第10話 朝の光 ⑥
「ユウト、お前はぐしぐし泣いたりわめいたりして、さんざんオレさまの手をわずらわせてくれたけどな、そんじょそこらの魔導師にだって簡単にできねぇような事を、キッチリやりとげたんだ!」
「う、うん」
「いいなユウト!お前は最初っから最後までずーっと泣き虫のまんまだった……。でもな、でもなぁ!お前は絶対に、絶対に弱虫なんかじゃなかったぞ!このオレ様が保障してやる。お前のことを弱虫だなんていうヤツがいたら、場所なんか関係ねえ。そんなヤツはオレ様がぶっとばしてやる!」
「あ、ありがとうクーラリオ!」
本当に力強い応援をもらって、やっぱりがまんできずにポロポロ泣き出してしまう勇斗。その様子に、みんなもやっぱり涙ぐんでしまうのだった。
そしてとうとう別れの時が来たのだが、その前に一番大きな問題が待っていた。
「ところでおじいちゃん、ユウトくんの記憶はどうするの?」
「決まりでは、地上の人間に魔導界のことを知られるのは禁止されておる。決まりに従えば、確かにユウトくんの命をうばわぬまでも、記憶は消しておかねばならぬ」
ゲオルギィが言っていたのは本当のことだった。
魔導界の決まりでは地上の人間に魔導界のことを知られてはいけないと決められていたのだ。その決まりを守るためなら、地上の人間の記憶を消すどころか、魔導師の判断次第で命を奪うことさえ許されているほど。
「や、やっぱりボクは今夜の事を、みんなの事を忘れなきゃいけないんですよね……」
サナはがっくりと肩を落としてうなだれる勇斗の両肩をしっかりつかんで、元気づけると、マーダルの方をキッとりりしい目でみすえた。
「白銀の魔導師マーダル様、私は反対です!」
「青銅の魔導師サナよ、それはなぜじゃ?」
お互いに魔導師としての名前でよびあうという事は、これは身内ではなく仕事としてのやりとりということ。
「ユウトくんはマーダル様の力を借りていたとはいえ、魔法の力を使いこなし四つの結界を解いて精霊とも契約を結び、これまで我々がやったことのない方法でクラヤミを元に戻し、そしてゲオルギィの逮捕に活躍してくれました。彼は魔法を使いこなす才能を、魔法の力を間違いなく持っています!」
「つまり、ユウトくんは地上の人間であって地上の人間でない、と言いたいのじゃな」
「魔法の力を感じ取るだけでなく、あそこまで使いこなせたのです。例外が認められると思います」
二人の間に流れる空気は、ピリピリと緊迫し、肌につきささるようだった。だが、マーダルはゆっくりと表情をくずして答える。
「ふむ。青銅の魔導師サナよ。お前の考えはわしと同じじゃ」
「だったら……」
サナとユウトの顔が明るくなる。
「うむ。基礎は全然できておらんが、ユウトくんは特例中の特例として、魔導学校の初等教育卒業の資格を与えよう。これでユウトくんは地上在中の特別資格の魔導師として認められることになる」
「やったぁ!」
サナもクーラリオも飛び上がって大よろこび。
「おじいちゃん、本当にいいの!?」
「ふむ、こう見えてわしは四十七人の白銀の魔導師の代表を押しつけられておってな、腕をみとめた魔導師を任命する事ができるのじゃよ」
「キャー!おじいちゃん最高!」
マーダルに抱きついて、ぐるぐると小さい子供のように回るサナ。
「あ、あの……」
勇斗はたどたどしくたずねてきた。
「初等教育の卒業ってどういうことなんですか?」
自分の記憶が消されずにすんだのはわかった勇斗だったが、自分がもらった資格というのが良くわからなかったらしい。すぐにクーラリオが教えてくれた。
「それはな、ユウト。お前は入学もしてないのに魔導師の小学校を卒業できる実力があるって、認めてもらって、卒業した事にしてもらったんだぞ」
「ええっ!?」
大きくおどろいた声を出した勇斗。きっとうれしかったに違いないと思ったのだが、どうも様子がおかしい。
「そ、そんなぁ……」
勇斗はショックを受けたらしく、しょんぼりとしてしまった。
「む?」
「どうして?うれしくないの?」
「だ、だって……」
ゆっくりと口を開いた勇斗の答えは、マーダルにもサナにも、クーラリオにとってもビックリするものだった。
「だって、入学式もしてないし、クラスで友達も作っていないし、授業だって受けていないし、遠足にだって行っていないし、卒業式もしていないのに、いきなり卒業しましたなんて……」
思わずみんなで大笑いしてしまう。
「肩書きは高等を卒業して特別な精霊たちに認めてもらわねば与えられんから、まだまだ見習いの魔導師じゃが、魔導師の一員であることに違いはない。それにこのまま修行すれば、君はきっと立派な魔導師になれるじゃろうて」
「そ、そうなんですか……」
「どうかねユウトくん。ワシといっしょに魔導界に来て魔導師の勉強をせんかね?君さえ望めば、魔法の力でご両親を説得する事も簡単じゃぞ?」
「おい、ユウトよろこべ!あのマーダル様からここまで言ってもらえるヤツなんてそうそういねえんだぞ!」
目に見えて喜んでいるのはクーラリオだった。でも肝心の勇斗は……。
「う、うん。すごくうれしいけどさ……」
「けど?」
「ボクはやっぱりお父さんとお母さんと、みんなと一緒にいたいから、パスさせてください」
申しわけなさそうに口を開いてあやまっていたが、しっかりと力強く自分の考えを口にした勇斗だった。




