第2話 魔導少年誕生 ⑤
クーラリオは目をとじて、こめかみに羽根をあてると何かを探している様子。やがて思い当たるものをみつけると、くちばしで器用にスカーフをはずしてワン・ツー・スリー。
「待たせたな。こいつを使え」
手品のようにどろんと出てきたのは、にぶく銀色に光る五角形の星型のレリーフ。
「わぁ。ボクの帽子につけられそうなレリーフだ!カッコイイなぁ」
「それがマジカルレリーフっていう魔導界の魔法の道具だ。ユウト、そいつをお前の帽子にしっかりつけるんだ」
言われるとすぐに勇斗は帽子のレリーフをつけかえる。元々ついていたワシのレリーフをハンカチでていねいにくるんでからポケットにいれると、渡されたマジカルレリーフを代わりに取りつける。
「できたよ!」
レリーフを取りつけた帽子をうれしそうにかぶる勇斗。
「よし。あとは自分が魔法使いになっている格好を、しっかり思いうかべて呪文を叫ぶんだ。呪文は、アス・マキ・ビー・マー・ジュ!」
「アス・マキ・ビー・マー・ジュ。だね。うん、わかった!」
お堂の軒下に立った勇斗は、右の人さし指をま上につきあげて、ノリノリのテンションで大きな声でさけぶ。
「いくよ、アス・マキ・ビー・マー・ジュ!」
するとレリーフの星がくるくると回転しはじめ、帽子がふわりと宙に。そしてそこからキラキラと光る小さな星くずをいっぱいにまきちらし、その星くずの光が輪になって勇斗の体に何重にも下りてくる。
「ふ、ふわぁぁ……」
今まで着ていた服が靴が、星くずの光にふれて姿を変えていく。
まっ白い半そでの上着にちょっと短めのマント。元気いっぱいのロングパンツにガードつきのスニーカー。そしてほんのちょっぴり外観のかわった勇斗の帽子が頭にしっかり。最後に星くずにのって飛び出した音楽の指揮棒のような小さな杖を、勇斗は右手でしっかりキャッチ。
「よっしゃ!魔導少年ユウトのお出ましってとこだな!」
クーラリオが呼び出した鏡には、ボーイスカウトっぽいの格好の魔導師になった姿が。くるくる回ってうしろ姿もばっちりチェック。われながらかっこいい姿になったと満足するユウト。
「うん。これなら空は飛べなくても、すいすい風のように走れそうだよ」
「おお、最初に向うべきところがよく分かっているじゃないか。さすがだな」
「ふ、ふぇ?」
ユウトの疑問にクーラリオは、ああなんだこうなんだと、まるでテレビに出てくる学者さんのように答えてくれる。
「魔導界だけじゃなく地上界に住んでいても、全ての人間は四大要素のどれか一つのタイプなんだ。そしてそのタイプと同じものとは、特に心を通わせやすい」
「う、うん」
「ユウトがどの属性ってのは、ちゃんと調べてみないとわからないけどな、ゲオルギィが土の属性ってのは分かっていることだ」
「土属性は風属性と相性が悪い。だからその属性の結界がどうしても弱くなってしまう。だから最初に向う結界は風の結界になるってわけさ」
「そ、そうなんだ」
「まあ、相手はゲオルギィだから油断はできないが、お前にはマーダル様からさずかった魔法の力がある。だから即席魔導師のユウトでも、一番楽に結界を破れるだろうよ」
大切なことをサクサクと言われたのだが、ユウトは正直ちんぷんかんぷん。
「え、えーっと……。まだよくわかんないけど、一番楽っていうんなら、まずはがんばるよ」
よくはわからなくても、残っている時間が少ないことだけは間違いない。だったらとにかく体当たりでもぶつかるしかないのだと、ユウトはとにかく結界の場所にむかう事にした。
「よし、ユウトのやる気が出たところで、レッツ&ゴーだ!ついてこい!」
「ま、まってよぉ……」
ばさばさと羽ばたいて飛んでいってしまうクーラリオに、ぱたぱたといつものようにしか走れないので、おいてきぼりにされてしまうユウト。見かねたクーラリオはすぐにもどってきてくれる。
「おいユウト!お前なにやってるんだ!」
「だって言ったじゃない。空を飛ぶどころか、早く走る方法だってわかんないよ」
「魔導師なんだから飛べなくても、風のようにはやく走れるんだぞ?!」
「で、でも、ボクの運動神経はポンコツだよ……」
とりあえずもう一度パタパタ走ってみても、走る速さはやっぱりいつものとおり。
「それはユウトが本気の本気で、急いで走らないといけないって思ってないからだ!」
クーラリオはユウトに深呼吸しろとまずは指示。大きく息をすいこんではきだして、ユウトが落ちついたところで次のステップに。
「目をとじて、まずは心を軽くしてみるんだ。いいな」
「ふわーっとタンポポの綿毛さんみたいな気分になればいいんだね」
背中からふいてきた風に身をまかせてふわりふわり。すると本当にユウトの体は地面をはなれて宙にういていた。
「ふ、ふわわ!う、ういてるよ!」
びっくりしておどろきの声を出すユウト。けれどいつものようにこわがっているわけではない。うれしそうにはしゃいでいるおどろきだ。
「よし、あとはすべるように走りだせ。そしたらすいすい行けるぞ!」
「よーし、いくよ……。それ!」
勢いよくとびだしたユウトは、本当に風のように夜の山道をすいすいとすべりだせていた。
「わああ!すごいよ!」
「やれやれ。そうだ、その調子だ。あとはこのまま、近道で行くぞ!」
「ち、近道?!」
「あそこだあそこ」
クーラリオが指し示したのは、かろうじて道らしいあとが見えるけもの道。ここをつかえば、目的の展望台まであっというまにたどりつけるのだという。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
おずおずたずねるユウトに、クーラリオは強気にビシリと一言。
「時間が少ないって言ってるだろう?とにかく今は急ぐんだ。いいな!」
「わ、わかったよ。とにかく急ごう!」
やがてクーラリオとユウトは、山間のけもの道に消えていった。