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魔導少年ユウト  作者: むげんゆう
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第1話 星空の下で ①

 ぼぉーう、ぼぉーうと、フクロウのゆるやかななき声が、ま夜中の森のはるかにふかい闇の向こうからさざ波のように聞こえてくる。


 空には蛍光灯のように、やんわりと白く光るお月さま。そしてその光に負けじと、力いっぱいに光かがやいて、自分たちはここにいるんだとがんばってアピールする小さな星たちの群れ。


 木々の間を通りぬけてふいてくる風はひんやりと気持ちよく、昼間の焼けるようなあつさはなくなっていて、ゆれてさわさわと音がする木の葉たちも、まるで木々の息づかいのように感じられる。木々の間をぬけてひんやりとした風がいっしょに運んできたにおいには、木々と土の、やさしい息吹がしっかりとふくまれていた。


 こんな景色と空気は、とても街の中では味わうことはできないだろう。そう、ここは豊かな自然がたくさん残されている奥ぶかい山の中なのだ。


 そんな自然いっぱいの山中を走っている一本の道。灰色のコンクリートで舗装はされているが、あちこちのひび割れから、青々とした草がでんとたくましく顔を出している。


 こんなま夜中にさびれた道を通るのは、いつもだったら野生の動物たちだけのはずだが、どうやら今夜は様子が少しちがうようだ。




 小さなオレンジ色の明かりが、一つ、二つ、三つ。そしてすこしおくれてもう一つ。前の三つは明るくはずみ、遅れているのは、おどおどしているように泳いで進んでいた。


 突然、先頭の三つの光がぱたぱたと走り出す。


「うぉぉ!」


「でたぞぉ!」


「おうおうおう!」


 前の三つが急にへんな声を出して走り出したのにびっくりした後の一つは、声も出せずに、あわててついてくる。


 やがて後ろの一つを無視して走る三つの光は、くちかけた木の立て札の前で立ち止まった。手ににぎっていた懐中電灯の光がかすれかけた白いペンキの文字をしっかりと照らし出す。


「おーい、これだこれ。お堂まで右に四百メートル」


 立て札には、お堂まで右方向に四百メートル、展望台まで左方向に一.五キロと書かれていた。


 リーダー格に見えるスポーツ刈りの髪型の男の子は、ニヤニヤわらいながらその立て札を見ていた。他の太っちょとやせ型の二人は、あとからパタパタやってくる一人のほうを見ながらニヤニヤわらっている。


「ま、まってよぉ。そんなに早く先に行かないで……」


「ばーか。お前のペースに合わせていたら、いつまでたっても先に進まねえだろうが」


「ハハハハ……」


「ウヒヒヒ……」


 リーダー格にあわせて笑いだす二人。笑われているのは、三人にくらべたら背が気持ち小さくて、どう見てもおとなしそうな男の子。


「おい一条、お前、勇斗って漢字で書いたら強そうな名前なんだろうが。でもお前、どこもそんな強そうな感じしねぇじゃないか」


「だ、だって……」


 涙ぐんでしまうその男の子を、さらに他の三人はジリジリとなじる。


「お前なぁいっつもいっつもグシグシしやがって」


「そんでもって、助けてくれるのはいっつも女子ばっかだもんなコレ」


「お前、本当に男なのかよ?」


「う、うう……」


 力なく下にうつむいてしまう勇斗。


 今度はどこからか遠くから犬の遠ぼえが聞こえてきて、おもわずびっくりして飛び上がってしまう。


「ふ、ふわわっ!」


 そんな勇斗を、三人はニタニタしながらながめていた。


「ちょ、お前なぁ、そんな犬のなき声にもビビッてんのかよ!?」


「やっぱり計画通り、コイツをきたえ直さないといけないみたいだな」


「き、きたえ直す?」


 ニタニタと、いやらしい笑い顔をくずさない三人組。勇斗は知っていた。こんな顔の時の三人は、必ず勇斗にとってうれしくないことを用意しているのだ。


「おい一条。お前さっきの肝だめしでここに来た時に、ちゃーんともって帰らないといけなかった証拠のカード、落としちゃったんだろ?」


 やっぱり気付かれていたんだと、勇斗はショックを顔に出してしまう。


「そ、それは鉄也くんが急におどかしたりするから、お堂で落としちゃったんじゃないか。それに大人の人たちも、いっしょだった晴香ちゃんの分があったからいいよって……」


 それは二時間ほど前に行なわれた、肝だめしイベントでのこと。町内会のキャンプでこの山にやってきたみんなは、夕食を終えるとこの先のお堂で肝だめしをしたのだ。


 二人一組になってお堂まで行き、ちゃんと行ってきたと言う証拠の、“勇気のカード”を持って帰ってこなければいけないというのが肝だめしのルールだった。


 その時は同じクラスで、いつも他の男子からからかわれているときに助けてくれる、女子グループのリーダー、霧崎晴香ちゃんといっしょに(手を引かれて)行ってきたのだが、肝心のカードは三人組のリーダーである黒田鉄也に帰り道でおどろかされて、はずみでどこかに落としてしまったのだった。


 先にコースを回っていたのにゴールせず、わざわざ勇斗をまちかまえていたのだから、タチの悪さは筋金入りである。


「ばーか。いくら大人がおっけーって言ってもな、オレたちはそれじゃみとめてやれねぇんだよ。そうだろ、ダゼ金森、コレコレ石塚」


「そうだゼ、一条」


「あれでクリアだなんて、みとめたくねえぞコレ」


 口ぐせがあだ名というのもびみょうだなと少し思っている勇斗だったが、自分に危険がせまっているのを考えると、人のことばかり考えてはいられない。


「というわけだ。同じ町内の、同じクラスの、同じ男として、あんなのはみとめられねぇ!」


「だ、だからちゃんと持ってこいっていうの?」


「その通りだ。そしてな、お前の成長のためだ。ここから先はお前一人で行ってくるんだぞ」


「え、で、でで、でも……。ほ、ほんとうにボク一人で?」


 おどろいて、金魚のように口をパクパクさせている勇斗。こわがりの自分が一人であんなこわくてたまらない場所に向うなんて、考えられもしない事だ。


 しかし、他の三人はようしゃしない。特に鉄也は、もっととんでもないことを言い出したのだ。


「できなきゃ、勇斗には明日から“ちゃん”付け決定だぜ!なあ、勇斗ちゃ~ん!?」


「そ、そんなぁ!」


 だが、三人組はいくら勇斗が悲鳴をあげて嫌がっても、聞く耳なんてこれっぽっちも持ってくれない。


「そーだゼ、ちゃん付け決定!」


「コレ決まり、コレ決まりぃ!」


『やーい、勇斗ちゃ~ん!』


 三対一で言い立てられてしまうと、もう相手に逆らう事ができなくなってしまうのが、気の弱い勇斗だった。


「わ、わかったよ……。行ってくるよ。行ってくればいいんでしょ!」


 こうして涙目の勇斗はガタガタとふるえながら、まっ暗な夜の道を、一人ぼっちで進んでいったのだ。

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