第3話 風の精霊フーガ ①
「ふわぁぁん!ふわぁぁん!ふわぁぁん!」
「ごらぁ!戦う前からぐじぐじ泣いているんじゃねぇ!」
展望台にむかったはずのユウトとクーラリオだったが、今いるのは道のとちゅうの休憩小屋のベンチ。
どうしてしまったのかと様子を見ると、ユウトは体中どろだらけで、すりキズだらけのボロボロの姿になってしまってへたりこんでしまっていた。クーラリオはそんなユウトの頭の上を飛びまわりながらお説教していたのだ。
なんでこんな事になってしまったのかといえば……。
「だって、だって、体が早くはしりすぎて体がおいつかなかったんだよぉ!ボク、運動は苦手で体育でもあんまり成績よくないし……。だから、だから、あんなに早いと転んでぶつかって打っちゃってすりむいて……。ぐしっ、ぐしっ」
「あ、あのなぁ」
クーラリオでなくても、これにはあきれてしまいたくなる。
運動神経がポンコツなユウトは、クーラリオの飛んでいった後をおいかけてけもの道を通りぬけた時に、まわりにいっぱい生えていた木やたくさんの枝などをよけきれずにどんどんぶつかってしまい、ゴロゴロと坂をころがってしまい、ぐしゃぐしゃのボロボロになってしまったのだ。
「やっぱりムリだよ!もう痛いのイヤだよぉ」
やってやるんだというさっきの決意はどこへ飛んでいってしまったのやら。ユウトはいつもの泣虫弱虫にもどってしまって、わんわんと泣き出してしまった。
けれどクーラリオはそんなユウトを本気の本気でしかりとばす。
「おいごらぁ!痛いとか痛くないとか、そういう問題じゃねぇんだぞ!」
「で、でもぉ」
「このくらいでぐじぐじしてたんじゃあ、誰も助けられないし、お前もそのまま死んでしまうんだぞ!」
「う、ううう……」
うつむいてポロポロと真珠の涙をこぼすユウト。
こんな姿のユウトをみたら、いつもならかわいそうにと見かねた誰かがとめてくれるところだが、クーラリオはユウトの泣き顔を見てもしかるのをやめようとしない。
「ふん、お前はいいだろうよ。何で自分が死んでしまうのか、きちんとわかって死ねるんだからな」
なじられてだまったまま下を向いているユウト。
「でもなぁ、あの場所にいたほかの連中はどうなんだ?!何にもわけわかんないうちに、あのまんまカチンコチンに凍らされたまま死んでいくんだぞ!?」
「そ、それは……」
そこまで言われて、ようやくユウトは声を出した。
「ふん。それでいいんなら、そこで日が昇るまでぐしぐし言っていろ!」
ユウトは首をぶんぶんと振ってさけんだ。
「そ、そんなこと、そんなことできないよ!町内会のみんな、おじさんもおばさんも、お兄さんやお姉さん、ボクの同じ学年の子も年少の子も、みんなカチンコチンで死んじゃうなんてイヤだよ!そんなのイヤだよ!」
それはユウトの本気のさけび。いままで出した事もないくらい大きな声でユウトはさけんでいた。
「みんなみんな一人じゃないんだ。お父さんやお母さんだって待っているのに、おじちゃんおばちゃんたちだって、こどもが待っている人だっているのに、いきなりみんな死んじゃうなんてダメだよ!」
それを聞いたクーラリオは、しっかりした目でユウトをみつめるとふるい立たせようとほえさけんだ。
「だったら立て!立ち上がるんだユウト!」
「う、うん!」
右腕で涙を力強くぬぐいさるユウト。顔についていたどろの点々が、ユウトの顔いっぱいにひろがった。
「いいかユウト。お前がこれからやらなきゃいけないのは、ころんだとかすりむいたとか、そんな生やさしい痛さですむようなことじゃないんだ。いっぱい血をながすかもしれないし、ひどけりゃ骨がボッキリ折れて砕けてしまったり、大やけどしてしまうかもしれない。もしかしたら朝日を見る前に、やられて死んでしまうかもしれない」
「でも、ボクがやらなきゃ誰がやるの?!ボクが行かなきゃ誰がいくの?!」
「そういうことだユウト!」
よく言ったと大きく力強くうなづくクーラリオ。
「よし!とりあえず、もう一回変身し直せ!そんな格好じゃあ、やっぱりカッコつかないだろ」
「うん、わかったよ!魔法変身!アス・マキ・ビー・マー・ジュ!」
もう一度の魔法の光がユウトの体を包みこむ。まぶしい光が消えると、ピカピカの新品の服装にユウトはもどっていた。
「これで仕切りなおしだな」
「で、でも、まだあちこち痛いよ……」
これはあくまで服装がきれいに戻っただけ。顔についていたどろはとにかく、あちこちのすりむきキズや打撲の痛みは全然消えていないのだ。
「おいおい。先はまだまだ長いんだぞ……」
やれやれとクーラリオは頭をつばさでかく。
「いいかユウト。たしかにケガを治す魔法はあるし、オレも使うことはできる。でもな、そんなケガでいちいち治していたら、こっちの力が持たねえんだ。だからそれくらいは気合でなんとかしてくれ」
「うん」
「なーに、本当にヤバくなったら、ちゃんとしっかり治してやるから、しっかりがっつりぶつかれ!」
「うん、わかったよクーラリオ!」
力強く背中をバンバンと翼ではたくクーラリオ。
「ふ、ふわわっ!」
「キズは治してやれなくても、気合はいつでも入れてやれるからな!」
びっくりして飛び上がってしまうユウトだったが、クーラリオの気持ちはしっかり伝わった。
「もう近道は気にせずに、ちゃんとした道なりに行くぞ!そのかわり、遅れた分は取り返すつもりでいくからな!」
「わかったよ!今度はちゃんとバッチリやってみせるよ!」
パンパンと顔をはたいて気合を入れてみるユウト。ちょっと力が強すぎたのか、痛くてちょっと涙目になってしまうが、こんなことで泣き出すわけにはいかない。
「よっし、気合が入ったところで、今度こそレッツ&ゴーだ!」
ユウトは力強く走り出した。今度は力に振り回されないように投げ飛ばされないように。
一歩一歩ふみ出す足元から、力強く風が吹き起こり、ユウトの体を前に前にと押し出す。だんだんと体が宙に浮き上がり、スケートをしているように足がすべりだした。
「わあぁ!わあぁ!」
今までのようにおっかなびっくりの声ではなくて、うれしさとおどろきの声を出すユウト。
「やれやれ、やっとなれてくれたか……」
自動車もビックリのスピードで、ユウトとクーラリオは展望台にまっしぐらに向っていった。