第6話 土の精霊アダマント ②
最後に残った土の結界は、この山で最もけわしいガケのふもとにある大きな岩にあった。大昔に、地震か何かで真下にくずれ落ちたものらしく、とにかく見上げるほどに大きい。
「ここが土の結界」
「この大きな岩がそのはずなんだが……。気配がねえな。どこにいやがるんだ?」
きょろきょろと様子をうかがうユウトとクーラリオ。結界に入った時に感じる独特の気配は感じているので、場所はここでまちがいないはずなのだが。
ペタペタと岩肌をさわってみるユウト。さわってみても何も感じられなかったのだが、その時だった。
「じ、地震?!」
ビリビリと足元がゆれはじめ、さわっていた岩から押し付けてくるように重たい鼓動が聞こえ始めた。ユウトもクーラリオも、あわてて空に飛び上がる。
「ま、まさかこいつは!」
「う、うそでしょ?!」
岩がそのまま持ち上がり、バスのように大きな足が地面の中から出てきた。一歩一歩ふみ出すごとに、グラグラ、ミシミシと地面が波うつようにゆれる。
「か、かめぇ!?」
その姿を見たユウトはすすっとんきょうな声をあげた。
「ちがう!あれが土の精霊、アダマントだ!」
「あ、あだまんと?」
「魔導界にいる土の精霊で、一番かたい甲らと一番大きな体を持っているのがアダマントだ。いつもは土の中で何年も何年も眠っているだけで、動き出す事だってめずらしいってのに」
「これじゃあ怪獣だよぉ」
地ひびきをあげてドッシドッシとのし歩くアダマントは、まるで陸地をのし歩く大きな船。まわりの木々をものともせずに、なぎ倒しながらつきすすむ。
「どうする?ユウトもアイツと同じくらい大きくなって足を止めるのか?」
冗談とも本気とも取れないような口調のクーラリオ。
「もう、ボクがそんな魔法使えないって知ってて言ってるでしょ!」
ユウトはアダマントに向って急降下すると、次々と風の刃をくりだした。しかし、そのかたくて大きい体には、多少のキズでは足止めすることだってできやしない。
そんなユウトがうっとうしくなったのか、アダマントは思い切り口の先をすぼめ、狙いをさだめる。
「ユウト!よけろ!」
「ふわわぁ!」
甲高く耳を切りさくような音が聞こえた瞬間、急旋回で身をかわすユウト。いい加減、空を飛ぶことにもなれてきたので、目を回すことはなくなったが、そのおかげでアダマントの口から飛び出した攻撃の恐ろしさを、冷静にハッキリと目にする事になってしまう。
「あわわ……、あいつ、口から大砲うってきたよぉ」
「体に飲みこんでいた岩をはき出したんだ!」
アダマントはお腹の中に転がしていた大きな岩を、大砲の弾のようにはきだしたのだ。
「もしかしたら、あの岩って音より早いんじゃないのか?あんなのが当たったら、いくら魔法のバリアがあるからって、こっちも無事じゃすまないぞ」
「じゃ、弱点はないの?」
アダマントのゆっくりとした、その分重々しいしっぽの攻撃をよけながらユウトはたずねる。
「あの図体だから、動きがにぶいっていうのが一番の弱点だ。こっちはアイツにつかまらないようにちょこまか動いて、少しずつ体でもやわらかいつけねの部分を狙うしかないぞ」
ユウトはアダマントの体をよく見てみる。ゴツゴツした岩のような、とんでもなくかたそうな甲らに、動物園で見る象より何倍もぶあつくて強そうな皮ふ。まるで岩でできたガスタンクがのしあるいているようにしか見えない。
「こいつは時間かせぎが目的なんだ。いくらがんじょうそうだからって、攻撃をためらっていたらゲオルギィのヤツの思うつぼだぞ」
「お日様がお空にのぼってしまったら手遅れになっちゃうんだ……」
ユウトは小きざみにふるえていた左手で自分の右腕をつかむ。するとそんなユウトの気持ちに気がついたのか、ユウトに力をかしてくれている精霊たちがこたえてくれた。
風の羽飾りからは気持ちがよくなる風の音色。水のマフラーは波うつように首のまわりをなでてくれ、火のブレスレットは心地よいあたたかさでその手をあたためてくれた。
「よし、行くよ!」
ユウトはしっかりと帽子をかぶりなおすと、稲光のようなジグザグ飛行でアダマントに向っていった。
「ユウトのやつ、ほんの何時間でマーダル様からさずかった力をあんなにも使いこなせるようになったんだな」
ユウトの頭の中は、クーラリオが思ったような事を考えられるよゆうは、ほんの少しもない。とにかく、相手につかまらないようにして、倒さなきゃいけない。とにかくそれだけで頭がいっぱいだ。
「うわぁぁ!」
かみなりのような速さで、アダマントの足元を飛び去ったユウト。するとその直後にアダマントは足をくずして動きをとめた。ユウトは飛び去る時に、自分の体ほどもあるような大きな風の刃をいくつもくりだして、アダマントの前足を集中的に攻撃したのだ。
前足ばかりに攻撃が集中し、そのまま前のめりにくずれるアダマント。だが、すぐにムクムクとキズがもりあがって治ってしまう。
「だめだユウト!図体がデカすぎて、足の芯まで攻撃がとどかねぇえし、キズ口を広げてもとどく前に治されちまう!」
「ど、どうしよう!?」




