ブラックアウト
『王都ファーダム』恐るべし!
宿代たけー。食事無しで安くても1万エーンから、今までの町の倍! 2倍! 2倍! って古っ! 全然笑えんわ。もう二度と来たくない都市、認定でーす。
でもせっかく高い金払って入ってきたのに、すぐ出ていくのも負けた気がする。ちっくしょー。何かイライラすると思ったら、しばらく風呂に入っていない症候群だった!
こりゃあいかん。てことで、宿の受け付けで確認したら、あるってさ。渋い声で「あるよぉ」だってさ。公衆浴場なるものがあるらしい。
で、早速GO!
*
久しぶりの、ちゃぽ~~~ん。
誰得だよ。
「いや~~、生き返りますなぁ。ふい~~」
さすが王都。いい風呂持ってるね。また来たくなるね。このクオリティ!
「いや待て! これはおかしいだろ!」
これ、銭湯だよね。四角のタイル貼りとか、壁にフジヤマ描いてあるし、桶にはカエルのマーク描いてあるぞ。こんなカエルもいるのね。
じゃなくって! 木桶バージョンだし、黄色のプラスチックが懐かしいなぁ……って、プラスチックは流石にないか。しかもカエルのマークじゃなくて、ホンモノはカタカナの文字だし。色々気を遣ってんのかなぁ。あ、コラボか! コラボレーションしちゃったんだな、何かと。そう思うことにしよう。
何かツッコミ疲れたわ。ツッコミと確認と懐かしさとで、思考がぶっ飛びだわ。癒やしの場所なのに、逆にテンション上がったわ。
しかぁもっ! ヒノキ風呂発見!
この香りは間違いない。断言できる。
ヒノキ風呂は本当に手入れが大変で、知らないと、すぐにヌメリやニオイ、カビが発生して、下手をするとヒビ割れもしてしまう。だから、お風呂への思い入れがなければ、こんなの作れない。だからこそ癒やされるんだよねぇ。
「ふぃ~~」
~~ヒノキ風呂のお手入れ~~
こまめな清掃で、汚れを定着させない。
最も重要な点は「乾燥」で、お湯を溜め残さず、使用後はでけるだけ冷めないうちに排水し、浴槽を傷つけないように柔らかい素材の布やスポンジで拭く。
自然乾燥が理想で、換気扇や窓を開けて風を通す。直射日光はヒノキの寿命を縮めてしまうので避ける。
「乾燥」させ過ぎても、木が割れを起こし水漏れが多くなるので、湿度にも気を遣う必要がある。
長期間使用しない場合には、よく清掃し、水を入れたバケツを浴槽に置くなどして風呂のフタをしておく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作ってくれた人。ありがとう。お風呂への愛を感じるよ。
フジヤマも綺麗で癒やされるわぁ。
という事は、風呂上がりには間違いなくアレだよね。分かってるよね? 期待しちゃうよ。
「あ~~、いい湯だったぁ」
やっぱいいね。疲れもすっ飛ぶよ。
でも腰巻きタオルがすっ飛んだよ。全裸だよ。
扇風機? ですか? おーーい。形状は扇風機っぽい。羽根があるのと、無いのもあるぞ。最新式か? スゲーな。でもケーブルもないぞ。あれか、魔石で動いてます、的な?
あ、そうらしい。スゲー。
俺、感動。また感動。あるんだね。作ったんだね。誰かが。
「ぷはー。うまーい、もう一本!」
牛乳も、コーヒー牛乳も、フルーツジュースっぽいものまで売ってるし。風呂上がりの冷えた飲み物は、身体を冷やしちゃうからホントはよくないんだけど、今日はいいや。許しちゃう。
人目があるから、腰に手をあてる飲み方はしてないよ。ほんとだよ。手がいきそうになるのを堪えたよ。今日一番大変だった。無意識って怖いね。
でもハッキリした。日本からの『指輪持ち』がいる。か、いた。間違いない。この『お風呂愛』を体現させるだけのパワーと能力を持っているのは、善良なる日本人だけだ!
嬉しいね。ここを作った人とは素直に会いたいと思えるね。仲良くなれそうだし、楽しみだ。
今日1日のイヤ~な負のオーラは、きれいサッパリ洗い流れされたね。風呂だけに、ね。
*
宿までの帰り道、湿ったタオルを頭の上に乗せたくなるのを堪えながら、夕食の店を物色した。『日本の風呂』に入ったせいか、和食が恋しくなった。もうだいぶ夜も遅くなっているので、適当に選んで済ませることにした。
旨いが高い! 旨いから高い? いや、旨いけど高い!
高ければ旨い? 高いから旨い? いや、高いけど旨い!
血流がよくなったせいで、余分に頭も回る。
要は、確かに旨いと思った、でもそれにしては高すぎだよね。ってことね。感情を入れると、これかなり高いよぉー、でもまあ旨いとは思うよ、間違いなく味は旨いよ。って。
何言ってんだろ。やはり高い事がストレスなんだな。俺ってばデリケートだから。
*
うん。王都に来て良かった。
今日はいい夢見れそうだな。
「あばよぉ!」
*■*■*■*■*■*■*■*
そうきましたか。
やってくれますね。
またやられました、惨敗です。
これはお手上げ。
寝れませんでした。いや、寝た事にはなるのか?
『王都ファーダム』恐るべし!
まさかの《夢お告げ》。
指輪の装着は関係なかったようです。そもそも王都の門に感知器なんてなかったんだね。あるのは『始まりの町』だけだって。ははは、いい気になってごめんなさい。
一方通行の情報垂れ流し大作戦。どこからか聞こえてくる音声のみ。指輪から?
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
「おはよう『指輪持ち』君。」
突然で驚いたでしょ? まずは、ここまで無事にたどり着けて良かったよ。この『世界』を体験してみてどうだった?
もう分かってると思うけど、ここは君が前にいた世界とは『別の』世界だよ。未来とか過去とかのレベルじゃないんだ。根本的に『違う世界』だと思って間違いないよ。概念自体が違う。理も異なるからさ。そういうのが好きなら研究すればいい。素直にあるがままを受け入れられれば、その方が早いと思うよ。その方が簡単でしょ。
そう、『魔法』も『モンスター』も『ダンジョン』もあれば、いろんな『種族』もいるんだ。どんな種族がいるかは、自分の目で確かめてよ。そういうのが好きなら楽しめると思うよ。
基本的に『悪いヤツ』はいないから、安心していいよ。一番怖いのは『人間』だから。それは前の世界でも同じだったはずだよ。はは。そこは、気をつけなよ。『命の重さ』の価値観が違うから、これ要注意だよ! 『来てしまった』からにはこっちの世界に早く慣れないと、あっさり死ぬよ。
なぜ僕や君が『この世界』に来たのかは不明だ。神様とか現れなかったよ。白い空間とか、ドジった女神とかもいなかったよ。君はそういうのが分かる人?
ちなみに僕は、巻き込まれたり、刺されたり、交通事故に遭ってないから。君はどうだった?
僕の小説とは全然違ったよ。ははは。今ならノンフィクションで面白いモノが書けそうだよ。
『認証の指輪』は、僕からのプレゼント。『能力』はランダム設定だから、僕でも分からないんだ。
当たりだったら感謝してよ。チートって言うけど、ムチャはしないでよ。
ハズレでも恨むのはヤメて、使いようだと思うからさ。『言葉』には不自由しなかったでしょ? それもその『指輪』のおかげ。ね、恨んじゃダメだよ。あくまでも僕からの余計なお世話だから。プレゼント・フォー・ユーだ。大事にしてよ。
『財布とお金』は、『初代からの遺産』だよ。僕も貰ったけど、ありがたかったよ。こっちにきたばかりで、右も左も分からない状態での資金援助だからさ。世の中お金持は大事だって痛感したよ。だから君も感謝して大事に使って下さい。
残念ながら、『前の世界』に戻る方法は見つかって無い。あるかもしれないけど、僕には見つけられなかったよ。自分でもよく調べた方だと思うけど、期待してたのならごめんよ。自分でどうにかして。一応、未練を断ち切って生きる事をお勧めするよ、経験者として。
あと、これは分かる人だけに。
『始まりの町』では、テンプレが起きにくいように『教育』しておいたけど、どうだった? ここまでがチュートリアルって感じでいいと思うよ。どう、わかりやすいでしょ?
「そこで今回の君の使命だが、…………」
特にないんだよ。良かったね? 残念だった?
あっ、『魔王』とかは…………内緒。自分で調べて。
あっと、そろそろ時間だ。明日も《メッセージ》があるよ。1回じゃ入りきらなかったんだ。でもね、明日の方がこれからを生きていく為には大事な話だと思うよ。プレゼントもあるんだ。
ふふ。おたのしみに。
*
「例によって、君もしくは君のパーティーが捕らえられ、あるいは殺されても僕はいっさい関知しないからそのつもりで。全部自己責任だよ。なお、この《テープ》は自動的に消滅する。成功を祈る。よい人生を!」
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
俺スパイするのかよ。どこの大作戦だよ。導火線に火がついて音楽流れちゃうのか? ジャジャーンって流れるの?
はあ。こんなすごい魔法あるのね。
えーと、でもありがとう。ちょっとスッキリできた。
ツッコミどころは沢山あるけどさ。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
もう評価のお願いなんてしませんよ。さすがに毎回はうざかったでしょう? ふふふふ。
後ろを振り返ると……
キャーーー!
何かありましたか?