第2話 魔導少年誕生 ③
「おじいさん!」
ガバリととびおきた勇斗。しかしそこには誰もいない。
気が付くと場所まで変わっていた。みんなが凍らされてしまい、赤銅の魔導師とであったキャンプ場でもなければ、白銀の魔導師のおじいさんと話をしたまっ白い場所でもない。
「あれ?ここはたしか……」
ほこりっぽい空気が後からながれてくる板張りの床の上で勇斗は目を覚ましていたのだ。そこは見上げれば古びているがしっかりした屋根があって、その外には星と月がきれいに光っている。そう、ここはあのお堂の軒下だったのだ。
「よう、やっと起きたな、即席魔導師のユウト」
「あ、鳥さん……!」
ツンツンと手をクチバシ突いて話しかけてきたのは、少々ふとめのオウムだった。
真夏の空のようなまっ青な羽をしているが、むねからおなかにかけては白い色。おしゃれなのか、小さな小さなメガネをちょこんとくちばしの上にのっけていて、首にはまっ赤なスカーフが。それはまちがいなく、勇斗がみつけて助けようとした鳥にまちがいなかった。
「鳥さん!」
「おい、イテテテ……!そんなに抱きつくな!」
勇斗はその鳥に飛びつくと、うれしくて涙でぬれたほほをすりよせて、力いっぱいだきしめる。これにはその鳥も困った様子だ。
「よかった……。本当によかった……。鳥さん、おじいさんにケガ、治してもらったんだね」
「わかったからわかったから、少しはなせ。これじゃあまたこわれちまうだろうが」
「ご、ごめんね!」
あわてて手をはなした勇斗に悪気が無かった事くらい、その鳥もよくわかっている。だからちゃんと元に戻ったのだと、羽を力強くバタつかせて見せてやった。
「おう。あんな損傷なんてな、偉大な白銀の魔導師、マーダル様にかかったらあっという間に修理してもらえる!それになあ……」
「そ、それに?」
「オレさまの“体”はゼンマイで動いているんだ」
「ふ、ふぇえ?!」
そういえばさっきおじいさんは、からくり仕掛けの使い魔が、といっていたのを思い出す。
「お前、人の話を最後まで聞こうとしなかったから言いそびれちまったが、あの時はオレの体はゼンマイ切れになっちまっていたんだ。だからゼンマイを巻いてくれればそれでよかったんだぜ!」
「そ、そうだったんだ……」
しょんぼりと首をうなだれてしまう勇斗。
「おいおい。今さらへこんだってしょうがねえんだぞ!」
「そ、そうだったね」
何とか気を取り直す。
「いいか?オレが首にぶら下げている、このカギを背中にさし込んで、巻いてくれればいいんだ。今度からそうしてくれ」
そのオウムはクチバシをカシャカシャと動かしながら話してくる。その動きは生き物のようにスムーズではなく、からくり仕掛けの人形のような、作られた人形のような動きだった。本当にゼンマイじかけで動いているんだと、勇斗はふむふむと納得した。
「それとオレさまの名前はクーラリオだ。鳥さん、じゃなくてちゃんと名前で呼んでくれ」
「わ、わかったよクーラリオ。それとあのおじいさん、マーダルさんって言うんだ」
ようやく笑顔のもどった勇斗は安心してホロリ。けれども目の前のクーラリオのほうはおかんむりの様子。
「こら即席魔法使い!偉大な白銀の魔導師に対して“さん”づけとは何事だ!ちゃんと“様”づけで名前を呼んでさし上げないか!」
こういうことにはクーラリオはうるさいらしく、ごうごうと怒りだしてしまう。勇斗はまたしてもくびをうなだれてしょんぼり。
「う、うん。次からちゃんと気をつけるよ」
「“うん”じゃなくて“はい”だ!」
「は、はい!」
「“はい”は一回!」
「は、はい!」
ビシビシ指導するクーラリオに、勇斗はおっかなびっくり。しかしどうにもズレているところがあるらしく、クーラリオはそんな勇斗との受け答えに少し感じたところがあるらしい。
「……、もういい。わかったから“うん”でも何でも好きにしろ」
「は、はい」
「ふぅ、やれやれだぜ」
両のつばさをお手上げにすると、首を少しふってからクーラリオは気をとりなおして続ける。
「とにかく、とにかくだ!あの赤銅の魔導師をとっ捕まえないと大変な事になっちまうのはわかっているな!」
「うん」
力強くうなづく勇斗。マーダルにあれだけしっかり言われた事を忘れられるわけがなかった。
「よし、それじゃあさっそく、あのゲオルギィをふん捕まえに行くぜ!ってところだが……」
「ど、どうかしたの?」
おずおずとたずねる勇斗に、クーラリオは右の風きり羽根を指がわりに頭をかきながら、やっかいそうに言う。
「ユウト、お前を助けたりしているうちに、ゲオルギィはおいついてこれないように、さっさと目的の場所に結界を張ってしまったのさ。だからいきなりふん捕まえには行けなくなっちまった」
「え、ええ?!じゃあどうしたらいいの??」
わたわたおどおどしてしまう勇斗を、クーラリオはびしりとしかる。
「ええい!いちいちビクビクおどおどするなぁ!ちゃんと方法はあるんだから心配するなって」
むねを張ってドンと叩いてみせるクーラリオ。
「よ、よかった……。ちゃんと追いつくことができるんだね」
「できるかどうかはユウト、お前のがんばり次第だ。そこを忘れるな!」
「う、うん。わかったよ」
とにかく勇斗は、自信満々なからくり仕掛けの鳥の言う事にしたがうことにした。