登録しちゃう?
翌日、もやもやしながら冒険者ギルドへ向かう。
昨日の子供の達のイヤな感情が残ってるみたいな感じ。
忘れずに、宿を追加で2泊押さえた。食事も寝床も合格ライン。今回は食事なしにして、外食を楽しむ事にした。ほぼ外食みたいなもんだけどね……
冒険者ギルド。長いからボケルド、ボウギル、ボルドー、ワインかっ! 意味は違うけど、略してボードへ。
普通にギルド。
絡んでくるヤカラも当然のごとくいない。
何の役にも立たんし、邪魔だし、時間の無駄だし、ギルド側からキツイお叱りいくよねフツー。大事な大事な労働力ですから。そんな暇があったら働けと。
信頼関係を築きこそすれ、ヘタに構うヒマもないよね。敵対するメリットが三者にはない。ギルド、俺、他のギルド登録者。組合員? ギルド員? 聞いとこ。ギルド員だって。
ここで登録した人は『リーレイの町のギルド員』と言うらしい。略して……リギ、ごめんなさい。
組織対組織なら、いざこざはあるかもしれないけどさ。俺、独りだし。こちらから行動を起こさない限り、相手にされないよね~。
突然ですが、なんと、所持金が70万エーンを切っていた!
そう。装備と衝動買い。追加の衝動買い。2日で100万以上使うって、俺すげーー。
なかなかだよね。中古車とか買ってないよ。いのちを護るための出費です。仕方がないのです。その分稼げばいいんです!
王都までは問題ないと思うけど、社会人? 大人としては早く収入のメドを立てたい。減ってく一方だと、俺のデリケートなガラスのメンタルにくる。
□財布を確認すると、残金610,500エーンでした。
「魔石の買い取りをお願いしたいのてすが」
昨日とは違う受け付けの人が2人。笑顔で応対してくれた。
「ありがとうございます。それでしたら、あちらの奥にあるカウンターまでお願いします」
柱で見えなかったが、少し行くと案内板がちゃんとあった。
「ありがとう」軽くお礼を述べ奥に向かう。
フロアに人がちらほらいる。冒険者だとしか思えない。装備をつけて、狩る気満々の力強さが漂っている。人種が違うのでは? と自分を疑いたくなるくらいの差がある。
人それぞれ。ナンバーワンは目指してない。
オンリーワンだよね。
自分を慰め、買い取りカウンターへ。
「魔石の買い取りをお願いしたいのてすが」
「ありがとうございます。では、ギルド証と買い取り希望の魔石をこちらにお願いします」
笑顔でトレーを差し出してくる。
ちなみに、『ギルド証』は国や町で『身分証』の代わりにはならず、あくまでも、『冒険者ギルド』内での証。
「登録はしていません。これが魔石です」
小分けにした袋を3つ、カウンターに置く。
赤い魔石。ゴブリンさん×57、スライム×4、狼×43。
ゴブリンさんは、『導きの祠』に行く途中と、祠内の計57、スライムが4、砦で討伐した狼が43、全部で104個。ちなみに、ボス狼のはない。そのまま手をつけずに置いてきたから。
「よろしいのですか? ギルド員でないと、買い取り金額が引かれてしまうのですが」
「はい。どれくらいの差があるか分からないので、正直その金額を確かめようかとも思ってます。」
「そういう事でしたら、査定しますので、しぱらくお待ちいただけますか?」
番号の書いた木札を受け取り、待ち合いのベンチへ腰かける。
周りを見ていると、みな3~5人のパーティーを組んでいる。依頼を受けて次々と出て行った。日の高いうちに片付けたいのは当然だしね。打ち合わせして、準備が完了すれば、ここに用はないわな。
やはり、テンプレはやってこなかった。みんなオトナだね。いや、これが普通か。どこかテンプレを期待してる自分がいるのも不思議だ。
アホなこと考えてたら、番号を呼ばれた。
「こちらが買い取り金額の明細になります。お確かめください」
おう。なんて礼儀正しいんだ。どこぞの飲食店や夜のコンビニなんかより、よっぽど心がこもってるぞ。
経営者でもなければ、客のありがたみは理解できないのかね。責任の意識もないのが当たり前で、自分の応対がその店の顔になっている感覚すらない。教育の質の問題、圧倒的な人材不足。怒られるとすぐ辞めちゃうからな。まあ、俺も人のことは言えなかったけどさ。
それに引き替え、ここの接客は素晴らしいね。自分だけでなく、相手の立場も考慮できている。誇りを持っているんだろうね。仕事にも、自分にも。少しの笑顔でも気分は変わる。どうせ働くなら何かを見つけて楽しまなくちゃね。
うん。俺も頑張ろう。
さてさて、いくらになったかなぁ?
□買取明細書□
種類 数 単価 持込 小計
スライム魔石 4 150 100 400
ゴブリン魔石 57 3000 2500 142,500
ブラウウルフ魔石 43 4000 3500 150,500
―――――――――――――――――――――
合計 104 293,400
計算は持ち込み単価で、
通常だと合計343,600、差額は50,200エーン。
今回は数が多いからあれだけど、許容範囲な気がする。これからのモンスター遭遇率にもよるけど、素材の買い取りも出していければ、生活はしていけそうだ。
5万は大きいけど、登録のデメリットもある。今のところ何かに縛られたくない。王都に行って何が起こるか、何も起こらないのか。状況を確かめてからでも遅くはないし、急ぐ必要もない。慌ててる時ほど判断を誤りやすい。
ま、登録はまたの機会で。
「はい。ありがとうございます。これなら、今回は登録はなしで。またゆっくり検討します」
「そうですか。これくらいの討伐ができる方には、登録して依頼を受けていただきたいのてすが、残念です。
ですが、今後、素材も出せるのであれば、やはり登録しないのはもったいないです。前向きに考えてみてくださいね」
「そうですよね、ゆくゆくはそうなるかもしれませんが、今すぐにはちょっと決められないです。ご忠告どうも」
「はい。またのご利用お待ちしております」
取り引きが無事完了し、受付嬢が緊張を解いた去り際、踵を返し、人差し指を立て質問の了承を促す。
「あ、ひとつよろしいですか?」
「……はい。なんでしょう」
「少し気になった事がありまして……」
**
「どうもありがとう」
ひとつと言いながらも、ガッツりお話を伺った。
残金903,900エーン
――――――――――
「おいっ、そっちはどうだったよ」
「ふんっ、何を偉そうに。何様よ!」
「まあまあまあ、私達が敵対したらここにいる意味がないでしょう? 話を戻しましょ。それで、どうだったのかしら?」
「けっ! ……こっちにはいなかった。『始まりの町』まで行ったってのによぉ。クソッ」
「ふんっ、ちゃんと『祠』にも行ったんでしょうね? 手抜きして中に入らなかったとかじゃないの?」
ガタッ
「あぁっ! んだテメーは、ケンカ売ってんのか? 表出ろや!」
「もうっ! すぐそうやってケンカ腰になる! 2人ともやめなさい! 話が終われば、しばらくは会わないで済むのだから、少しは我慢しなさいな!」
「そっちのヒステリーに言ってやんな。俺は見てきた事を話してるだけだ」
「ふんっ、誰がヒステリーよ。このイカレ野郎が!」
「はぁ……、あなたがそれだけイライラしてるって事は、そちらにもいなかったという事ね? 違うかしら?」
「ふんっ、そうよ。こっちには形跡も見られなかったわ。行ったのは『導きの祠』で間違いないわ。そいつがいなかったって言うのなら、どこかですれ違ってたか、もう死んでんじゃないの」
「けっ! こっちは『祠』に向かう途中に戦闘の跡はあったが、それらしい奴は見かけてねぇ。生きてりゃ分かる。てこたぁ死んだのかもな。クソッ」
「あなたが見かけてないと言うのなら、もういなかったという事でしょ? 死んでるかどうかは別の話よ」
「ふんっ、当てになるのかしら、そいつの鼻は」
「ああん!」
パンっ
「もういいわ。やめにしましょう。死んでしまった可能性もあるけど、引き続き『独り』でいる人物で、『変わったウワサ』があれば注意しておきましょう。いいわね」
「おう。いないんじゃ意味ねぇからな。俺は戻るぜ」
「ふんっ、これだけ経っても現れないって事は、もう死んでるわよ。せっかくこんな所まで来たっていうのに、空振りとか笑えないわ」
「はいはいはい。じゃあ些細な事でも情報を掴んだら、ちゃんと報告するようにしてくださいね」
ガタッ、ガタッ
コツコツコツコツ…………
『読む』楽しさを感じられる皆様。楽しんでますか?
評価してますか?
この手強さは、伊達じゃない!
楽しくなったそのパワー、見せて下さい。
よろしくお願いします。