第8話 命の光 ③
『いたい、いたいよ……』
「!」
その子供の口からこぼれたのは、父親の知る息子の愛らしい声ではなかった。
「こ、これは一体?!」
自分の息子の口から次々とあふれてきたのは、彼が聞いた事のない数多くの人々の声。
『苦しい!』
『せまい!』
『重たい!』
『熱い!』
「こ、これはどういうことだ?!」
それはすべて悲鳴。男性から女性、子供から大人まで、たくさんの。あまりにもたくさんの数の悲鳴。
やがてその子供は身を大蛇のようによじりながら転げまわりはじめた。目を真っ赤にし、苦しそうに息を荒げながらバタバタと手足を振り回す。
「どうしたのだ!?一体何がおこったのだ!?」
「わかんねぇのか!失敗したんだよ!」
枝がささったり、泥で汚れたりしてボロボロになった鳥の人形がはいあがってきた。クーラリオだ。気合と根性ではいあがってきたのだ。
「命の光は、人の命そのものなんだ。確かにユウトみたいに少しでも光が残っていれば、少しくらい消えてしまうのをのばしてやったりできる。でもなぁ、てめえの息子の命は、もうとっくに消えてしまっていたんだぞ!」
ゲオルギィは獣のように暴れる我が子を懸命におさえながら、いきりたった猛獣のようにクーラリオにほえる。
「だからこそ復元したのだ!肌身はなさず、情愛をこめていたものには、こめた人間の記憶と想い、すなわち色がきざまれる。それをもとにして復元したのだ!」
だが、クーラリオはひるまない。
「いくら大事にしていたものに想いが強く残っていても、それはカケラなんだ。一部は一部でしかねぇ。丸々全部を元に戻せるわけがねぇんだ。まして、材料に使われた人間の一人一人の色を完全に消せるものかよ!」
「私の研究が不完全だったというのか?!」
「不完全なんかじゃねぇ。最初から成功なんて、するわけがねぇんだ!」
動揺を見せたゲオルギィにたたみかけるクーラリオ。だが、ゲオルギィは突然、笑いはじめた。
「ふ、ふはははは!ははははは!いいだろう。いいだろう。いいだろう!確かに私の試みは失敗した!」
「やっと間違いに気がついたのか……」
そうではなかった。ゲオルギィは失敗の事実を確かに受け止めた。しかしこの男の出した答えは、にわかに信じられない、理解できないものだった。
「ならば成功するまで研究を続けるだけだ!」
「な、なんだと?!」
「研究に失敗はつきものだ。今回は子供の命を多く使ったが、多すぎてひとつになりきれなかったのが失敗の原因だったようだ。ならばその失敗を教訓にやり直すまでよ」
「やり直すだと?!」
「地上の人間など、他人の命など私にとって鳥の羽ほどの価値もない。どれだけ失敗しようと、息子の肉体が無事でさえあれば、私が自由に研究を続ける事さえできれば、何度でもやり直しはできる」
「ふ、ふざけるなぁ!」
クーラリオは最後の力をふりしぼって、ゲオルギィに挑んでいった。
だがガタガタの体になっていたクーラリオは満足に動く事もかなわない。足でけ飛ばされ乱暴に地面にたたきつけられてしまう。甲高い音がして、両翼がバキリと折れてしまった。
「ぐあぁぁ……!」
うめき声を上げるクーラリオを片足でゴロゴロと転がすゲオルギィ。その瞳には、普通でない光がギラギラと輝いていた。
「ふざけてなどいない。失敗したなら、その原因を突き止めてから、次の研究に活かせばよいのだ。それだけだ。それだけのことだ」
彼の腕にがっしりと抱かれた息子は、苦しみもがき、のたうち続けている。さらにその目から、口から光がビカビカともれこぼれていた。
「多くの命を書きかえるのは上手くいかないとわかった以上、こんなものを取っておいても意味はない。息子の体がキズつくまえに、捨ててしまわねばならんな」
しかしその時だった。腕にかかえていた息子の口から、まっ黒な闇がふきだしたのだ。
「な、なんだと!」
「まさかこいつは!」
吹きだした闇は、あっという間にあたりをつつみこんだ。
祭壇を、山頂をおおいかくし、動かなくなったユウトの体を、ガラクタになってしまったクーラリオを、そしてゲオルギィをも飲み込んで、まるで雪崩のようにふもとめがけて広がって行ったのだった。




