第7話 ユウト対ゲオルギィ ③
「あんなすごい体の人に捕まったら、ポンコツなボクじゃ何にもできない!」
ユウトは手にしたタクトを小きざみにふりかざして、細い風の刃をいくつも作り出す。それら風の刃をゲオルギィの目の前に、魚とりの投網のように投げつける。目くらましと足止めのためだ。
「こんなもの!」
だがゲオルギィは魔法の呪文すらとなえずに、風の刃でできた網をうでの一振りで払いのける。
「すごい!」
風刃の網が払いのけられた直後に、ユウトは地面を力いっぱいにけって空に飛び上がる。
相手と距離を取らなければ勝ち目はない。だが、相手は赤銅の魔導師の称号を持っているほどの魔導師なのだ。目くらましだけで止められるものではない。だから。
「水と土の力よ!お願い!」
後を追って飛び上がろうとするゲオルギィの足を、水と土の大蛇がからめとった。飛び上がる直前に、ユウトが足元に仕掛けておいた魔法が発動したのだ。
「ほう?!」
だがゲオルギィはまだまだ余裕の様子。その両手に炎をまとうと、力任せに乱暴に水と土の大蛇をひきちぎった。そして怒りの形相で飛び上がる。
「こんなもので大人を止められるとでも!」
「思っていません!だから!」
その時、真横から突風がたたきつける。四連続の攻撃で姿勢がくずれたゲオルギィに、今度は狙いをすました火の玉が、さかさまになった夕立のように襲いかかってきた。
「それっ!」
「本命はこちらというわけか!うおお!」
火の夕立に、水のバリアと土のつぶてをつかって防ぐゲオルギィ。だが、吹き上がるような火の夕立に、上空に、上空に追いやられていく。
「ぬうう……。精霊の力にたよった一本調子でないというのか?!」
その時、背中に重たい気配を感じたゲオルギィ。ふと振りかえって見ると、そのま上には、石炭のようにまっ黒な雲が固まっていた。
「こ、これは?!」
まっ黒な雲のかたまりは、ユウトが作り出したカミナリ雲。ユウトがくりだした風と火の力で上昇気流を作り出し、ゲオルギィが防御で使った土と水の力も利用して雨雲を作る。そしてその雨雲に、精霊たちの力を思い切りそそぎこむ。その雨雲にためこまれた力は、まるで爆発する寸前の爆弾のようにふくれあがっていた。
「いっけぇ!」
ユウトは力いっぱい天にのばした両うでを、ゲオルギィめがけてふり下ろした。それは、爆弾雲に点火のスイッチを入れる合図だった。
爆弾雲からとびだしたカミナリは、一直線に真下のゲオルギィにぶち当たる。光の速さで襲いかかるカミナリはよけることは不可能。闇夜をバリバリと切りさくはげしい光と音がとびちって、ゲオルギィの姿は消え失せてしまう。
「ぜっ、ぜっ、ぜぇ……」
むせこむように息をするユウト。だが、これで終わったなんて考えていない。すばやくあたりに目を配って、動いているものがいないか確かめる。
すると闇夜に一点、ゆらゆらと不自然にかげろうのように光がゆがんでいる場所を見つけた。そしてその瞬間、考えるより先にタクトを振りかざし、風の刃を投げつけた。
「見事だこわっぱ」
風の刃はうでの一ふりで払いのけられた。やはりゲオルギィは生きていたのだ。それもケガどころかさっきと同じように服装に何の乱れも汚れもない姿で。
けれどさっきと一つだけ違いがあった。ゲオルギィはその手に土と鉄を混ぜて固めて作ったような、重々しくて不気味な大きな杖を手にしていたのだ。
「こわっぱ、誰に雷の魔法を教えてもらったのだ?それはマーダルの得意とする魔法の一つだったが、まさか教わる時間まではなかったはずだが」
「何となくです。風と水と火と土。その力の使い方がわかったから、こんなふうに使ったら、どうなるのかなって。図書館で読んだ理科の本で、雨雲がどうやってできるのか読んだことがあったから試して見ました。マーダルのおじいさんもそういう魔法が得意だったのは知りませんでしたけど」
ユウトの返事を聞くと、ゲオルギィはその不気味な口元を悪魔のようにねじまげて笑い出した。
「それはそれはすばらしい!お勉強ばかりがよくできて、応用することを知らない魔導界のおぼっちゃんエリートたちのお手本になってほしいくらいだな。ハハハハ」
不敵に笑い声をあげるゲオルギィ。
「だがあいにく私はどん底からはいあがって、赤銅の称号を得た魔導師だ。その魔法は私は十三の時に自分の力で会得したし、ましてそれはわが師、マーダルの得意とするものでもあったからな」
するとゲオルギィは手にしていたいびつな杖をまっ二つにへし折り、にぎりくだいてしまった。
「どうやって雷をよけたのか、答えを教えておこう!避雷針というものは知っているな?」
「で、電気の通り道をつくったんですか?」
「土の中に含まれていた砂鉄と水を組み合わせて、とっさに作ったのだ。これを針金のようにのばして地面につき立てれば、電気は地面に吸い取られると言うわけだ」
くだかれた杖のはへんが、ゲオルギィの言う通りに針金のようにまっすぐになっていく。
「こわっぱ。お前はマーダルに比べれば一枚も二枚もおとるとはいえ、下手な魔導師よりよほど手ごわいぞ。素直にほめておこう」
「え、そ、そうだったんですか?!」
と、ゲオルギィにほめられて、思わずてれてしまうユウト。ユウトはまっすぐ素直な性格だから、こういった状況でも素直に顔に喜びが出てしまうのだ。
だがその時、背中で異変が。
「ごらぁ。敵にほめられて照れてどうする!?」
「ク、クーラリオ?!もう起きちゃったの?!」
背中で力つきて眠ってしまったはずのガクが目を覚ましてしまったのだ。
「ばっきゃろう。あんだけ乱暴にゆすられて、おちおち眠ってられるかってんだ」
「ごめんね。今度はちゃんと静かに戦うよ」
「それは良い心がけだ。ならば、私の手で静かにお行儀よくほうむられるがいい!」
ゲオルギィがかざした手のひらから炎の帯が叩きつけられる。ユウトはあわてて飛び上がってそれをよけた。
「オレのことは気にするな!とにかくあいつを止める事だけ考えろ!」
「わ、わかったよ!」
真下から打ち出される岩石の逆さ雨を、ユウトは夜空の中をひたすらに逃げ回ったのだった。




