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魔導少年ユウト  作者: むげんゆう
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第10話 朝の光 ①

「お、終わった、のか?」


 ひとみを開けたクーラリオに飛び込んできたのは祭壇のある山頂だった。


 しかし様子は少し変わっている。積み上げられていた祭壇は、長い年月にさらされて風化してしまった遺せきのようにくずれ落ち、そしてその前には、まるで石像のようにひざをついたまま固まってしまったゲオルギィがいた。


「フーガ、ミズチ、エンジュ、アダマント、それにクーラリオ。みんなみんな本当にありがとう」


 クーラリオが見上げると、そこにはどろで汚れ、キズだらけになってしまっていたユウトのやさしい笑顔があった。


「なあに、クラヤミは見事におさまったし、ゲオルギィのやつもあんなふうになっちまった。お礼を言うのはこっちのほうだぜ、な?」


 チリチリのボロボロになり、動かせるのはまぶたとクチバシくらいになってしまったクーラリオがこたえる。


 フーガの羽かざりもミズチのマフラーも、エンジュのブレスレットもアダマントのアミュレットも、みんなみんなボロきれやガラクタのようになってしまっていたが、なんとかしっかり生きていた。




「さあて、あとは命の光を全部元に戻して……」


 クーラリオがヨタヨタしながらつぶやいたその時だった。崩れ落ちてしまいそうな石像のように成り果てていたゲオルギィが、ヨタヨタと立ち上がったのだ。


「ゲオルギィさん?!」


 心配してよびかけたユウトだったが、ゲオルギィはその声が聞こえていないようだった。


 鋼のような筋肉は、やせこけてなくなってしまい、顔には割れた焼き物のようなヒビが入っていた。そして棒切れのようになってしまった手で、ゆさゆさと何かをゆすっていた。


「……、息子や、息子やぁ」


 それは息子の体、だったものだった。クラヤミがあふれだし元に戻った直後に、それまで止められていた時が動き出した事で、ゲオルギィの息子の体は祭壇と同じように風化して、土くれのようになってしまっていた。


「くそ、見てられねえぜ」


 その時、ゲオルギィの首が、今のクーラリオよりぎこちなく動き、ユウトの方を向いた。


「!」


 その瞳に光っていたのは、血を押し固めて濃くしたような、とてつもなく恐ろしいわずかな光だった。


「い、命の光をあやつり、クラヤミをも制御してみせたその力……。その力があれば、今度こそ本当に、本当に息子を生き返らせることができる……!」


「こいつ、まだこんな事を」


 ボロボロのガラクタになってしまったクーラリオではどうすることもできない。他の精霊も息も絶え絶えで力も残っておらず、そしてユウトは体中にひどいケガをして、まるでボロぞうきんのようになっている。そのまま立っているのが不思議なくらいだった。


「さあよこせ!お前の力を、お前の命の光を、今度こそ全て!」


 ゲオルギィの両腕から、二頭の赤黒いマグマの竜が飛び出してユウトめがけて襲いかかる。


「ユウト逃げろぉ!」


 だがユウトは動かなかった。クーラリオも精霊たちも、もうユウトには動く力も残っていないのだと思っていた。思わず目をつむってしまうクーラリオ。だが。


「……、なんだ?」


 クーラリオは自分たちが、不思議な光に包まれている事に気がついた。赤、青、黄、緑、オレンジ、白、他にもいっぱい。いや、どの光もどの光も少しずつ色を変えている。


「これは……、命の光?!」


 みんなを包み込んだやさしい光は、みんなの命の光。それがマグマの竜を食い止めて、あっという間に消し去ってしまったのだ。


「それだ!それこそが、それこそが!」


 ゲオルギィにいびつな笑顔がうかび、さらに数多くのマグマの竜を繰り出してくる。その数は十や二十ではない。百匹にもなるであろうか。


 あんな体に成り果てたゲオルギィをゆり動かしているのは、命を操りたいという、悲しいほどにゆがんだ願い。そんなゲオルギィに、ついにユウトはわきあがった激しい感情を叩きつけた。


「この、わからずや!」


 それは魔法であって魔法ではない力。ほんの一瞬、気持ちを合わせたみんなの心が、命が出した限りなくまっ白な光の力だった。


 その輝きはうごめいて襲い来る百の竜を、あとかたもなく消し去り、そのままゲオルギィを飲み込んで、白む夜空のその向こう、星々がまだがんばって輝いているかなたまでふきとばした。


「うがぁおぉぉ……!」


 星々の世界まで舞い上がったゲオルギィは、大地によびよせられて祭壇の元に帰ってきた。轟音を上げて祭壇にたたきつけられ、もう一度宙を舞ってようやく地面に。頑強だった赤銅の魔導師だけあって、それでも死ぬ事はなかった。


「ううう……」


 ユウトの瞳から、またしても涙がこぼれ落ちる。


「さっきクラヤミの中で、命は一つになんてなれないってわかったはずなのに。どうして?ねえ、どうして?!」


 その時、ユウトの手のひらから、小さな小さな光が飛び出した。それはユウトが一度出会った見知らぬ人の命。


 ユウトが静かにうなずくと、光はホタルのようにふわふわと、白みかかった山頂の空を、風に逆らって進んでいく。


 やがてゲオルギィの目の前までたどりつくと、だきかかえようとするその腕の中で、ぱあっと一瞬明るく光り、風化してしまった体に飛び込んだ。


「お、おおぉぉぉ……」


 ゆっくりと体が持ち上がり、小さく口元が動くのが見える。何を語ったのか、言葉は聞こえなかった。だが、言い終わった後に風にとけこんで消えていく、その時ユウトたちが見たのは、風よりもさわやかで優しい少年の笑顔だった。


「ちゃんとお別れ、言えてよかったね」


 ユウトはその光にやさしく声をかける。光はそれに答えてくれたのだろうか?


 ふき消えて見えなくなってしまっては、もうわからない。わかっているのは、もうゲオルギィの息子の命の光は完全になくなってしまった事、そしてみんなの命の光はユウトの中にあるということだけだった。

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