第7話 ユウト対ゲオルギィ ⑤
マジカルジャケットはズタボロになり、泥と血だらけになってボロぞうきんのよう。体の方は手足の骨は何とか折れもせず無事だったが、ひどい打ぼくとすりキズで見るにたえないくらいにボロボロになっていた。
けれども口から糸のように血を流しながらも、ユウトはクーラリオを左のわきに抱え、しっかりと立ち上がったのだった。
「負けるもんか。みんなを助けるまでは、絶対に、絶対に……」
「見上げた根性だこわっぱ。いや、ユウト!」
パンパンと手を叩いてユウトのガッツをほめたたえるゲオルギィ。
「だからこそ、このまま無意味にお前の命をもみ消すのは惜しいのだ。いいかげんにあきらめて、その命をさしだせ」
ゲオルギィの目は、光さえ飲み込んでしまうような赤黒いうずがぐるぐると回っていた。だが、ユウトはひるまない。
「ボクなら、ボクだけならそれでもかまいません!でも、みんなを元通りにするのが先です!」
「それはできない相談だ。なぜなら質が悪くても、できるだけたくさんの種類の命の光を集めなければ、私の望みははたせないからな」
「それで本当に息子さんが生き返るって思っているんですか!」
「思っているとも。いや、確信しているのだ!」
ユウトは右手の方にあった祭壇を見た。
そこには体育座りをした人くらいの大きさの岩がきっちり十三個つみあげられた塔が四つ建てられていて、そのてっぺんにはガラスのようなバリアにとじこめられている小さな光の玉がいくつも。さらにまん中には絵のようなふしぎな文字が書かれた魔方陣。そして中央には棺おけらしいものがすえつけられていた。
「これが生き返らせる儀式のための祭壇……」
「私の理論の集大成だよ」
満足そうに、不気味なほほえみを浮かべるゲオルギィ。
「私はあまりにも理不尽に死んでしまった息子を生き返らせる事に全てをそそいできた。それまで積み上げてきた努力と、その結果手に入れてきた輝かしい栄光の全てを投げ捨てて!」
ゲオルギィは両手を天に振り上げ、世界中のすべてに言い聞かせるようにさけんでいた。
「それでたどりついた答えが、ほか人の命の光を使って、死んだ人間を生き返らせることだったんですか?!」
「その通りだ!」
「で、でも!人の命の光は、それぞれの人のものだから、他人の光じゃ長く持たないってマーダルのおじいさんが!」
ユウトはマーダルから言われていたことを思い出す。
「そう。これまでのやりかたではそうなっていた。けれどもそれはちがう。私はようやく答えを導き出せたのだ」
ゲオルギィはゆっくりと祭壇の方に歩いていく。
「まず私は医者になって仮説を確かめたのだ。病気で消えかけた者の命の光に、魔導動物の命の光に手を加えたものを与えて、最初は数日。やがて一年、二年と引き伸ばす事に成功した」
けれどもそれは魔導界でも絶対にやってはいけない重大な犯罪。魔導協会は命の光をつかった実験、治療をかたく禁止している。それは魔導師が、人間が魔法と精霊の力を使うときにやってはいけないことだと決められていたからだった。
しかし、それを知っていてゲオルギィは実験を重ねていた。ゲオルギィはその決まりをやぶったのだ。命の光は加工しだいで、移す相手と同じ色にすることができると考えて、まず動物で行なった命をのばす実験に成功したのだ。動物で成功したのなら、人間にもできるはずだと。
ゲオルギィは死んでしまった人間の命の光を復元できれば、生き返らせることさえ夢ではないと考えたのだ。
「そしてそれを実証するために、私は本当に生きている人間の命の光を使おうとしたのだよ。すでに一度な」
「ええ?!」
それがゲオルギィが捕らえられた一番の理由だった。
「そう。命の光にはっきりとした色がついていない子供のものを使えば、楽に加工できるはずだった。だが、どこでもれてしまったのか」
「本当に実験をはじめる前に、つかまってしまったんですね」
話を聞き終えたユウトの頭は、グツグツとにえたぎったスープのようになってしまった。
「どうしてそんなことを?!子供を失うことがつらいと思うんだったら、どうして同じ事を他の人にしようとしたんです?!」
「私にとっては息子の命より大切で尊いものなどありはしない!それ以外の命など、どうなろうと知ったことではない!」
「そ、そんな!」
その答えはユウトにとって、いや、人として絶対に受け入れられない事だった。
「たしかに私は実験をやろうとしたことを協会にかぎつけられて途中で阻止され、そして捕われてしまった。そこで私は反省した。次に行なう時は、もっと目立たないように、そしてもっと慎重にやらねばならないと。だから協会が文句を言ってこない地上界に来たのだよ」
「え?!文句を言われないってどういうこと?!」
「ほう、いたらぬ知識ばかりためこんでいたおしゃべりなガラクタ人形から、そのことだけは聞かされていなかったのか」
ギチギチと、もがくように動き出すクーラリオ。それをユウトに聞かせまいとしているようだったが、ゲオルギィがすぐに答えた。




