第7話 ユウト対ゲオルギィ ②
「ほう、我が用いた精霊の全てがあのこわっぱに手をかしたおったか。ならば小細工など通用しないのは道理というもの」
山頂に作られた祭壇。ゲオルギィはうでを組んで眼を閉じたままその場所に立っていた。
「儀式を行なうには、空が白みかかる時を待たねばならぬが、それにはまだしばらく間がある。その間にこの祭壇を壊されてはかなわぬ」
やがて赤黒いまぶたの奥にかくされていた赤銅の瞳がゆっくりと開かれた。
「だがしょせん付け焼刃のこわっぱよ。最後の余興として楽しませてもらうぞ」
ゲオルギィの体から火山の噴煙のようにまっ黒な蒸気がふきあがる。かたまった血のように赤黒い色のローブが勢いよくめくれあがって、その下にかくされていたゲオルギィの鋼鉄のようにがんじょうな体が星明りの下にさらされたのだった。
「見えたよ!あそこだ!」
ユウトはついに山頂がはっきりみえるところまでかけ上った。
だがその時、その山頂から、今まで戦ってきた精霊たちとは比べ物にならないほど恐ろしい気配のかたまりが飛んでくるのをユウトは感じ取った。
あわてて身をひるがえして急上昇する。すると直後に、ユウトの足元から爆弾が爆発したような衝撃がふきあがってきた。襲ってきた何かが足元に来たのだ。
「ほう、初手をよけてみせるとはずいぶんと感が良くなったようだね、かわいい魔法使いくん」
ゆっくり降り立ったユウトが見たのは、周りの岩肌を月のクレーターのように吹きとばした真ん中に立っていた人間らしいものの姿だった。
その相手の顔を見た瞬間に、思わず息をのんで後ずさりしてしまいそうになるユウト。
忘れられるわけがない。忘れるわけがない。その相手こそ、みんなと自分から命の光をうばい取って、みんなの体をカチンコチンに凍らせてしまった、赤銅の魔導師ゲオルギィだったからだ。
ユウトは心臓をにぎりつぶされそうなほどの恐怖と、目の前がまっ赤になってしまうほどの怒りをおしこらえて、ゆっくりと、そして力強くゲオルギィに言い放った。
「お願いします!みんなから取り上げた命を、命の光を返してください!」
しっかりと目線をそらさずにゲオルギィの瞳をにらみつけているユウトを、ゲオルギィはゆっくりとみすえた。
「今なら、今だったらまだ、じょうじょう……しゃくりょうってしてもらえると思います!みんなの命の光を本当に儀式に使って、本当の人殺しになんてならないでください!」
ぜいぜいと言い終わっただけで、肩で息をついてしまうユウト。人と言うより怪物そのものとしか思えないゲオルギィを相手に、一歩も引かずに話をするというのは、それだけ体力と気力をつかってしまうのだ。
「なにをバカなことを言っているのかな、君は?」
しかしゲオルギィの方といえば、反省するどころか顔色一つ変えずにすずしい様子。
「我が師匠であるマーダルが直々に来たのならともかく、その力を分け与えられたこわっぱが一人」
「一人じゃありません!今のボクにはフーガとミズチとエンジュとアダマントがついています!それにマーダルおじいさんの使い魔のクーラリオだっているんです!」
「似たようなものだ。そんな虫けらどもがいくらついていようがな」
やっとの思いで味方につけた精霊たちを、そしてクーラリオを虫けらとはきすてたゲオルギィ。その言葉を聞いて、ユウト以上に精霊たちが怒っているようだった。風の羽飾りが、水のマフラーが、火のブレスレットが、そして土のアミュレットが、ガチガチと怒りにふるえだす。
「あんな簡単な呪法にあやつられてしまうような、程度の位の低い精霊がいきがったところで、この私には通用しないことがわかっていないようだな」
「何て事を、何てひどいことを言うんですか!」
ユウトは今まで生きてきた中でもこんなに怒った事はないというほど怒っていた。どの精霊も、ゲオルギィの身勝手のために、とてつもない痛みに苦しめられていたのだ。それを反省するどころか見下すような言い方をするゲオルギィは許せない。
だが、それでも、それでもその怒りをお腹の底にのみこんで、ユウトは最後の説得をこころみた。
「お願いです!ボクは話しあいで解決したいんです。みんなの命の光を返してくれたら、ボクの分はそのままでもかまいません!だから、みんなにあやまって反省して、おとなしく魔導界に帰ってください!」
ユウトは力いっぱい大きな声をお腹の中からしぼり出してゲオルギィにぶつける。しかしゲオルギィは少しも動じたりしないまま。
「すでに手に入れているものを返さなくていいだと?こわっぱ、それでは取引にはならないな」
やれやれとばかりに片手をあげるしぐさをするゲオルギィ。
「儀式をはじめられるのは夜空が白みはじめる時。それまでしばらく時間がある」
指をコキコキとならしはじめるゲオルギィに、ユウトはタクトをしっかり手ににぎりしめてみがまえる。
「我が師、マーダルの力を授かったこわっぱよ。儀式までの時間つぶしだ。遊んでやろう」
重々しいローブをぬぎすてて、鋼鉄のような体をあらわにしたゲオルギィは、一直線にとびかかってきた。




