王都潜入 奴隷商館と教会
「おはよう」「……」
よく寝られるな、この揺れで。これも才能か。
日の出と共に『サウンの町』を出発。
何事もなく、特筆する事もなく、何を語るでもなく、昼休憩後、しばらくして、あっさり王都に着いてしまった。
『指輪』を外して門をくぐった。
何も起こらなかった。はんっ。どうだい。
試してみることにした。万引き感知器みたいなのがあっても、指輪外してれば、反応しないんじゃね? って思って。
勝った! 何故なら指輪は光らなかったから。
ふん、だ。
いい気になったのも束の間、王都に入るには、すごーーく時間がかかった。門をくぐってからが長かった。でっかい外壁の門と、居住区画へ入るための門。
一人一人荷物までチェックされ、何しに来たかのか質問までされて、一番疲れた。悪い事してないのに、ネチネチやられてる気がして、気分も悪かった。しかも、入場料1人1万エーン。1人1万エーン! 2度言って強調したよ。
「はぁっ?」
思わず叫んだよ。なにそれ。1万て、どんなボッタクリだよ。
2人で2万だよ。当たり前だけどさ。足し算できるよ。これくらいなら暗算さ。報酬の持ち出し更にマイナスだよ。マジですか。結局2日で報酬6万か。まあ、俺の分出してもらって、お小遣い貰ったって考えればOKか。はあ、こりゃあ頻繁には来れんわな。
ホント高い。毎回金払いたくなければ、ここの市民になるか、ギルドに登録しろということか。来る者拒んで去る者追わずってか? 違うか。それだけ魅力のある都市という事か、安心と安全があると。
国からすれば面倒事は避けたい。よそ者はその典型。最低限の金がなければ来なくて結構。市民やギルド員ならば、身元の証明もあるので、そうそう悪い事はできないから安心と。信頼をなくせば、同じ所ではやっていけないからね。商業ギルドが簡単に登録させないのも、こういう事かもね。
うーん。この国の成熟期とみるか、飽和期、まさかの衰退期と捉えるか。これまた非常に重要な検証課題ですな。まさに今だからね。はあ、次から次へ……
~~ライフサイクル~~
人生の経過を円環に描いて説明したもの。
商品が市場に投入されてから姿を消すまでの流れ。
情報システム、運用管理、改善計画などの多くのビジネス現場で使われ、国についても適用できる。
「導入期」→「成長前期」→「成長後期」→「成熟期」→「飽和期」→「衰退期」という段階をたどる。
ちなみに、人間のライフサイクル(成長の8段階)は、
乳児期→幼児期→児童期→学童期→思春期・青年期→成人期→壮年期→老年期となる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こりゃ、気軽に出入りできんぞ。お金稼ぎにちょっとひと狩り、なんてやってられない。その度に入場料払うなんて絶対嫌だ。勿体ない。計画的に動かないとな。
まずは依頼をやっつけますか。
歩いて聞いて、歩いて聞いてを繰り返し、ようやく奴隷商館に辿り着く。外敵に備え通りを入り組ませるのは、まあ分かる。だが、分かりにく過ぎ。まだ何かと戦ってるの? 地図もないのかよ。どんだけだよ。
ふー。
「ここが王都の奴隷商館ですか?」
おっきな館の、おっきな扉の前に立ってる、おっきな人に尋ねた。
「……そうだが、なんか用か? 見せ物じゃないぞ」
「そんな所にいたら邪魔だろ。あっちへ行け」
客かもしれないっていうのに、態度わるっ。いちいち不愉快にさせてくれる都市だ。俺のデリケートな感情はマイナスに傾きっぽなしだぞ。
見た目なの? 顔? 格好? 泣いちゃうよ? いいの?……
負の印象は、ちょっとやそっとじゃ改善しないんたぞ。分かってんの? 第一印象が相手の感情に及ぼす影響は、取り返しがつかないくらいに大きいんだぞ。俺、根に持つタイプだよ。
~~第一印象の重要性~~
人は初めて会う人を数秒のうちに見た目で判断する。
その時判断した印象が、その後もずっとついて回り、何をしてもその印象を通して見られてしまう。
●とあるアンケート結果より
【異性の第一印象で最も気になるポイント】
1位 目
2位 表情
3位 気にしない
4位 話し方
5位 スタイル
●相手を受け入れるまでの4つの壁
第一の壁【外見】表情・服装・髪形・体型
第二の壁【態度】姿勢・しぐさ・立ち振る舞い
第三の壁【話し方】声の大きさ・言葉遣い・テンポ
第四の壁【内容】話の内容
●第一印象をよくするポイント
清潔で不快感を与えない身だしなみ
姿勢、態度、仕草に気を付ける
自然な笑顔で落ち着いて接する
はっきりとした口調で挨拶をする
相手の目をふんわり見て話す
焦らず落ち着いて、動作はゆっくりと
(見られたい自分像を意識して上記を実践)
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教会からの書状を渡すと、コロッと態度が反転。非常に丁寧な扱いで部屋に通される。腰を低くして、もみ手の商売人だね。
何が書いてあるのか知らないけど、教会からの依頼を受けてきた人物だからね。怪しくないはずだ。面倒かもしれないけど、場合によっては、そっちにメリットのある話だと思う。商売道具の奴隷連れてきたんだからね。もしかしたら、ここの商品かもしれないんだよ。もっと労えっつーの。
話はトントン拍子に進んで、奴隷商と共に教会へと向かう。
なぜ、奴隷商預かりのはずの『色無し』奴隷が独りでいるのか。確認してもらったが、『対』となる所有主はここにはいなかった。
よくよく調べると、『主の腕輪』との登録がされておらず、『隷属の首輪』をはめられただけの状態で、この子の身体にも何の問題もないとのこと。
早く奴隷商の所へ行く必要がある。とか言われて急いできたのに、ホントはほっとして喜ぶところが、なんかハメられた? って思ってしまった。
この子がしゃべれないのは、『首輪』の影響かもしれないと思っていたから、余計にガクッときた。首輪の状態が正常に戻れば、声も出せるようになるのではと少し期待していた。
声が出せないのと首輪は、まったく関係ないってことだ。先天性か、病気やケガが原因とか。強いストレスでも受けたのか? まあ、今は考えても仕方がない。
ではなぜこんな状況になっていたのか。
こんな子供が奴隷商から逃げ出せるはずがなく、首輪をはめられた直後に何らかの事故で奴隷商が死んだか、殺された。
あってはならない事だが、奴隷狩りに合い、途中で逃げ出した。
なぜか拾った首輪を、アクセサリーと勘違いして自分で着けてしまった。
他にも考えられるとすれば、何かのトラップ? 俺をハメるため? 何のために? うーん。分からん。
奴隷商の先導により、教会にやってきた。
書状を渡し、しばし待機。
先ほどとは違い、最初から応対は落ち着いていて応接室に案内される。暖かい日差しと、穏やかな風が流れていた。
俺としては、これでお役目御免。とっとと報酬を受け取って宿を押さえに行きたいのだが、そうもいかないらしい。
まあ、この子がどうなるのか、結果くらいは知る権利もあるかもね。知りたいとも思うし。
少しして、司祭を名乗る男性と、他にも数名やってきた。慣れない環境に緊張するも、奴隷商とのやり取りを聞いているだけだった。どこに行ってもこの場違い感。いつもの事だね。
結果こうなった。
理由は分からないが、『隷属の首輪』は外す。
費用は教会が負担する。
この子は教会の預かりとなる。
俺の役目はこれにて終了、ご苦労様と。
不明な点の残る『首輪』を簡単に外しちゃって大丈夫なのかとも思うけど、そこは教会のチカラ、いや信用。教会に預かると言われてしまえば、奴隷商も何もいえない。金も受け取ってるしね。
「では、ありがとうございました。宿の手配もまだですので、これで失礼させていただきますね」
立ち上がり報酬を確認する。
あっさり、すっきり流れ、応接室を後にした。最後に了承をもらい、別れの挨拶をさせてもらうことに。
「『首輪』がすんなり外れて良かったな。声が出せないから苦労はするだろうが、そのおかげでこのまま『奴隷』にならずに済んだとも考えられる。買い手がついたとしても安いらしいから、奴隷商としてもうまみがないんだってさ。それに、教会なら理解もしてくれてるみたいだし、安全に暮らしていけると思う。
まあ、その辺も分かってると思うけど、短い付き合いだったとはいえ一緒に旅をした仲だ。
何があっても考え方ひとつで、とらえ方も変わる。気を落とさず、前を向いて生きていってくれよな。そうすりゃそのうち何かいいことあるかもよ」
また無意識に頭を撫でてしまったが、もう気にしない。長ったらしいセリフも気にしない。最後だからね。
「…………」ふんふんふん。
勢いよく絶対的な意思表示で返してくれる。本当に頭のいい子だ。笑顔でお別れしよう。
立ち上がり、右の掌を向け最後の挨拶をする。
「じゃあな、エコー」
「…………」
穏やかな笑顔で佇んだまま、祈りの仕草で感謝を返してくれた。
「……あ…り…が…と…う……」
読んでいただきまして、ありがとうございます。
『生み出す』『書き続ける』楽しさ、苦しみをご存知の皆様。
たまには評価もしてみませんか?
ならば、癒やしのひと時を。
キリのいいこのタイミングで、ちょっと水分補給。
身体にうるおいを。ちょくちょく補給をクセにするといいらしいですよ。
そして、ちょくちょく評価するのもいいらしいですよ?