第8話 命の光 ②
わき立った大きな火の柱の中は、ゲオルギィの指図と同時にまるで竹林のように細い柱に分かれて立ち上がった。そのどれもが全くことなる色の柱になっている。
「そして溶け合え!」
竹林のように分かれた火の柱がアサガオのつるのように巻きあい、うねって溶け合い、姿をくるくると変えていく。火の柱からは、人の苦しむようなうめき声があふれていたのだが、ゲオルギィの耳にはまったく届いていない。
「そまるのだ、あの色に。私の最愛の息子の色に!」
見知った光の中をゆらゆらと泳いでいたユウトだったが、ある光の前で立ち止まってしまう。それはついさっき現れた新しい光。ユウトがまだ知らない、他の光とはあからさまに様子がちがう光だったからだ。
「君はだれなの?」
その光はうすぼんやりと人の姿になっていく。
「君ハ、ダレ?」
人のような姿になった光は逆にユウトにたずねてきた。ユウトは自分の姿をはっきりとさせて、優しく自分の名前を答える。
「ボクの名前は勇斗。一条勇斗」
「……、ユウト」
返事をもらったことで、ユウトの顔に花がさいたような、やわらかくて明るい笑顔がともる。なぜだかわからないがぼんやりした気分がなくなり、目の前の見知らぬ光について知りたいという気分になってきたからだ。
「ねぇ、今度は君の名前を教えて」
「ボク。ボクノ名前は……」
その時、それまでたゆたゆとながれていた光の流れが、大雨の直後の川のようにあらあらしく激変してしまった。
「なに?!なにがおこっているの?!」
ユウトは自分の回りで起こっている事にとまどっていた。しかし激しい流れはやがて渦になり、まわりの光を飲みこもうとしはじめた。
「みんな!ふんばって!」
けれどもユウトの目の前で、次々と光は渦の力でバラバラにされて、そのまん中で混ぜ合わされていた。そこからはユウトの聞いたことのある声が、次々とその悲鳴が聞こえてくる。
「ひどいよ!やめてよ!みんな苦しんでいるよ!」
だがその声も渦の中に飲み込まれてしまう。ユウトはけんめいにふんばるが、ぐいぐいと流されそうになる。
「君!君もふんばって!でないと渦の中に飲みこまれちゃうよ!」
何とか名前を知らない光の、腕らしい部分をつかまえたユウト。ここにはつかまるものは何もなかったが、気合を入れてふんばっていれば何とか飲みこまれないようだ。けれど名前を知らない光は、その渦のほうをずっと見ているようだった。
「アノ渦ニ、ボクハ呼バレテイルンダ、ユウト。アソコニ行ケバ、ボクハボクニナレルンダッテ」
「ええっ?!」
「デモ、ワカッテイルンダ。アソコニ行ッテモ、ボクハ、ボクニハナレナイ」
渦の飲み込もうとする力とは無関係に、その名前を知らない光は、ゆらゆらとかげろうのようにゆれていた。
「ねえ、君、何を言っているの?」
「ボクハカケラ。物ニヤキツイテイタ、想イノカケラ」
「君、何を、何を言っているの?!」
おどろきとまどうユウトに、その光はさらに語った。
「ボクハ、カケラ。コナゴナニ砕ケテシマッタ、オモイノカケラ。ホカノ部分ハ、モウドコニモ残ッテイナイ。ダカラ元ニハモドレナイ」
その時、渦の力がさらに強くなった。どこまでふんばれるのかわからないが、ここで飲みこまれたら、大変な事になってしまうのはわかる。
「うううう……」
その時、ユウトがつかんでいた光は、ぼんやりと弱くなってすりぬけてしまった。そのまま光は渦の中に飲まれて消えていく。
「ダメだよ!そっちに行っちゃだめだよ!」
ユウトの叫び声は、その光のあとを追うように渦に飲みこまれていった。
さきほどまでの勢いもなくなり、今にも消えてしまいそうなくらいに弱まった祭壇の火。その中で一つの光がやわらかく、明るくかがやいていた。
「で、できたぞ……。これが、これこそが私の息子の光!」
火の中に手を差し入れ、できあがった命の光をだきよせるゲオルギィ。
「さあ、お前の体はそこにある。体に帰って、そして目を覚ましておくれ」
眠ったまま動かない息子の胸の上に、命の光を乗せると、その光は体の中にゆっくりと沈んでいく。
「さあ、目を覚ましておくれ……」
その子供はゲオルギィの言葉を聞き終えると、ゆっくり体を起こし、まぶたを開いた。よろこびの色で顔をいっぱいに染めるゲオルギィ。
「成功したのだ!私はついに成功したのだ!私は禁じられた領域に手を伸ばし、幾多の困難を乗り越えて、ついに成功したのだ!」
そこにいたのは、鋼の肉体を持った屈強な魔導師ではなかった。失っていた大切なものを、やっとの思いで取りもどした一人の父親だった。
しかし。




