第10話 朝の光 ③
「ユウトくん、あなたのおかげでこの事件も無事に解決したわ。私からもお礼を言わせて」
少しユウトがおちついたところを見計らって、もう一人の魔導師の若い女の人が、やさしく話しかけてきた。
亜麻色の長い髪をポニーテールに結わえていて、背丈もマーダルおじいさんと同じくらいに高い。顔もTVや映画で見る外国人のモデルのようで、特にサファイヤのように青く澄んだ目がとてもきれいだった。
「あ、あの……。お、お姉さんは?」
その若い女の人は、マーダルおじいさんと同じ白とうすい青緑色のローブを着ていた。
「私の名前はサナ。青銅の魔術師よ。白銀の魔導師マーダルは私のおじいちゃんなの」
「そ、そうなんですか……」
サファイヤのようなひとみにみつめられて、ユウトはどきどきしてしまう。
「おじいちゃんは責任感が強いから、もう引退していたのにゲオルギィを捕まえるって無理しちゃったの。それで罠にひっかかった上に、あなたにまでこわい目にあわせてしまって……。本当にごめんなさい」
頭をていねいにさげるサナ。
「まったく、孫の言うとおりじゃった。いくら道をふみ外した弟子の不始末とはいえ、こんなことになってしまっては面目もないわい。本当にもうしわけない」
「い、いいんです。みんなさえちゃんと元に戻れるなら……」
マーダルにも頭を下げてもらって、うれしいと思うより、とまどってしまうユウトだった。
「そうね、早く元に戻してあげないといけないわね」
その時、清々しい風が吹いて、ぱあっと空が白くなった。もう夜明けが間近なのだ。
「急がなきゃいけないけど、すっごく気持ちがいい景色だなぁ」
すうっと大きくすいこんだ朝の空気の冷たさが、胸の中をひんやりさせる。
「ふわっ、へっくち!」
その冷たさに思わずくしゃみしてしまい、体がカタカタとふるえだしてしまう。それを見たサナは、自分の着ていたマントをさっと着せる。うすい絹のような布地のものだったが、人の肌と同じあたたかさで体をつつんでくれる。
「ユウトくん、だいじょうぶ?」
「は、はい!だ、だいじょうぶです」
冷たさを感じてさむがったり、暖かさを感じてドキドキしたり。ひどい大ケガだけでなく、何度も死にそうになったりしたユウトには、生きていることの意味が、大切さが、体と心の底から実感できていた。
「言うまでもなく命というものは一つ一つが大切でかけがえないものじゃ。誰にとってものう」
「でも、だからこそ、自分や自分の大切な人の命の事だけにとらわれてしまうと、このゲオルギィのように、他の人の命を何とも思わなくなってしまう人もあらわれてしまうのね。悲しいこと……」
朝日の光と目を覚ました山の動物たちの声を聞きながら、二人の魔導師はしみじみと語る。
「ボクは、ゲオルギィさんの希望をこわして、なくしてしまいました。最後まであきらめさせて、やめさせることはできませんでした……。本当にこれでよかったんしょうか?」
マーダルの手にした小箱を見ながら、ユウトは悲しそうにつぶやいた。
「ユウトくん、全てを何もかもきれいに終わらせることはとってもむずかしいことよ。それは地上でも、私たちの住んでいる魔導界でも変わらないことなのよ」
サナの白くてやわらかい手が、そっと肩に。
「誰にでも生き返って欲しい人はいるものじゃ。でも、どんなにがんばって、寿命をのばすことができても、一度消えてしまった命は元には戻らないのじゃよ」
「それをむりやり元にもどうそうとして、ほかの大勢の人の命をつかうことは絶対に許されぬ。ましてそれが、あのクラヤミに至ってしまうのならばなおさらじゃ」
「だから、ボクはその事に気がついてほしかったのに……」
ホロリとこぼれた涙は、道をあやまった一人の父親のためにながされたのか、それともくやしさとかなしさ。いや、きっとそのどちらもだろう。
「じゃがユウトくん。本当なら、その悲しみと痛みは息子を失った時に向き合わねばならなかったことじゃ。今度こそ犯した罪の重さ共々しっかり向き合ってもらわねばならぬ」
そう言ってユウトをやさしくだきよせると、その涙をやさしくぬぐってあげる。木の枝のようにかたくて、それでいてあたたかい指の感じがユウトの心をすこし安心させた。
「さて、この命の光をみなに戻す事にしよう」
朝の日差しが照らしたと同時にマーダルの杖が大きく振られたとき、みんなはその姿を山頂からきれいさっぱりと消してしまった。




