第7話 ユウト対ゲオルギィ ⑥
「魔導界の者が地上界で一番やってはならないことはな、魔導界の事を地上界の人間に知られてしまうことだ」
「そ、それはどういうことなの?」
「ユウトよ良く聞け。魔導協会は、いや、魔導界の住民は、地上界の人間の命ごときは何とも思ってはおらん」
「そ、そんな……」
ユウトが動転しているのを確かめながらゲオルギィは続ける。
「言っただろう?地上の人間に知られなければ、何をしてもよいと」
ユウトは泣き出しそうな顔でクーラリオの方を見た。
「クーラリオ!うそだよね?!この人の言っていることはうそなんだよね?!」
けれどもクーラリオは答えない。いや、答えられなかった。
「答えられんだろうな。なぜならそれは事実だからだ」
「……。ユウト、すまねぇ」
ようやく口を開いたクーラリオの言葉を聞いた時、ユウトの顔は凍りついたように固まった。
「地上界にいる人間は魔法もつかえない下等な者たちだ。そんな者たちがどうなってしまおうと、別に構わないのだ。魔導界の事が知られてしまうくらいなら、記憶を消すどころか、殺してしまっても罪にはならんのだよ」
「うそだ!」
「うそではない!事実、マーダルがどんな理由で私を捕まえに来たか知っているのか?脱獄と無許可で地上界に行った罪だ。命の光を用いた儀式も、相手が地上界の人間であれば、何の問題もない。そうだなガラクタ人形!」
おそるおそるクーラリオの方を見るユウト。けれどもガクは先ほどまでのケンカ腰で威勢のいい様子もなく、だんまりとしたままだった。
「そんなのまちがってるよ!」
ユウトは叫んだ。お腹の、いや、体の底から力いっぱい大きな声で。世界中にひびけとばかりに。
「人の命はみんな同じくらい重くて大切なんだよ!魔法が使えないからどうなってもいいなんて、そんなのまちがっているよ!」
もう魔導界のルールなんて知ったことではない。まちがっていることはまちがっている。ユウトの悲鳴のような叫びが、クーラリオの胸をえぐりとった。けれどもゲオルギィにはどこ吹く風。
「そう言うのはお前の勝手だ。だがなユウト、マーダルがなぜお前にその力を分け与えたのか、本当の理由は知るまい?」
「本当の、理由?」
「お前がうすよごれた地上の人間のなかでも、めずらしいくらいにお人好しでだましやすいと見抜いたからだ」
「うそだ!そんなことあるもんか!」
さらに動揺し、心が乱れているユウトをさらに揺さぶるゲオルギィ。
「うそではない。でなければどうしてお前のような臆病者がえらばれなければならなかったのだ?」
ユウトの動きが止まる。
「マーダルはこの地上に来る前に、私の張った罠にかかって地上に長時間いられないようになってしまった。だが私を捕まえるという仕事を果たさなければならなかった。その時、目についたのがお前だったのだ。命の光をぬかれた人間のなかでも、自分に都合よくだまされてくれるお人好し。だから利用したのだ」
「そ、そんな……。あのやさしそうなおじいさんが」
「い、いいい、いいかげんにしやがれ……!」
言葉をさえぎろうとしたクーラリオに、ゲオルギィの空気弾が飛ぶ。クーラリオははじきとばされて山の斜面をゴロゴロと転がり落ちていった。
けれどユウトは身動き一つしない。いや、できなくなっていた。受けたショックの大きさでスキができたところで、他の事に注意がむかないように魔法をかけられてしまっていたのだ。
そしてユウトの意識がむくようにしむけられていたのはゲオルギィの言葉。ユウトはまんまとゲオルギィの術にはまってしまったのだ。
「この私をつかまえて、つき出したところでお前の役目はおしまいだ。言っただろう?地上界の人間に魔導界のことを知られるのは、それ自体が罪なのだ」
「だが命の光を戻さなければ、この事を知る地上界の人間はいなくなる。わざわざ生き返らせてから記憶を消す魔法を使うより、全てを知ってしまったお前が日の出と一緒に死んでしまったほうが、魔導界の事を秘密にしておくのは手っ取り早い」
「……」
「……ふざけるなぁ。マーダル様がそんなことをするものか」
今度は言葉だけでなく、視界もさえぎろうとクーラリオが残された力をふりしぼって飛び出してきた。
「オレ様はマーダル様の心の一部を写し取って作られた使い魔だ。マーダル様の心も考え方もしっかりわかっているんだ。そのオレ様が言うんだ。だからユウト、そんなヤツの言う事を信じるなぁ……」
だが、動揺をかくしきれないユウト。もう戦う意欲もなくなり、頭を抱えてただ立っているだけのぬけがらのようになっていた。
「しょせん子供、ということだな」
ゆっくりと近づくゲオルギィ。その姿を見るユウトの目はうつろで、まるであさっての方向を見ているよう。
「そろそろ夜明けだ。余興もここまでだ」
「や、やめろ」
くちばしを立てて抵抗するクーラリオを無視してユウトのえり袖をつかんで持ち上げるゲオルギィ。精霊たちはユウトを守ろうとバリアを張ろうとするが、肝心のユウトがぬけがらのようになってしまっては何もできない。
ユウトの体を両手で抱え上げたゲオルギィに、ふと、ものさびしい気分がよぎった。




