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魔導少年ユウト  作者: むげんゆう
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第9話 クラヤミの中で ④

「たぶん、ここが一番奥だよね」


「だろうな」


 気がつくとユウトはクラヤミの最果てのど真ん中にたどりついていた。どうしてそこが真ん中なのか、当のユウトにもよくわからない。


 けれども、それ以上先はないことだけは、ユウトだけでなくクーラリオも、精霊たちも感じ取っていた。


 あれだけオイルように重たくドロドロとした空気が、高い高い空の上のようにうすいものに変わっていた。夏なのにだんだんと肌寒くなってきて、火のブレスレットが熱をくれてやっと寒さがおさまる。


 やがてキラキラと真冬の夜空のように、すき通った光が天上いっぱいに、立ち上る煙のようにあふれだす。


「すごいなぁ。まるでかに座のプレセペ星団みたいだよ」


「なんだそりゃあ?地上界の夜空の星か?」


「うん。お母さんが星座とか星占いとか大好きだから、いっしょにプラネタリュウムに行ったり、天体望遠鏡を見に行ったりしてね、その時に教えてもらったんだ」


 今までずっとクーラリオから教えてもらってばかりだったユウトが、はじめて先生になって教えてあげた。


 かに座という星座にはプレセペ星団という星の集まりがあること。そしてその星の集まりは、中国という国では昔から積屍気ししきといって死んだ人の霊魂が集まる場所と言われている事も。


「つまりオレさまたちは、その積屍気のまっただ中にいるってわけか。いや、もしかしたら地上の人間たちは、クラヤミのことを知っていて、そう呼んでいたのかもしれないな」


 マーダルの心の一部分を写し取って生み出されたクーラリオは、こういうところはマーダルそっくりの勉強家だった。


「ちがうよ。ここは本当の積屍気なんかじゃないよ」


 ゆっくりと首をふってこたえるユウト。


「ううん。ここを本当の積屍気になんかしちゃいけないんだ」


 自分の決意を口にしたユウトは、地面を力強くふみしめると、煙のようにたなびく命の光たちに、やさしく、そして力強く呼びかけた。


「みんな聞いてください!」


 その声にこたえるように、命の光は渦を巻きはじめた。それは火の粉が星々の世界である夜空の星を目指すように美しい光景。


 だがその光景にユウトたちが心をうばわれたのは、ほんの一瞬のこと。巻き始めた渦は、きらきらと七色にまたたく小さな光たちを中に飲み込んでしまい、まっ黒なマグマの大渦になってしまう。


「それが返事ってか」


 がくぜんとしたクーラリオが言い終わるよりも早く、大渦はユウトたちにむかって、叩きつけるように降り注いだ。


「ふわわぁ!」


 渦に体がふれた瞬間、電流火花がユウトの体を走りぬけた。その熱さと痛みにユウトは悲鳴をあげる。


 息つぐひまもなく、どろどろにとけた生ゴムのような渦の流れがユウトの体をしめあげる。手や足を、本当なら曲がらないはずの方向に曲げてしまおうとするものすごい力。


「ちくしょう!やっぱり誰も聞く耳なんか持っちゃくれないのか?!」


 体中をしめあげ、おしつぶし、バラバラにしようとする大渦の力。


 それは大渦が、ユウトの持つ強い命の光をほしがっているから。新しくて、より強い命の光を飲み込み続けなければ大渦は、みんなの命は消えてしまうからだ。


『死にたくない!』


『消えたくない!』


 みんなの必死の想いが渦の力をより強くしてユウトを苦しめる。苦しめて苦しめて、苦しみだけにしてしまって、自分たちと一つにするために。


「だめだよ……。みんな、それじゃだめだよ!」


 ユウトの瞳からこぼれおちる涙の光。それは体が感じる痛さから出たのではない。みんなの苦痛と悲鳴を聞いたユウトの心が流した涙だった。


 その涙が発した光がもう一度道を開いた。渦の圧力がゆるみ、ユウトの体がその中でうかんでいる。


 大渦が、みんなが自分の声を聞こうとしている。ユウトはこの積屍気の、クラヤミのまん中で心の底からさけんだ。


「みんな聞いて!」


 そのユウトさけびは、するどく渦を、クラヤミを切りさいた。


 一つ二つと息つぎをするユウトの背中。その背中を壊れかけた体でしがみついて支えるクーラリオ。もちろんフーガもミズチもエンジュもアダマントも、みんなが支えてくれている。


 それだけではない。ユウトの心には、しっかりとお父さんやお母さんもいてくれる。


 いつもいそがしいのに、キャンプの前の日に帰ってきてくれて、力強くがんばってこいとはげましてくれたお父さん。朝ごはんにお弁当もしっかり作ってくれて、おかえしに自分のおみやげ話をまってくれているお母さん。


 帰りをまっている人がいるのはユウトだけではない。今クラヤミの一部になってしまった人たちだって、みんな帰るべき場所があって、帰りをまっている人がいるのだ。


「ケガをせずに、ちゃんと元気に家に帰るまでがキャンプですよ」


 半分冗談のように言っていた町内会長のおじいさんの言っていた事が不思議に思い出されて、そしてユウトの心を火の玉の、いや、真夏の太陽のように熱くした。


 もう一度、すうっと大きく息をすいこんでゆっくり。そしてお腹と心の底から声を出してユウトはみんなに話し始めた。

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