第4話 水の精霊ミズチ ③
「よっしゃぁ!」
クーラリオのよろこびのさけび。
視界がはれると勝敗は明らかだった。ユウトは飛び散った水を浴びてずぶぬれになっていたが体にキズは一つもない。対してミズチは、その水で作った体の半分を吹きとばされていた。
「いけるよ!」
けれどもユウトのよろこびも、ほんのつかの間。すぐにミズチは滝つぼのまわりの水をすいあげると、たちまち体を元にもどしてしまったのだ。
「そ、そんなぁ」
おどろきとガッカリをかくせないユウト。しかし意外にもクーラリオは余裕の様子。
「気にするなユウト!この調子でミズチの体の回りの水を全部吹き飛ばしちまえ!水がなくなってしまったら、あいつは元には戻れないぞ!」
「そ、そうか!ここは小川だし水があんまりないから……」
「そういうことだ!」
「よ、よーし!」
風の精霊フーガの力をかりている今のユウトは、思ったように空気をあやつることができる。だから空気をおもいきり固めた空気弾いっぱい作って、次々とうちだしつづけた。
空気弾はミズチの体に当たると爆発してミズチの水の体をふきとばす。けれどもミズチは、すぐにまわりの水を吸い集めて体を元通りにしてしまう。
ミズチとの勝負は一進一退のはげしいものになった。
だが、まわりにこれでもかとたくさんある空気と、滝つぼのまわりに限られている水とでは量がちがう。少しずつだが確実に一歩一歩とユウトが押していたのだ。
「もう少しで……」
肩で息をぜいぜいとつくユウト。ユウトも疲れを見せていたが、ミズチはその体の大きさを半分以下にしてしまっていた。
このままいけば、ミズチの水の体をひっぺがして本体だけにしてしまうのもあと少し。けれどもクーラリオはミズチの様子がおかしい事に気がついた。
「そういえば小さな滝つぼだからって、それだけにしてはやけに水が少ねぇ……。まさか!」
いくら場所が小さな滝つぼだからといって、今まで流れていたはずの水がきれいになくなっていたのはおかしなことだ。クーラリオはすぐに危険をユウトに知らせた。
「空へ逃げろ、ユウト!」
「え?!」
「ミズチは何かやらかす気だぞ!」
「何かって……、うわわぁ!」
だが遅かった。ミズチが現れてから流れが止まっていたはずの滝の上流から、今までたまっていた分の水が一気に流れ落ちてきたのだ。
ミズチはわざと上流をせき止めて、水をためこんでいたのだ。
「逃げろ!逃げるんだ!」
しかし時はすでにおそかった。ためこんだ水をえて、とんでもなく巨大化したミズチは、ユウトを一口で飲みこんでしまう。
「ユウト、逃げろ!逃げ出せ!」
だが、ミズチはとぐろを巻いて丸まると、体内の水を大うずにしてぐちゃぐちゃにかき回す。ユウトは洗濯機の中の洋服かタオルのようにぐちゃぐちゃにかき回されていた。
「ユウト、ユウト、ユウトォ!」
大きくふくれあがったミズチの体の中で、ユウトは口や鼻から水を飲みこまないように手でおさえて丸まっていた。
しかしそれもどれだけ持つのか。回転が速くなると、ユウトの様子も見えなくなってしまう。
やがて、ミズチはその口に流木を飲みこむ。流木は渦のなかでするどくとぎあげられ、やりのようになってしまった。
そのヤリのようにとがった何本もの流木はうずのなかで暴れだす。
ユウトにとどめをさそうというのだ。
「こ、こんちくしょう!オレさまをナメるんじゃねぇ!」
全身を光らせて、ミズチに体当たりしてユウトを助け出そうとするクーラリオ。
だが、ようすがおかしい事に気がつき、とちゅうで急ブレーキ。そのまま急上昇した。
ドォン!
突然、大爆発がおこった。
ミズチにあつまっていたたくさんの水がふきとばされ、あたり一面は水びたしの大洪水。急上昇したクーラリオも、あぶなく水の柱に飲みこまれるところだった。
「な、何がおこったんだ?!」
二、三回空中をぐるぐると回ったクーラリオは静かに爆発の中心に向う。
そこには、全身ずぶぬれになっていたユウトが一人立っていた。うでの中に、何かを大事そうにかかえて。
「つ、捕まえたよ……。君、こんなに小さかったんだ」
ユウトのうでの中にいたのはミズチの本体だった。
ペットショップに売っているウーパールーパーの手足をなくして、もう少しトカゲのようにしたような体だろうか?ユウトが楽にかかえられる大きさの両生類に似た動物。それが水の精霊ミズチの正体だった。
ミズチはフーガと同じように首輪をつけられていた。水からはなされてしまい、ぜいぜいと苦しそうに息をついている。
「君も首輪をはずしてあげるね。もう少しおとなしくしていて」
ユウトはフーガと同じようにやさしく子守唄のように呪文をとなえる。するとミズチの首輪はくずれ落ち、水にとけて流れていった。




