第5話 火の精霊エンジュ ⑥
エンジュを見事につかまえたユウトは、急いでクーラリオのところに飛んでもどる。
「クーラリオ、やったよ!ボク一人でちゃんとやってきたよ!」
「よ、よくやったな……」
ユウトは水のマフラーをゆっくりひらいて、火の種をクーラリオに見せる。
結界の場所からひきはなされてしまった上に、弱点である水にしっかりとくるまれてしまったのではさすがのエンジュも何もできない。ぶくぶくと水をあわ立たせているが、それが最後の抵抗のようだった。
「水にくるんでごめんねエンジュ。でも、こうするしか他に方法が思いつかなかったんだ」
ユウトは水のマフラーごしで、火の種に巻きつけられていた針金をはがし取った。これがエンジュがつけられていたゲオルギィのトゲ金の針金。はがされると、エンジュの火の種は、その色をやわらかいオレンジに変えた。
「よかった。いままでずっと苦しい思いをさせてごめんね」
そして右手の上に火種をうかべると、今度は左手でちょいちょいとタクトをふると、まわりにおちていた、かわいた木の枝を集めた。
「こいつのために、たき火をするのか」
「うん。ここはほかに燃えうつるようなものもないけど、すぐに水が増えて流されちゃうこともないから」
こんもりともられた、枯れ枝の上に火種をのせる。するとパキパキと音を立てて枯れ枝は燃え出し、あたりにやわらかいオレンジ色の明かりを灯す。
「本当は火山の近くに連れて行ってあげるのが一番なんだと思うけど、今は時間がないんだ。だからこれでガマンしてね、エンジュ」
やさしい、こころからいたわる声でエンジュに話しかけるユウト。その時、パチンと何かが弾ける音がして、あわい緑色の光が。ゲオルギィがエンジュに与えていたベリドットが弾けて消えたのだ。
その瞬間、エンジュからゆっくりとわきあがるように出てきた火の粉が、ゆっくりとユウトの両腕で輪を作る。
火の粉のはずなのに、熱いと少しも感じない。それどころか体のそこをあたためてくれるような、やさしくて心強い熱をくれる。そして火の粉はゆっくりと固まって、炭火のようにやんわりと赤く光るブレスレットに変わっていた。
「エンジュも力をかしてくれるんだね……。ありがとう!」
ほんのり涙ぐんでしまうユウト。ついさっき、自分が焼きおにぎりにされかけるくらい苦戦した相手だっただけに、味方にしたときのうれしさもひとしおだった。
「クーラリオは大丈夫?」
「ああ、何とか省エネ運転に切りかえたところだ。ユウトが大丈夫なら、最後の結界にむかうぞ」
心配そうにしているユウトに、クーラリオは首をコキコキと左右に振り、翼をおおげさにバタつかせて応えてみせた。
「うん、わかったよ。最後の土の結界に行こう」
一息入れる時間もおしいと、ユウトはふんわりと空にうかびあがった。クーラリオも羽ばたいて飛び上がる。体の調子は本当にもどってきたようだ。
「ねぇ、どうして土を最後にしたの?」
ふとした疑問をぶつけてみた。その問いに、クーラリオはしっかりとした口調で答える。
「土に有利なのは火っていうのもある。でも、それ以上に最後にしなきゃいけなかったのは、ユウトがしっかり強くなっていないと、土の精霊には勝ち目がないからだ」
「そ、そんなに土の精霊さんって強いの?!」
びっくりぎょうてんのユウトにガクはそのまま説明を続ける。
「ゲオルギィは土の魔法が得意で、昔は土の精霊とちゃんと契約していたんだ。そして今も禁断の方法を使わなくても、土の精霊と契約を結ぶのはお茶の子さいさいってワケさ。フーガやミズチみたいにムリヤリしたわせているわけじゃないから、自然に精霊は力をあいつにかしている」
「だから強いんだ」
「そういうこと。どの精霊を使っているかはわからないが、どれが相手でも強敵なのはまちがいない。これからが正念場ってことさ」
ユウトは思わず息を飲みこんでしまった。
「どうした?またこわくなったのか?」
「うん。こわい、こわいよ」
くちびるを軽くかんでうなづくユウト。
「でも、でもね、こわいからって逃げ出したりはしないよ。絶対にするもんか」
「だな。ここまできて逃げ出せるわけねえもんな」
そう、いくらこわいと思っても、そして口に出してしまっても、ユウトは心の底からおびえていたわけではなかった。背筋はぴんとしていて、瞳の光もしっかりしている。
その様子を見て取ったクーラリオは、うんうんとゆっくりうなづくと、ユウトより先に飛び出した。
「よっしユウト、しっかりついてこい!時間は一分一秒だって無駄にできないんだからな」
「うん、わかっているよ!」
はげしい戦いの末に、三つ目の結界を打ち破ることはできたユウト。結界はあと一つだが、もっとはげしいものになるだろう。
残る結界は最後の一つ。




