第9話 クラヤミの中で ①
クラヤミの入口でユウトたちが奥に乗り込もうと決心したその頃、外の世界ではあふれだしたクラヤミが一気に山を駆け下りようとしていた。
一度勢いがついたクラヤミは止まらない。まわりの命という命を全て飲み込んで大きくなっていき、その勢いは大きくなればなるほど激しくなるのだ。
クラヤミが山頂を飲みつくして雪崩のように駆け下りようとした時、銀色に輝く光の玉が光の波をくりだして、クラヤミを押し返していた。
「クラヤミをこのまま、下界にあふれさせるわけにはいかん!」
それは白銀の魔導師マーダルだった。だが、一人の力では支えきれないほどクラヤミは力を強めていく。クラヤミもこのままおさえられていたら消えてしまうからだ。その死にものぐるいの勢いに、じりじりとおされていくマーダル。
「おじいちゃん、一人で無理しないで!」
おされるマーダルを後ろから支えたのは、あわい緑色の光。その光もゆっくりと輪郭を人の姿に変えていく。そして現れたのは、亜麻色の髪をポニーテールで結わえた、若い女性の魔導師だった。
「サナか。これはゲオルギィを弟子としたワシの責任、ワシの仕事じゃ。お前まで巻き込むわけにはいかん」
古木の肌のように固いしわしわのひたいから汗をながしながら、マーダルは孫娘に帰るようにと言い聞かせる。けれど、その孫娘はかたくなに戻ろうとはしない。
「白銀の魔導師マーダル様、ゲオルギィの逮捕は元々私の仕事です!仕事を投げ出して帰るなんて、位を与えられた名誉ある魔導師には絶対にできません!」
少し前まではまだ自分の腕の中でころころと甘えていたというのに、立派な魔導師としての姿を見せてくれている事にほろりとしてしまうマーダル。ゲオルギィのワナにはまって地上界と魔導界のはざまにとじこめられてしまったのを助けてくれたのもサナだ。
もう自分の時代が終わり、引退する時が来たのだと思い知らされていたが、それは今この時ではない。この事件が全て終わってからだ。あふれ出ようとするクラヤミをおさえる力をさらに強めるマーダル。
「おじいちゃん、このままクラヤミを朝日がのぼるまで押さえ込んでいればいいの?」
「いや、そうではない!」
たずねるサナに力強く首をふってこたえるマーダル。
「あのクラヤミの中にはクーラリオが、そしてユウトくんがおる!」
「ユウトくんって、ついさっきおじいちゃんが魔力を分けてあげたっていう即席の、それも地上界の子供でしょう?!」
おどろきと不安の声をあげるサナだったが、マーダルには不安な様子はない。
「ユウトくんはワシの想像以上に強い子じゃった。ワシがどうにか戻るまでに少しでも結界をどうにかしてくれていればと考えておったが、クーラリオと共に全ての結界を解いて、ゲオルギィと渡り合っておる」
「でもおじいちゃんの力は、もう全部なくなってしまったのよ?」
「クラヤミの中で必要なのは魔導の力ではなく心の力じゃ。クラヤミにこれ以上力を与えさえしなければ、必ずやあの子が解決してくれる」
サナはほんの少しだが、見たこともないユウトという少年がねたましく思えた。魔導師の中でも認められた者にしか与えられない青銅の位をさずかった自分でさえ、なかなか一人の魔導師として認めてくれなかったマーダルからこれほど認められている男の子がいるというのだ。
おじいちゃんっ子で背伸びばかりしてがんばってきたサナにとって、年下には興味はなかったのだが、そこまでマーダルが認めているというのなら興味がわいてきた。
「そんなすごい子がいるんだ。私も会ってみたくなってきたわ」
すきあらばあふれ出そうとするクラヤミをおさえる光に一段と力が入る。
「がんばるのじゃぞユウトくん。君ならきっとこれまでのやり方とはちがう、別の方法で解決できると信じておるぞ」




