第1話 星空の下で ②
「ふ、ふわぁ!」
まっ暗で曲がりくねった道を、オドオドトボトボ進んでいた勇斗は、足元から聞こえてきた、何かがびよんと飛ぶ気配と音にビックリして大声を出してしまう。
「で、でたぁぁ!」
ビックリして落としてしまった懐中電灯の光が、足元で聞こえた音の正体を教えてくれた。それは、イボイボが体中にくっつき、丸々と大きな体をしていたヒキガエルだった。
おっかなびっくりしながら様子をうかがっている勇斗の方をギョロリと見ると、ゲコゲコとなき声を出して、とびはねながらしげみの中にゴソゴソと立ち去ってしまう。
「な、なんだぁ。ヒキガエルさんかぁ。おどろかさないでよぉ」
そっちの方が勝手におどろいたんだろうと、しげみの中でふりかえってしまうヒキガエルだった。
「と、とにかくお堂の方に行かなきゃ」
五十メートルおきに、ちょっとしたことでグシグシと半べそをかきながら進んでいく勇斗。たっぷりと時間をかけてしまったが、やっとのことで目的地のお堂にたどりつくことができた。
「や、やっとついたぁ。で、でも……」
さっきの肝だめしで来た時は、あちこちに見え見えのしかけが用意してあったり、先に行っていたグループ子の声もしていたのでまだ良かったんだと、今さらになって気がついてしまう。
「こ、これからこんなところを、一人ぼっちで探さなきゃいけないなんて……」
ふきぬける風の温度も、においだって二時間前とほとんど同じはず。でも、今ここで動いているのは自分しかいないんだと思うと、あごと体からガタガタとふるえが出てとまらない。
「こわいよう。こわいよう。でも、見つけなきゃもどれないんだ……」
勇斗は腰をおじいさんやおばあさんのように“へ”の字におりまげて、地面を明かりでなめるようにてらしながら、落としたはずのカードをさがしはじめた。
「やっぱり、やっぱりどこにもないよ」
お堂のまわりから、とちゅうの通り道、近くの木の下まで、あちこちに頭をぶつけたりして、こわさと痛さでポロポロ涙をこぼしながら、必死に勇斗は落としたはずのカードを探した。
しかし、あとかたづけの時に拾いそこねていたゴミはいくつもみつかっても(勇斗はちゃんとゴミ捨て場にすてるために、きちんとひろって袋にいれた)、肝心のカードはどこにも落ちていなかった。
「ど、どうしよう。持って帰らなかったら、明日からボク、女の子あつかいされちゃうよ」
勇斗が必死になってカードをさがしているのを、お堂の入口の影から見ているのは鉄也たち三人組。
「なあ、鉄ちゃん、本当にやったのかだゼ?」
「ああ、あいつが落としたお守りはオレがきちんと拾っておいたのさ。オレの手ぎわが見事すぎて、あの霧崎のやつだって気がついてなかったくらいだからな」
「それでどうしたんだゼ?」
「お堂の床下になげこんでおいたのさ。けっこう奥のほうにいったはずだから、見つかりっこねぇだろうなぁ」
そう、お堂のそばにカードなんてはじめから落ちているはずなんてなかったのだ。お堂の床下に投げこまれていたのでは、いくらまわりを探したって見つかりっこない。鉄也は勇斗がグシグシしながら、一人でカードを探しまわる様子を見て楽しむためにこんなひどい事を仕組んだのだ。
「うわ、鉄ちゃん悪党すぎだゼ!」
「コレでもさ、アイツ戻ってこなかったらどうする?あの様子だと朝になっても、さがしてるんじゃないかコレ」
コレコレ石塚の疑問ももっともだった。勇斗はびっくりするほどまじめな子だからだ。
夏休みの自由工作で、鉄也の分がこわれてしまったのを遊びに来ていた勇斗のせいにして、作り直してこいといえば鉄也が作っていたものよりずっとできがよいものを作ってきたり、春休みの時は罰ゲームで、それまで乗れなかった自転車に二日で乗れるようになってこいと言ったら、体中すりキズや青あざを作りながら、本当に乗れるようになったこともあった。
何より、二年生の時に公園で遊んでいた時、鉄也が宝物にしていたガラス玉を落としてしまって、友達みんなで探した時の事。
日もくれて、みんなも鉄也もあきらめて帰ったあとも一人だけで、あたりがまっ暗になっても探しつづけていて、今度はみんなで勇斗を探して大騒ぎになったこともあった(結局、ガラス玉は鉄也のポシェットの中に入っていて、公園になんてそもそも落としていなかったという事が、この後すぐにわかって鉄也がこっぴどく怒られてしまったのだが)。
その時のように誰も止めなかったら、見つからないものでも見つけるまで探しつづけるのではないかと、石塚は心配したのだ。
「なーに、ギリギリになったら、みんなでネタバラしをするんだよ。あいつのボロ泣き顔、絶対笑えるって」
どうやら鉄也はお笑い芸人のテレビ番組でよくやっている、こわがりでまじめな人を、とことんこわがらせて困らせる様子を楽しむ企画を、本当にやってみたかったらしい。