第10話 朝の光 ②
「見事じゃ!」
白みかかった空に、まぶしく光る大きな星が二つ現れた。それはゆっくりと人の形にかわっていく。
「“元”赤銅の魔導師ゲオルギィ!脱獄および無許可での地上世界侵入、そして特務魔導師への任務妨害と、未成年魔導師への暴行の現行犯で逮捕します!」
駆けつけたのは二人の魔導師。一人はユウトに命の光を与えて助けてくれた、白銀の魔導師マーダル。そして大きなメダルのようなものをゲオルギィに向けているもう一人はサナだった。
「さすがに抵抗できないようね」
サナはゲオルギィの姿に、おどろきをかくしきれなかった。
「うむ」
マーダルは空を見つめたままひざを折って呆然としているゲオルギィにむけて、まっ白い小石のつぶをあびせた。
小石はゲオルギィのま上でくだけて粉になりその体にくっつく。すると粉は体を固めるように広がって、ついにはゲオルギィの体を石像のようにしてしまった。
「ゲオルギィさん!」
体中におもりを付けられてしまったように重たい体を何とか動かして、ユウトは動かなくなったゲオルギィのところに向う。そして、空にいた二人もゆっくりと降りてきた。
「ユウトくん、ありがとう。ワシらが来る前に大方かたづけてくれたのじゃな」
ユウトの体をやさしく抱きかかえてくれたは、ユウトに魔法の力を与えてくれたマーダルおじいさんだった。
ユウトはうれしさとかなしさと、ほかにもいっぱいためこんでしまった感情をおさえられなくなって、わんわんと声をあげて泣き出してしまう。
「よしよし。本当にユウトくんにはつらいおもいをさせてしまったな。このワシも、ただあやまるだけで済ませるわけにはいかんのう」
ユウトは何を口にしていいのかもわからなくなったようで、とにかく泣きつづけていた。
「ゲオルギィが息子を生き返らせようとしたその気持ち、確かにワシにもわからんわけではない。じゃが、この者は大きな間違いをしていることに気がつかなかった」
しみじみとマーダルはつぶやく。
「いや、あやつは気づこうともしなかった。息子一人を生き返らせるために、あまりにも多くの人の命を犠牲にしようとしている、その恐ろしさとおろかさを」
マーダルは石像と言うよりあらあらしく彫られた木像のようになってしまったゲオルギィを、あわれみの目で見ていた。
「まずは命の光じゃな。いくら居心地が良くても、ユウト君の体一つに入れておくわけにはいかん。この中に集めねば」
マーダルが取り出したのは、大きな金魚鉢のような丸いガラスのうつわ。そのフタを開けると、中から霧がたくさんあふれてきた。
「マーダルおじいさん、これは?」
「ふむ。これは外に出てしまった命の光を呼び集めて保護するための魔法のうつわなのじゃ。この中に入れば、外気にふれて消えてしまうのを防ぐ事ができる」
それを聞いたユウトは、顔を明るくしてみんなに呼びかけた。
「みんな!ここならだいじょうぶだよ!もうすぐ戻れるからはやく!」
ユウトの呼びかけにこたえて、ユウトの中に避難していたみんなの命の光が、あふれ出た霧をさかのぼってうつわの中にとびこんで来る。
「すごいわ。こんなにたくさんの命の光が入っていたなんて!」
「うむ。ユウト君はワシが思っていたより、ずっとずっとすばらしい器を持った子だったようじゃ」
ユウトの中に身を寄せていた、何百という命の光は全部きれいに中に入ってくれた。これで朝日を直接浴びても、朝日に負けて命の光が消えてしまうことはなくなったのだ。
「さて、ゲオルギィのやつを引き取らねば……」
次にマーダルが取り出したのは、メガネのケースのような小さな箱。この箱を開いたまま石像にされたゲオルギィのま上にかざすと、その体をすいとり、箱の中におさめてしまった。
「そして精霊たちじゃな」
ゲオルギィにむりやり連れてこられ、はげしい戦いでキズつき力を失ってしまった精霊たちは、気張ってみせていても、やっぱりボロボロになっていた。
マーダルはキラキラと光り輝くタマゴのような四色の水晶をとりだすと、それを精霊たちの目の前に置いた。すると、水晶のタマゴの中に精霊たちは光の粉になって吸いこまれる。
「みんな、ありがとう……」
「あとは……」
ユウトが言いかかっている事がわかっているのだろう。マーダルは右手をくるくると回すと、がらくたのようになってしまったクーラリオを手元に呼び寄せた。
「ま、マーダルさま……」
「お前にも苦労をかけてしまったな。すぐに元に戻してやるから待っておれ」
次に左手をくるくる回すと、クーラリオの体は空中で、あっという間に部品の一つ一つにまでバラバラに分解されてしまう。そして壊れてしまった部品が、新しいものに入れ替えると、これまたあっという間に組み立てられてしまった。
「ありがとうございます、偉大なる白銀の魔導師マーダルさま!」
バサバサと元気よく羽ばたいてとびまわるクーラリオだったが、いきなりユウトにとびかかられて落っこちてしまう。
「ふわーん!クーラリオが元に戻ったぁ!」
「ご、ごらぁ!そんなに乱暴にされたら、また壊れちまうだろうが!」
泣いてよろこぶユウトをしかりつけるクーラリオだったが、それも本気ではなくうれしそうな声の色。
「こんなに口の悪い使い魔をそんなに心配してくれていたのか。クーラリオ、よかったのう」
てれてしまって答えられないクーラリオの様子に、みんなうれしそうに笑い出す。




