第1話 星空の下で ③
「ないよ。ないよぉ。どうしよう……」
いっしょうけんめい探しまわる勇斗。その顔は、目がまっ赤にはれあがって顔もぐしゃぐしゃ。時々ぶつけたりころんだりしたので、顔どころか体中どろだらけになっていた。
そんな時だった。ふと、風のにおいを感じた勇斗が顔をあげてみると、目の前に小さく弱々しく光る球が飛んでいた。
「なんだろう。ふわふわしてるよ、この光。ホタルさんかな?」
その光は虫のように小さかった。
五月ごろにお父さんとお母さんにつれられて、水のきれいなところで見たホタルもそのくらいの大きさだったかな、とも思うが少し様子がおかしい。
ホタルが飛ぶのは五月だし、何より光の色がぜんぜんちがう。ホタルが出しているのは黄色が強いうすい黄緑色の光だけれど、今、勇斗の目の前をふわふわと飛んでいる光の色は、うすぼんやりと青白かったからだ。
「君、いったい何なの?」
手にとってみようと、そっと両手をのばしてみる勇斗。その光の球はさわることができなかったが、たしかに温かみを感じる。やはり普通ではないようだし、なにかを伝えようとしているようだった。
「え?ボクの探し物をおしえてやるからついてこい?そのかわり、あとでたのみ事を聞いてほしい?」
その光の球が話しかけてくるのを、耳ではなくて心で勇斗は聞きとることができた。その光は、勇斗が探し物をしていることをわかってくれたらしく、親切な事に手伝ってくれると言うのだ。
「あ、ありがとう!」
勇斗はその青白い光の球がふわふわと飛んでいったあとを、少しもこわがりもせずついていった。
「な、なんだぁ?勇斗のやつどこに行ってんだ?」
勇斗の持っていた懐中電灯の光が、お堂の真下に静かに消えていくのを鉄也たちは見た。
「コレどういうこと?」
「気づかれたんだゼ!」
「おいおい待てよ!わざわざお堂の真下にぶんなげておいたんだぞ!普通、気がつくわけねぇだろ!」
とつぜんの勇斗の行動に、おどろきとまどう三人組。
「なあ二人とも。コレもしかすると、お堂の神様が教えてあげたんじゃないのかぁ?」
突然の石塚の言葉に一番おどろいたのは鉄也。
「おいコレコレ!何言い出すんだよ!」
「いやさ、よくあるんだなコレな話。いたずらばっかりしているやつのほうが、お仕置きされる昔話って一杯あるからコレ」
「ば、ばかやろう!昔話なんて作り話だろうが!」
昔話なんてうそっぱちだと思っている鉄也だったが、コレ石塚はちがう。石塚は昔話などにけっこうくわしいらしい。
「鉄ちゃん、ちょっとちがうんだなコレ。昔話ってのは中には本当にあったことなんかが、いろんな人が語り継いでいるあいだに読みやすいように……」
「だぁぁ!コレコレ、今そんなこと知ってもしょうがねぇんだよ!」
「ん、んな事言ったって鉄っちゃん。コレコレってこういう事には先生だって負けちゃうくらい物知りだって知ってるだろ?ここは大人しく話を聞いたほうがいいんだゼ?」
ダゼ金森まで、コレ石塚の方に意見を合わせてしまう。これにリーダーである鉄也は怒り心頭だ。
「お前ら、心配すんな!あんなヘタレな男女の勇斗に、床下に投げこんだカードが見つけられるわけねえだろうが!」
その時だった。三人組の真上から、何か大きなものがドサドサと落ちてきた。
「あいた!な、なんだ?!」
それはつな引きのつなよりも何倍も太い体の生き物。それは三人組にかるくまきついてバタバタと気味悪くのたうつと、やがてぐったり力つきて動かなくなった。
『ひ、ひぃぃ……!』
三人の体から転がり落ちて目の前にたおれた生き物は、何と動物園で見たことのあるニシキヘビの何倍も大きくて凶暴そうな顔つきのヘビだったのだ。
突然、そんなおぞましくて巨大な生き物が現れ、体をさわられたことで、あまりの怖さに動けなくなってしまう三人。
そしてその巨大なヘビは死んでしまったのか、お湯がグツグツにえたぎるようにあわをふきだしながら形をくずして、鼻が曲がってしまいそうになるほどの、ゆで卵が腐ったようなにおいをまきちらして消えていったのだった。
『ひぃ、うわぁぁ……!』
物かげにかくれていた三人組は、あまりの恐怖と匂いに、口から泡をぶくぶくと吹き出しながら、気を失って倒れてしまったのだった。
一方、ふわふわした不思議な光の球に連れられた勇斗は、お堂の床下をよつんばいになって進んでいた。
やがて、光の球はあるところで止まってくるくる回りだす。そこを明かりでてらしてみると、その光の下に、探していたカードが落ちていた。
「あ!こんなところに落ちていたんだ。こんなところに落ちていたんじゃあ、わかんないよ」
やっと見つけた大事なカードを、勇斗はハンカチでふいて泥をていねいに落とすと、ロングパンツのポケットの中にしっかり入れる。今度は何があっても落とさないように、ちゃんとチャックもしめたから一安心だ。
「光の球さん、本当にありがとう。こんどはボクがおかえしする番だね」
ていねいにふわふわした光の球にお礼をする勇斗。すると光の球はゆっくりと動き出し、また、勇斗にこっちへ来いと案内してくる。
「こっちでいいのかな……」
お堂の床下を出て、もっと山の奥に光の球は飛んでいく。進んだ先にあったのは、まっ暗で案内もないけもの道。けれども光の球に案内されているからなのか、勇斗は不思議な事に、ひとりぼっちの怖さを全然感じていなかった。
いっぱい足元に生えているクマ笹を、手と足を使ってひょいひょいかきわけて進んでいくと、ちょろちょろと小川が流れている河原にたどりついた。その小川のわきにあった大きな石の上で、ユラユラ回っていた光の球が、石の上に横たわっていた何かに吸い込まれて消えてしまう。
「ひ、光の球さん、どうしちゃったの?!」
みると、そこにはまっ黒に焼けてすすけた一羽の鳥が、ぐったりとたおれていた。