第6話 土の精霊アダマント ①
「クーラリオ、もう一つ聞いておきたい事があるんだ」
「何だ?」
土の結界に向う途中の空の上でユウトは話を切り出した。それは今戦っている恐ろしい魔導師、ゲオルギィの事だった。
「どうしてあのおじさんは命の光をみんなから取り上げちゃったの?一体何をやろうとしているの?」
その質問にしばらく答えないクーラリオ。
「ねえ、教えて。どうしても知りたいんだ。どうしてこんな恐ろしい事ができるのかって」
しっかりした声と視線を向けてユウトはたずねる。その様子をちらりと見ると、ようやくクーラリオは口を開いた。
「知ってどうするんだ?」
「どうするって、相手のことを少しでも知っておきたいのは当たり前だよ」
クーラリオの怒ったような返事に、めずらしく言葉を乱暴に使ってしまうユウト。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、か」
「うん、そうだよ。相手のこともよくわからないんじゃあ、どうしたらいいのかわからないよ」
相手のことを知らないまま戦いを続ける事ができないというユウトの言っている事はもっともな話だった。しかし、クーラリオはなおもためらいを見せる。
「オレ様は、お前が砂糖菓子にハチミツをぶっかけたみたいな甘ちゃんだから心配しているんだ。相手のことを知ったらお前の決意がにぶったりしないかってことをな」
「それってどういうこと?」
「ゲオルギィのやつにも、ほんの少しだけ同情の余地があるってことなんだよ」
カシャカシャと目のシャッターをせわしくまばたかせるクーラリオ。ユウトにそれを教える事で本当に迷ったりしないか、しっかりと見つめなおす。それにユウトは力強い眼差しを返してきた。
だったら、教えるのを迷う必要はない。教えない事でかえって集中できなくなるかもしれないからだ。
「あいつは自分の息子を生き返らせようとして、こんな事をしでかしやがったんだ」
「ええ!?あの人は自分の子供を生き返らせようとしていたの?!」
おどろきをかくせないユウト。だがショックを受けているからといって中断する余裕はないと、かまわずに続ける。
「ゲオルギィの息子はちょうどユウトと同じくらいの年に、とつぜん事故で死んでしまったんだ。それからあいつは息子を生き返らせようと、研究に研究を重ねはじめた」
「そ、そうだったんだ」
「そしてたどりついた答えが、他人の命の光を使って、死んだ人間を生き返らせることだったのさ」
ゲオルギィの動機を聞かされてショックをかくせないユウト。だが、すぐに自分が命の光をぬき取られ、マーダルに救われた時の事を思い出していた。
「で、でも!人の命の光は、それぞれの人のものだから、ほかの人のじゃあ長く持たないってマーダルのおじいさんが!」
そう、マーダルは言った。他人の命の光で命をのばすことはできても、それはほんの少しだけだという事を。
「そうだ、マーダル様のおっしゃった通りだ。いくら大勢の人の命を電池みたいにとっかえひっかえにするなんて、いつまでもできるわけがねえんだ。それに大勢の人のものを使っていたら、元の命の光も変わってしまって、いずれ消えてしまう」
「クーラリオ、よく知っているんだね」
「ああ。死んでしまった大切な人を生き返らせたいって考えるヤツは、いつでもどこにでも大勢いるからな。その中には本当に生返らせようと、それをためしてしまったやつもいたんだ。だから記録も残っているってわけさ」
「そうなんだ……」
ユウトのお父さんもお母さんも元気だ。一人っ子なので兄弟姉妹はいなくて、おじいちゃんおばあちゃんたちは、ユウトが生まれる前に亡くなっているので会った事はない。だから、大切な人をなくした気持ちが本当にわかるわけではない。
でも、自分の両親や仲の良い友達がとつぜん死んでしまったとしたら。きっとものすごくかなしんで、できることなら生き返らせたいと思うにちがいない。でも。
「でも、生き返ってほしい人がいるからって、関係のない大勢の人の命をうばうなんてまちがっているよ!自分と同じようにかなしむ人をたくさんふやすだけじゃないか!」
「そうだ。全くその通りだ。でもな、自分の大切な人をなくしてしまうと、そのことが見えなくなっちまうやつが大勢いるんだ」
「だからとめなきゃ、やめさせなきゃいけないんだね」
「ああ。本当に取り返しがつかなくなる前にとめなきゃいけないんだ。そしてまわりが見えなくなって、まわりの声が聞こえなくなっちまったやつは、力づくでとめるしかねえ」
「力づくなんていやだけど、ほかに方法がないんだったらやるしかない」
「おうよ。わかってきたじゃないか」
どこかうれしそうにしているクーラリオに、ユウトはかなしそうにつぶやいた。
「でも、わかりたくなんてないよ。本当は」
しかしクーラリオはそんなユウトにやさしく返事をする。
「ユウト、お前はそれでいいんだ。いきなりものわかりがよくなって、何でも力づくで解決してやるなんて言い出したら、そんなのはユウトじゃないもんな」
最初はたしかにおびえてためらったり、今でも口ではためらうような事を言っているユウトだったが、いざとなったらこちらがおどろいてしまうことを、何のためらいもなくやってしまうのがユウトなのだと、クーラリオはわかっていた。
「よし、できるかぎり話し合いで解決するのをめざして、気合を入れていくぞ」
「うん!」
土の結界が間近にせまったのを感じると、二人は速度をおとして地面に降り立ったのだった。




