になるようなレベルでもないので、そこには触れず先に進む。


 我々にとってみれば大した距離ではないのだが、慣れない者にとってはヒドく疲れるはずだ。足場も悪く、索敵(さくてき)の緊張もある。にも(かかわ)らず、平然とした顔でついてくるとは。やはり(あなど)れない。これが『指輪持ち』か。見た目に左右されてはならない。教えられた通りだ。



 休憩(きゅうけい)後、更に奥へと進むと、戦闘が始まっていた。

「あっちだ! 加勢するぞ!」

 各々(おのおの)が戦闘態勢をとりつつ、急いで現場を目指す。


 *


 皆が戦っている中、彼は恐怖で立ちすくむでもなく、参戦するでもなく、状況を1つ1つ確認するかのように観察していた。



 これは大物だ。私は、こんな人物を見たことがない。

 討伐隊に初めて参加し、自分のチカラを誇示(こじ)するでもなく、かといって足手まといにもなっていない。まさに後方支援だ。連携した事もないというのに、そういう立ち位置にいるのだ。


 何かをしそうな気配はあった。それが何かは残念ながら見られなかったが、隠し球がある。間違いない。


 私の仕事は、『テンプレ』を起こさせないようにする事と、できるだけ『能力』を探る事。



 今回の討伐数は全部で25。まずまずの成果だ。


 私の成果は、『何かある』、軽々と野獣を持ち運ぶ『身体能力』、「何もしてないから、参加料だけで十分です」と報酬を返却するという『謙虚(けんきょ)さ』を知れた事だろうか。


 しかも、次回の参加依頼に対し、

「いや、今のままでは足手まといになりかねないので、やめておく事にします。皆さんと並んでいられると自分で思えるようになったら、また参加します」ときた。私はつい、


「そうか、それは残念だが仕方がないな。何を求めているのかは分からないが、町長に会ってみてはどうだ? 討伐完了後に紹介するつもりだったが、何かのキッカケくらいは(つか)めるかもしれないぞ?」

 こう(うなが)してしまった。それくらいはしてもいい人物だと判断したからだ。


「町長ですか? 都合がつくようでしたら、是非お願いしたいです。頼めますか?」

 彼には『素直さ』もあると付け加えなければな。


「ふっ、分かった。手配しておこう。なんだ、もういい顔してるじゃないか。これなら討伐への再参加も早そうだな、ははは。

 あっ、そうだ。宿はもう1泊取ってある。(つか)いをやるから、明日は宿にいてくれ」



 いい仕事をした気がする。こういう疲れは悪くない。そう思える出会いだった。




 読んでいただき、ありがとうございます。

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