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魔導少年ユウト  作者: むげんゆう
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第4話 水の精霊ミズチ ①

「わははーい!ひゃっほう!」


 ユウトのケガはクーラリオの治療魔法できれいに治してもらった。ついでだからと、いっしょに服もパリパリの新品にもどしてもらって、格好も心もきれいにピカピカに。


 そして風の羽かざりを使いこなせるようになって、本当に思い通りに空を飛べるようになったユウトは、プラネタリウムでしか見たことの無いようなたくさんの星明りでいっぱいの夜空を、元気よく楽しそうにくるくる飛びまわっていた。


「空を飛ぶのって、こんなに気持ちがいいことだったんだね!」


 身の変わりの早さに、よろこんでいいのやら、なにやら正直びみょうなクーラリオ。


「おいおいおい。ほんの少し前まで走り出すこともこわがっていたクセに元気なもんだなぁ」


「だってこんなに高く飛んでいたら、さっきみたいに木に頭をゴツンってぶけたりする心配なんてしなくていいんだもん」


「なるほど、そういうことか……」


 高い空を飛びまわる気持ちよさよりも、まわりにぶつかるような物がないから楽しいんだと言うユウトに、空が飛べて当たり前のクーラリオはガッカリしていた。いや、きっとユウトに力を貸している風の精霊フーガも同じ事を思ったにちがいない。


「わーい!まるで体に翼がはえたみたいだよ!」


 びゅんと打ち上げロケットのように急上昇したと思えば、今度はまっさかさまに急降下。きりもみ飛行にバレルロールと、プロペラ複葉機のアクロバット飛行みたいに、思う存分夜空を飛びまわる。


「ユウト、本当にゴキゲンだな。でもなぁ」


「なあに?」


「楽しい楽しい夜空の空中散歩も、ここらで一旦お休みだ。見えてきたぞ、水の結界が」


 クーラリオはくいくいと、ユウトに目線で水の結界の場所を示した。そこは山の奥からわきだした水がこんこんと集まって流れ落ちる、山の奥深い場所に眠っている、清らかな白い龍のように見える一すじの滝だった。


「ふわぁ。あそこに水の結界があるんだ」


「そろそろ降りるぞ」


「どうしてなの?」


 不思議そうにたずねるユウトに、クーラリオはぴりりと空気をかたくして教えてくれる。


「こっちは空を飛んでいるから、地上からだと丸見えなんだ。狙い撃ちにされたらかなわないからな」


 ユウトとクーラリオは舞い落ちる木の葉のようにゆっくり静かにと着地すると、今度はビュンと、木々の間を吹きぬける風のように滝の方に向って走り出す。


「おう、ずいぶん上手に走れるようになったな」


 さっきとちがって、けもの道でもぶつからずにスイスイ走りぬけるユウトを、素直にほめてあげるクーラリオ。ユウトのような自分にあんまり自身を持てないタイプには、怒るよりもほめたほうがいいと、ようやくコツがわかってきたらしい。


「あれだけごっつんごっつん頭をぶつけたり転んだりしたから、コツ覚えたからもう大丈夫。走っても飛んでも、ボクはスイスイ一番星!」


けれどもその言葉を言い終わったすぐ後に、ガツン!とにぶい音が森中にひびいた。


「ふわぁ!あいたぁ……」


 油断大敵。にょっきり飛び出していた木の幹に、ユウトはおもいきりおでこをぶつけてしまったのだ。


「やれやれ、力の使い方を覚えたってほめってやったそばからこれだ。お前ってやつは本当にポンコツだなぁ」


 これだからお前ってやつはと、ふうっとためいきをついてしまうクーラリオだった。


 結界の中心という滝は、森が開けた大きな岩やくちた流木があちこちに転がっている河原にあった。昼も夜も、夏も冬も関係なく、水がドウドウとすべりおりてくるこの滝からは、落ちてはじけた水しぶきが風に乗って広がっていて、この辺りの空気をひんやりしずめてくれている。


「ふわぁ。ここの空気、すっごくひんやりしていて気持ちいいよ」


「ということは、水の結界の主のテリトリーに入ったって事だ」


 見るからに気持ちよさそうにしているユウトに、クーラリオはちくりとユウトにクギをさす。


「どういうことなの?」


「この辺りの空気が水のしぶきでいっぱいっていうことは、この辺りは水の精霊の力でいっぱいということにもなる。だからこっちの動きは全部、何でもかんでも手に取るように見られていると思っていいぞ」


 思わずゴクリと息をのんでしまうユウト。そうと聞いてしまったらはしゃいで滝つぼに向かう事なんてできやしない。だから足取りもゆっくり重たく一歩一歩とふみ出して、きょろきょろと周囲をていねいにうかがいながら、慎重に、慎重に前に進む。


しかし、気配はどこからも感じられない。ただ、なめらかに流れ落ちる冷たい水の音が河原一面にひびいているだけだった。


「でも、何もいないよ?」


「そんなはずはないんだが……」


 目の前には、夜空の月の光をあびて銀色の絹糸のように水がこぼれおちる滝があるだけ。


 真下に落ちた水は岩にくだけて小川になっている。たまっている水もそれほど多いわけではなく、何か大きな生き物が、あるいはものすごい力を持った精霊がそこにいるようにはとても思えなかった。

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