なんだかねぇ
さてと、けっこう時間も使ったし、どうしたもんかね。
明日でもよかったけど、時間あるから食料の買い出しに行こう。おう。
保存食はもう買ったから、それ以外で何か面白そうなもん探しますかね。
「へい、らっしゃい!」
かけ声はどこも変わらんね。
「旬のオススメとか、珍しい果物とか入ってますか?」
「おう、見かけない顔だなぁ、新入りかい? 今の時期だとこいつだね、ほらよ、食べてみな」
いきなりの強制試食。しかも強引さを感じさせず手渡してくるとは、商売上手だねぇ。こんなに食べさせられたら、マズすぎない限り、買わざるをえんわな。やるね。
「だが、うまい!」
どれもいける。酸味があって疲れに効きそうなのとか、甘くてデザートになるのとか、恐るべし、まだ大ハズレがない。
「そうなんですよ、来たばっかりで。あ、これとこれと、あれもください。3つずついくから、ちょっとオマケしちゃってください。よっ、太っ腹!」
「……お、おう、何者だいあんちゃん。その勢い、さてはプロだな」
「……何のプロかは分かりませんが、ただの旅人てすよ。やだなぁ」
「「ははははは……」」
「まいど!」「ありがとう、また来ますねぇ」
おうよ、と手を振って見送ってくれた。こういうやりとりは人間味があって楽しいな。ちょっと休憩しよ。
しばらく真っ直ぐ歩くと、噴水広場があるらしい。
*
おっと。剣が二本十字に交差した看板を発見。
「武器屋きたー」
ヤバい。行かなくていいやと思ってたけど、見つけちゃったからは行くしかない。突撃だ!
カランカラン
「おう。いらっしゃい。何の用だい」
おお、武器屋っぽいガッチリムチムチ筋肉のオッサンだ。黒いぞ。ヒサロか? 天然光か? テカテカ塗ったらコンテスト出場できるぞ。
「キレてますね。うらやましい」
「おぅ、何言ってんだ兄ちゃん。冷やかしか?」
いかん、最近というか、こっち? に来てから、思った事が口から出てしまう。意識しないと、ヤバいな。
「すいません。取り扱い重視で、護身用の武器を探してます。予算は10万エーン前後で。何かおすすめありますか?」
確か、始まりの町の兵士が装備してた剣が10万だったはず。
「そうかい。護身用ね。軽いのがいいってことだな。ちょっと待ってな」
すーっと足音も立てずに店の奥へ。
へっ? 似合わん。忍者か! あのガタイで忍び寄られたら、ちょーこえーな。死去確定だろうな。うわぁー。おとなしくしてよー。鳥肌もんの想像してしまった。
はぁ。こんな時に『鑑定』能力があればなぁ。
掘り出し物とか、業物とか見つけて、お得な買い物できる可能性があるのになー。いいよなぁ、あれ。一度やってみたい。違いが分かる男ってやつ。
「……っ」って、いつの間に。声が出んかった。
「何ぼおっとしてんだ。病気か?」
「ちょっと疲れが溜まってまして……はは……」
「……」
憐れんでくれるんですね。顔に出てますよ。
同情するなら情報よこせってね。
持ってきたのは、レイピア。
細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣。
旅人の短剣より長い。思ったほど軽くはないが、扱い難くはなさそうだ。この細さを頼りなく感じてしまうのは素人だから? 護身用には丁度いいのかな。短剣も一度も使ってないけどね。距離を取れるのは嬉しいかな。
「こういうのって、魔法が付与された物とか、魔法を流して使うような物ってあります?」
「おう。あるぞ。値は張るけどな。それなりの物じゃないと武器が耐えられないだろ。だからどうしても高くなっちまうんだ。10万エーンじゃとても無理だ」
「ちなみに、このレイピアに何か付与すると、おいくらに?」
「攻撃、防御、補助系統。付加する強さにもよるからな。最低の補助系統でも30万エーンはかかるぞ」
おう。ヤッパリお高い値段設定。やめとこう。
あれれぇ~~? おいらの《雷》って、今更だけど使えるよねぇ。金属との相性バツグン?
出ました。衝動買い大作戦! 買うしかない。
ここじゃできないから、町を出たら検証しよ。
ふふふ。ヤバい。嬉しさが顔に出てるのが分かる。早く買っちゃお。
「これだけ、いただきます」
「……ありがとよ。あと、しっかり休めよ」
優しい人だった。肌が黒くて、筋肉がゴツいだけで。また、いい出会いをしてしまった。
《雷》と剣ときたら、あれしかない。何で今まで思いつかなかったんだろうね。あっ、剣抜いて戦ったことないや。
あははぁ。即解決! お楽しみは、あ・と・で。
*
今度こそ噴水広場へ。
やはり休息は必要だ。レイピアをサクッと収納し、スタスタ歩く。
イメージ通り、緑の芝生と噴水のある風景。チョロチョロと水が流れ落ちる。これはこれで癒やされますなぁ。ザ、噴水広場。町の憩いの場所かな。
近くのベンチに腰かけ、少しのんびりすることにした。
「あ~。疲れた」
予定外の行動でテンション上がっちゃったから、水の流れでも眺めて落ち着こうかな。
* *
行き交う人たち、ゆっくり動く時間。
〈水〉がココロを落ち着かせてくれる。
時計を気にしなくなったからかな、モヤモヤがなくなってスッキリした感じ。規則正しい生活は大切かもしれないけど、時間に追われ、管理されてたのかな?
電磁波の影響を受けなくなったせいか?
雷は貯めるけど……
ジャンクフード食べなくなったから?
保存食多いけど……
早寝早起き効果か? 早寝してないな。
むしろ寝不足……
体をよく動かすようになったから?
戦闘激しすぎだし……
あれっ? なんでスッキリしてんの?
…………
「ん、何やってんだ?」
悲しい思考にふけっていると、子供達がワイワイやり出した。感じの悪い雰囲気がここからでも見て取れる。やれやれ、どこにでもあるのな、いじめか。
独りの子を数人がかりで取り囲み、何か言いつけている。
うーん、どうしよっかなー。でもなー。あー。
見てしまったものは仕方がない。行きますか。
「何やってんだ! おい、危ないだろ!」
近づいて、すこーしキツめに話しかける。服を引っ張ったり、手で突っついたりしてじゃれている。暴力とまではいかないが、いじめはいじめ。言葉も手も出すとは、お仕置きが必要だな。
「なんだよ、お前には関係ないだろ、あっち行けよ」
「「そうだ、そうだ、あっち行けー」」
「関係は、ある。俺はここにいるからだ。《帯電》小」
密かに〈帯電〉発動。ふふふ。登録しといてよかった。
「何言ってんだ、こいつ。」「ヤバいやつだー」
言ってくれる。
「そうです。私がヤバいやつです」
ガキ大将っぽい、悪ガキに手を伸ばす。
バチッ!
「いってぇっ」「っ……」
初めてだからな、俺もちょっとビクッとなってしまった。恥ずかしいなぁ。分かっててもビビるんだから、悪ガキにはチト怖いかもね。バチっと一瞬痛いし。
「ほら、痛いだろ。お前たちのせいで、俺も痛いんだぞ。分かるか? そっちの奴らも痛くなるのか?」
他の子供達を見回し、手をゆっくり伸ばす。
「何言ってんだ、こいつ。」「やっぱりヤバいやつだー」
「ヤバいよー、こいつ」「逃げようぜ、ヤバいよ」
ふん。必殺、ワケわからん事言って、ビビらせ大作戦だ。まいったか。こっちも精神的にくるんだぞ。両刃の剣なんだぞ。やったのは静電気だけど。
悪ガキ達は、わーわー言いながらドタドタと走っていった。お決まりのセリフを言うには、まだ早すぎたようだ。あれくらいの歳で「覚えてろよ!」とか言われたら逆に怖い。
「さてと、で、大丈夫か? ケガは?」
座り込んでいた男の子らしき子供が立ち上がりもせずに首を振る。
「服が汚れてるじゃないか、ちょっと立ってみな」
「……」
「別にイヤがることはしないから、子供は素直に言うこと聞いときな」
悪いお兄さんじゃないよ。とは言わなかった。成長したもんだ。
「……」
「イヤなら無理にとは言わないよ。余計な事して悪かったな」
ふるふる首を振る。
「ん? 言ってることは理解できるのか?」
ふんふん、と上下に首を動かす。
ん? なんか首につけてんな。首輪か?
「……もしかして、しゃべれないとか?」
ふんふん。
「……じゃあ、ちょっと立ってくれるか?」
ふん。
ゆっくりと立ち上がる。さすがに大きな傷とかはないみたいだな。転んで服が汚れたってとこかな。
「ありがとう。服の汚れをはたくよ」
ふん。
よし。
「痛いとこはないか?」
ふん。
「よし。じゃあ、家に帰れるか?」
…………ふん。
寂しげな表情が気にはなるが、ここまでだな。
「よし。じゃあな」
手を振って見送った。訳ありっぽいけど、今の俺ではどうにもならない。無責任に中途半端に関わってはいけないと思う。
家庭の事情とか、病気とか、踏み込んじゃいけないラインだと思う。こんな感じになるのは分かってて声をかけた。ある意味偽善だよね。
まあ、よしとしよう。
一度こちらを振り返ったので、軽く手を振って見送る。
とぼとぼ歩く後ろ姿が、なんか切なかった。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
思った以上に手強いですね。
評価していただけると嬉しいのですが、現実はそんなに甘くないようです。だが断る!
どうぞひと手間、お願いします。