第8話 命の光 ④
「こんちくしょぉ……」
真っ暗な闇の渦の中に飲みこまれていくクーラリオ。ガラクタになってしまった体では逆らう事もできずに吸い込まれていくだけだった。
「動け、動け、動け!せめてこの事をマーダル様に伝えなきゃ、何にもならねぇんだ!このままこのクラヤミをほったらかしにするわけにはいかねぇんだ!だから、動きやがれ!」
けれどどんなに叫んでみてもクーラリオの体は動かない。骨格がめちゃくちゃに壊され、体を動かすゼンマイさえも壊れて、体の外に飛び出してしまったのではどうしようもない。
やがてクーラリオは、自分が闇の谷底にせまってきているのを感じた。そこに飲まれたら、きっとあとかたもなくなってしまうだろう。
「ユウト、すまねぇ!お前をまきこんで、散々怖い目に合わせて戦わせて、そして死なせちまった!みんなどころかお前一人助けられなかった。許してくれなんて絶対言えないけどなぁ、せめて、せめてあやまらせてくれ」
からくりの体に流せる涙はなかったが、流せぬ涙を心が流していた。そのしずくが体より先に闇に吸い取られたその時、クーラリオの体はだれかにしっかりと受け止められた。
「まだあやまることなんてないよ。だってボクはまだ生きているんだから!」
クラヤミの谷底の一歩手前、ユウトはしっかりと足でふんばってこらえていた。
「ゆ、ユウトぉ……」
「らしくないよクーラリオ。こういう時は“おそかったじゃねぇか!”って怒らなきゃ」
「あ、ああ。そうだな。そうだったな。ここはガツンとしかるとこだったな」
クーラリオはユウトの姿を、わずかに動かせる首をかたむけて見て見た。
マジカルジャケットはゲオルギィと戦ったときにボロボロにされたままの状態で、体もスリ傷やアザだらけになっていたが、今までで一番力強く、頼もしく見えるのは気のせいではないようだ。
「この真っ暗闇があふれちゃったときに、ボクの体もすいこまれてきたから元にもどれたんだよ」
「そうか、ゲオルギィに最初に取られちまった分を取りもどせたんだな」
表情に表せないが、声で何とかよろこびを表す事はできた。けれどもすぐに声の色が落ちてしまう。
「でも、ほかのは全部、あの中に、あのクラヤミに飲みこまれちまっただな」
「クラヤミ?」
「そうだ、クラヤミだ。魔導界がおきてで命の光を操るのを禁止していた一番の理由は、このクラヤミを引きおこしてしまうからだったのさ」
クーラリオはクラヤミについて教えた。
「命の光は体の中に収まっている間は体にぬくもりをあたえて、そして光も体の中で安定する。体の中の光が消えるときは、ケガや病気で体が治らないくらいにダメになってしまうか、命の光が本当に光る力をなくしたときだ」
「それが死ぬってことなんだね」
ギチリと首をうなずけるクーラリオ。
「命の光は体からむりやり引っ張り出されたら、強い刺激にあてられると消えちまう。太陽の光はとても強いから、朝日をあびたらみんな消えてしまうってのもわかるな」
「そしてもう一つ。命の光はひとりぼっちだとすぐ弱くなって消えてしまうが、ほかの光と一緒になったら長く持つってのも良くわかっているよな」
「うん。だからボクはマーダルさんのおかげでここまで来れたんだよ」
力強くクーラリオを抱きしめるユウト。
「クラヤミも原理は同じだ。むりやり体からひっぺがされちまった命の光は消えたくないから仲間を探して集まろうとする。でも命の光は人の命、それぞれの人によって色も違う。とてもじゃないが一つにはならない。でも消えたくないのは誰だって同じだ」
「じゃあ、どうするの?」
「できるだけ同じ思いで一つになろうとするんだ。どんなに苦しくても消えるよりはいい。だから、だからな」
クーラリオが間を置いたとき、ユウトはクラヤミの奥底深くを見つめていた。そこは果てなく暗い真っ暗闇。時々聞こえてくるのはみんなの苦しそうなうめき声。
「ねえ、みんなが一つになろうとするときの思いって、もしかして……」
自分が出してしまった答えを信じたくないと、すがるような思いで腕の中の相棒を見たユウト。でも相棒は静かにうなずくだけだった。
「ああ、苦しみだ」
その言葉を聞いた瞬間、ユウトは思わず力を落としてしまう。吸い込まれそうになったのですぐにふんばりなおしたが、ユウトの目には涙がたくさんためこまれていた。
「なんで?!どうしてなの?!」
「いいかユウト。人は楽しいとか、うれしいと思う事ってなかなか共有できないんだ。どんなにおいしいものを一緒に食べても、どんなにきれいな景色を一緒に見ても、人によって感じ方はバラバラだ。強い弱いだけじゃなくて、何も感じない人だっている」
「う、うん。みんなで同じ給食を食べていても、おいしいって言う子もいれば、ぜんぜんおいしくないって言う子もいるもんね」
「まあ、そういうことだ。でも苦しみは簡単に共有できる。トゲがささって痛いくらいならがまんもできるけどな、例えば首をしめられたり、高いところから地面にたたきつけられたりするときの痛さはがまんできない。だれだって同じくらいの痛さを感じて苦しむ」
「でも、だからって!」
「よく見てみろ、しっかり感じ取ってみろ。実際にそうなっているだろうユウト。みんな消えたくないから同じ苦しみを共有して一つになっちまったんだ」
「それがクラヤミだっていうの?」
「そうだ。そしてクラヤミは消えたくないから、もっともっと多くの命の光と一つになろうとして、体を持っているものまで取り込んで大きくなってしまう」
「そしていったん勢いがついたらもうとめられねえ。そのままにしていたら、世界中を飲み込んでしまう。命を全部苦しみで一つしてしまうまでな」
ユウトは宇宙についてのテレビ番組を思い出していた。太陽よりもっと大きな恒星が寿命をむかえた時、ブラックホールになってまわりのものを、たとえそれが光であってもすいこんで逃がさないのだという。
クラヤミはまるで命のブラックホールみたいだ。ユウトは思わず息をのんでいた。




