第2話 魔導少年誕生 ④
「手短に、サクサク説明してやる」
クーラリオは風切り羽根をちょいちょいと、オーケストラの指揮者がふる指揮棒のようにふると、まっ暗な夜の闇の中に緑色の光の線で描かれた、立体映像の地図が出てきた。
「これがこの辺りの地図だ。さっき飛びまわったのと、マーダル様が教えてくれた情報だからまちがいはねえ」
「す、すごい。立体映像だぁ。まるでSF映画みたい」
「SFじゃねえ。科学でもねぇ。これが魔法の力だ」
目をキラキラと天の川のようにかがやかせている勇斗に、クーラリオはふふんと自まんげ。
「とにかくだ。今オレたちがいるのがここ。このオレンジ色の点の場所だ」
「う、うん」
ちょうど山のふもと辺りにオレンジ色の点がピカピカ光っていた。このお堂を示しているらしい。
「ここはオレさまたちがやってきた魔導界と、地上界をつなぐ扉が出てくる場所の真下だ。だからこうやってわかるように色がつけられているのさ」
「そうだったんだ。このお堂って、そんなふしぎな場所にあったんだ」
昔から建物が建てられている場所には、必ずふしぎな力があるのだと、近所に住んでいて、いつも近くのお地蔵様や、神社のおそうじをしているおじいさんが言っていた事を思い出す。
「そしてこの四つが、ゲオルギィが張った結界のポイントだ」
山をぐるりと囲むように、白、赤、青、黄の色の点がピカピカ光っている。その場所を見ていると、勇斗はあることに気がつく。
「あれ?白い点のところが展望台で、赤い点がキャンプファイヤー場。青が滝で、黄色が大岩の場所だよ」
「そう。大自然の四大要素である、風・火・水・土の力を使って結界をこしらえるときは、それぞれに関係が強い場所に結界のポイントを置くんだ」
「へぇぇ。風だから展望台で火だからキャンプファイヤー。水は滝で木だから大木で、土は大岩になるんだ」
なっとくなっとくと、感心してうなづく勇斗にクーラリオは釘をさす。
「感心している場合じゃないぞ。一刻も早くこの結界をやぶってしまわないと、ゲオルギィに追いつくことだってできないんだからな」
「そうだね、それじゃあ急がなきゃ!」
グッと、うでを腰でためて気合十分の勇斗。けれども、その気合はわりとあっさり抜けてしまう。
「どうした?」
「でも……」
「でも、何だ?」
首をかしげてたずねるクーラリオに、勇斗は不安そうにたずねた。
「こんな遠くまで、どうやって行けばいいの?こんな遠くまで歩いて行ったら、それだけで朝になっちゃうよ」
ガクっとずっこけてしまうクーラリオ。
「で、でもでも!ボクは車の運転なんかできないよ。もし車の運転ができる人に手伝ってもらっても、こんな山の奥の方まで車じゃあ通れないかもしれないんだよ」
うん、やっぱりコイツ、いまいち自分のまわりで起こっていることが飲み込めてねえなぁと、クーラリオは頭をポリポリ。
「おいおいおい。ユウト、お前は即席でも魔法が使えるんだぞ!魔法を使って、空をバビュビュンビュン!って飛んでいけばいいだろうが!」
「ばびゅんびゅんって言われても、ま、魔法ってどうやればいいの?が、学校でそんなこと教わったことないから、ボクには全然さっぱりわかんないよ」
魔法使いになったからといって、使い方がわからないのではどうしようもないのだ。肝心な事を忘れていたのだと、少し反省するクーラリオ。
「っつ……。そうだったな。魔導界だったら、学校に上がってすぐに空を飛ぶ魔法くらい教わるんだったが、地上の人間がそんな事を知っているわけなかったな。そいつは悪かった」
ポリポリとほほをかくクーラリオに不安で目をウルウルさせてしまう勇斗。今にも目からあふれてしまいそうだ。
「ど、どうしよう……。どうしよう……。このままじゃぁ(えっく!)だれもだれも(ひっく!)助けられないまんまに朝になっちゃうよぉ……」
とうとうこらえきれずに泣き出してしまう勇斗。
「ええい、もうまったく!魔導界でも上位にあらせられるマーダル様から力を授かっているんだから、即席でもそんじょそこらの魔導師より、ずっと魔法が使えるはずなんだぞ!」
思わずどなってしまうクーラリオだったが、勇斗はよけいにパニックをおこしてしまう。
「ねえ、呪文ってこんなの?!ちちんぷいぷいのぱっ、とか、アブラカタブラ、とか、じゅげむじゅげむとか、いぶんばずーたとか、そんなのじゃないの?ちがうの?」
「おちつけ、おちつけ、いいからおちつけぇ!」
クーラリオのゼンマイは大声を出す事でもはげしく使ってしまう。でもここで勇斗が動かなかったらどうしようもない。
「ちがうちがうちがう!肝心なのは呪文じゃなくて、魔法を使うんだっていう想像力、つまりイメージが大切なんだ!今はとにかく、自分が魔法を使えるんだってしっかり信じろ」
どうやら魔導界の魔法というのは、勇斗が思っていたものと少しちがうらしい。
「い、イメージ……。やっぱり魔導師だから、マントとかステッキとか帽子とか……」
「おうおう、それだそれ!お前みたいなヤツは、まず形から入らなきゃダメだ」
小さいころからテレビでみていた番組を思い出して、思わず口にしてしまったことだったが、クーラリオはそれを聞いて怒るどころか、両手(両翼)を打ってなっとくしていた。
「よーし、ちょいと待ってろ」