古今閑話集 2
本日2話目の投稿になります。ご注意下さい。
僕は『始まりの町』で門番をしています。まだ配属されたばかりの新人です。毎日緊張しながら立っています。
平和な町だから、いつものんびりしてるけど、たまにモンスターも出たりするから、巡回もそれなりにしています。ここのところ野獣の数が増えていて、討伐隊が組まれるようになりました。
いつもとは違う空気に緊張感が増して疲れます。そんな時でした、あの人がこの町にやって来たのは。
1人で旅をする人もいなくはないのですが、珍しいので注目してしまいます。モンスターがいる森の中を1人で旅するなんて、よほど強いのか、ワケありのどちらかです。
その人は、ずっと町の壁を見上げながらやってきました。
小柄でうっすらとした顔、装備からしても戦士には見えません。魔法使いなんでしょうか。黒髪は珍しくはありませんが、なんでしょうか、こちらをみてホッとしているように見えます。1人旅は大変ですから、町に着いて安心したんでしょうね。
その人は、少し警戒しながら門をくぐりました。
この町には入場料はありません。政治のことはよく分かりませんが、気軽に行き来して経済を回すには不必要という事だそうです。僕には難しい話ですが、入場料がない方がありがたいのは間違いないと思います。受け取る手間もかかりませんし、僕は助かります。
この町の門には、『指輪持ち感知装置』というものが設置されていて、『指輪持ち』が門をくぐると反応するようになっています。
詳しい事は教えられていませんが、反応した時には直ちに上司に報告するよう厳命されています。まだ一度もその対応はしたことはありませんでしたが、その時が訪れました。
その黒髪の旅人が門をくぐると、パァーっと感知装置が反応しました。両方の板がうっすら緑色に光った事から『ニューフェイス』です。
初めての『指輪持ち』が『ニューフェイス』で良かったです。思わずホッとしてしまいした。動揺を悟られないように心を落ち着かせてから、しっかり仕事をします。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん。何かありましたか?」
「少しあちらで時間をいただきたいのですが……」
ドキドキしながら話しかける。場合によっては大事になるので、なるべく穏便に、気分を害する事のないよう指導されています。
「いや、特に問題があったわけではありません。少し協力いただけないかと思いまして。あなたは指輪持ちですよね?」
「……そうだが、なんだ? 面倒事なら断るぞ。早く休みたいんだ。着いたばかりだからな。理解してくれ」
しまった。対応を間違えてしまったのかな。どうしようどうしよう。でも時間を稼いで留まってもらわないといけません。経費は出るって聞いてるし、マニュアル通りに宿に滞在してもらおう。
「……そうですか。そうですよね。それでしたら、こちらで宿を手配しますので、明日にでもまたお時間をいただけませんか?」
「ワケくらは聞いても?」
「はい。ここではなんですので、こちらへどうぞ」
とにかく、座ってもらって、不快感を与えないように、こちらの現状を話してみよう。
「実は、ここのところ野獣の数が増えてまして、治安の方でいろいろ問題になっているのです。町でも傭兵を雇ったり、ギルドにも依頼を出したりしているのですが、思ったよりも野獣の数が多く、怪我人も出ているような現状なんです」
「それで俺とどう関係するのかな?」
「失礼ですが、指輪持ちということは、それ相応の戦力を有するお方かと。入場審査で反応があった場合には、話をするよう指示を受けております」
正直に話した、あとはどう動かれるのか。それに合わせるしかない。
「協力しろと?」
「はい。依頼という形になりますが、報酬もしっかりと用意させていただきます。」
「その依頼料の中に宿の手配も入ると?」
「いえ、それとは別になります。明日の朝の作戦会議で話を聞いていただければと」
ここまではマニュアル通り。依頼と報酬があることを話し、次に繋げる。
「話を聞いて、参加しないこともありか?」
「はい。それは構いません。現状を聞いていただければ。勿論、依頼を受けていただけるのがありがたいのですが、無理は言いません。検討いただければと」
「話は分かった。だが断る」
「……」
言葉が出なかった。分かったって、いい感じで言ったのに。だが断るって? そんな言い方初めてです。語気が強く、イントネーションがおかしいような気もしたのですが。僕の知らない合い言葉か何かでしょうか。少しパニックです。
「すまん。言ってみただけだ。朝の会議とやらには参加させてもらう。それと、こちらも少し質問いいかな?」
良かった。何かの冗談みたいだ。満足げにしながらも、少しはずかしそうにしています。会議に参加していただけるのなら、僕の交渉はここまで。良かった。悪い方じゃなさそうだ。でも言葉が出なかった。僕には使いこなせそうにないような破壊力がある言葉でした。
その後は、一般的な物の値段を聞かれました。初めての町ですから、そういう不安もあるのでしょう。しっかり受け答えしました。
そして、不意に出された財布からお金を見せられ、また驚かされました。白金貨なんて初めて見たんです。凄いお金持ちなんですね。羨ましいです。僕のお給金なんて……
「……はい。問題ありません。銅貨、銀貨、金貨、白金貨まで……、この町で使える貨幣ですが、白金貨は、そのぉ……あまり目にしない貨幣ですので、使えない店のが多いと思います」
それにしても全部で200万エーン以上は軽くあるということです。何でもない事のように話してますが、凄い大金ですからね。お金持ちの感覚は理解できませんでした。
その後、宿と食事の手配を速やかに行い、対応はここまでとなりました。
どっと疲れました。でもすぐに上司に報告をしなければいけません。最優先事項だそうです。
はあ、今日はまだしばらくは帰れそうにないですね。
読んでいただき、ありがとうございます。