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魔導少年ユウト  作者: むげんゆう
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第4話 水の精霊ミズチ ②

 ユウトはまず滝のてっぺんを見上げたあと、何かいるのかもしれないと思って滝つぼにむかって近づいていく。


「すいませーん。水の精霊さんはいますか?」


 やがて、うっすらと“もや”が出てきてまわりの様子がぼんやりと見えなくなってきた。


「急にもやが出てきやがったな。ユウト、注意しろ。こいつは不自然だぞ」


その時だった。


「ふ、ふわわぁ!」


「おい、どうした?!」


 上空を見回っていたクーラリオが急降下してみると、静かで平和そのものだった滝のまわりの様子が一変していた。


「がぼっ!がぼぼっ!」


「おい、もやが急に水になったってのか!」


 まわりにただよっていた“もや”が、ユウトのまわりに集まっていた。いや、それはもうもやと呼べるようなものではない。水の帯になっていたというのが正しいだろう。


 そして水の帯は、大蛇が得物をしめつけるようにユウトの体をしぼり、頭をすっぽりとおおいかくして、息ができないようにしてしまっていた。


「ごぼぼ!ごぼぼ……」


「ふきとばせ!風の力でふきとばすんだ!」


 ユウトは巻きついてきた水を飲み込んでしまって危うくおぼれそうになりながらも、必死に風の呪文をとなえつづけた。すると風の魔法が発動し、ボン!という音を立てて、ユウトに巻きついていたもやの大蛇は吹き飛ばされてしまった。


「けほっ!こほっ!けほっ!」


 その場にうずくまって、けほけほとせきこむユウト。まちがって肺の中に飛びこんでしまった水をはきだすのにいっしょうけんめいだ。


それでも苦しそうに右手で胸をおさえながら、左手でタクトをかざすのも忘れていない。タクトの動きに合わせて、くるくると風がユウトを巻きはじめた。


「よし、ちゃんと風でまわりを囲ったな」


 ユウトは風を巻かせて、自分のまわりに水が入ってこないようにバリアを作った。クーラリオはそのすきまから飛びこむと、ちょこんとユウトの肩にとまる。


「今のが水の精霊さんの力なの?」


「そうだが、あれはちっとも本気じゃねえ。あのくらいはいたずらみたいなもんだ。本物はこんなもんじゃないぞ」


「こんなものって……、ふわわっ!」


 ユウトの目の前で、滝の水が下から上にさかさまに逆流しはじめた。それもただ逆流しているわけではない。


 水はうねりながら舞い上がり、やがてとても大きな生き物のような姿に変わっていく。それはまるでおとぎばなしに出てくる龍のようだった。


「み、水の龍だ……」


「こいつはミズチだな」


 たんたんとクーラリオは水の精霊について教えてくれる。


「フーガとちがって、ずいぶん大きいよ」


「いや、ミズチはそんなに大きな精霊じゃない。どんなに大きくなっても、人間の大人くらいの大きさにしかならないはずなんだ」


 でも、あんなに大きいよと言うユウトに、クーラリオはミズチについてもっとくわしく教えてくれた。


「あれはミズチが水で作った体だ。敵と戦うときは、ああやって自分の体を何十倍にも大きくするってわけだ」


「そうなんだ。なんだかカッコイイなぁ」


 こわいのを通りこして、その大きくて美しい姿にみとれてしまうユウト。


「たしかにコイツも高名な魔導師たちがよくペットにしていたりするんだ。でもなユウト、今は感心している場合じゃないぞ」


 二人の目の前には、長さが二十メートルにもなろうかという巨大な水の龍、ミズチがたちはだかっていた。


ミズチの口が大きく開かれる。


「よけろ!」


「ふわわ!」


 ミズチの口から、水の刃が勢いよくはきだされた。とっさによけることができたユウトだったのだが。


「マ、マントのはしっこ、切れちゃった……」


「やろう、水を手裏剣みたいに使ってきやがったな!」


 なんとかよけることができたユウトだったが、マントのはしっこがすっぱりときれいに切りさかれていた。


「前、テレビで見たんだ。水ってものすごく圧力をかけたら、一番固いダイヤモンドだって切ってしまうんだって」


「そういうこったユウト。あいつの攻撃は、よけないとシャレにならないってこった。よけそこなったら、今度はお前の体がきれいにまっ二つにされちまうぞ」


 ドスのきいたクーラリオの助言に、ユウトは思わず息をのむ。


「ビクビクするな。さっき見せた度胸はどこにいった?」


「わ、わかってるよ!フーガからもらった風の力で吹き飛ばしてやる!」


「よしよし、その調子だ!」


 ユウトはにぎったタクトを、くるくるとうずを巻くように回しはじめる。すると、まだ呪文もとなえていないのに、まわりの空気がぎゅんぎゅんとうなりをたてて集まってくる。


「フーガ、力をかして!」


 あつまった空気はタクトの先でボールのように丸まっていく。空気の爆弾だ。


「行って!ターム!」


 ユウトが空気弾をうちだしたのと同時にミズチもその長くて太い水の体をたたきつける。


 バシィ!!


 水と空気が爆発した衝撃音がひびきわたる。


 辺り一面にまきちらされた水しぶきは、まるで夕立のようにはげしい。


 はたして、勝ったのはユウトなのかミズチなのか?!

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