第九話「アクトレスピンク」
あけましておめでとうございます!
新年一発目でございます。お時間いただけましたらよろしくお願いします。
7月に入ってプールの授業が始まってから色白だった三人共少し日に焼けた様だった。
水着やバスタオルなどを入れた透明のバックをそれぞれ持って車に乗り込んでくると今日はフルワンが助手席に座った。
毎日送迎している中で三人で助手席に座る順番を決めたようであるが結は不満気であるようで「いつでも替わるからね」と毎回言ってはいるが替わってもらえていない。
朝の渋滞でノロノロと進む車中で後ろから結が来週末林間学校があることやクラスで仲良くなった子の話をして存在アピールしている。
助手席のフルワンはカーナビの操作を覚えようとしているのかピコピコとタッチパネルを押しては首をかしげていてフルツーは棒付きの飴を咥えていて機嫌が良さそうにノロノロ動く他の車を眺めていた。
学校に着くと相変わらず周りは高級な外車のセダンばかりだが中古で買った国産のファミリーワンボックスのステップワゴンは逆にクラスの子達は可愛いと評判らしかった。
結が学校に通うようになったので結自信の運転の機会が減り、新型のシビックタイプRでも買おうかとピンクアフロは考えたりしていた。
そして更に重要事項としてどうやってプールの授業を見学するかと思い悩んでいた。
三人を送り届けたあと車を駐車場に停めて魔術医師協会のオフィスに向かう。
昨夜一正から「例の企業について判ったことがある」と知らせがあり来るように指示があったためである。
「あー変態だー」「変態ピンクさんいらっしゃいです」
オフィスに入ると募金事件以後しばらくは沈んでいたが最近ようやく元気が出てきた楓とルナが挨拶する。
「おう。どうやったらプールの授業参観出来ると思う?」開口一番変態発言。
「警察呼ぶよー!」「犯罪です!」と総攻撃。
「何を言うか!見るだけで犯罪とは国家の横暴である!いーか!犯罪を起こす人間は己の欲望に勝てない者のことで例えどんなに満たされようとも起こすものだ!俺は結を愛しているので鑑賞はするが手は出さん!」キッパリと言い切るピンクアフロ。
「えええー、私達フルワンちゃんとフルツーちゃんのことも凄く心配してるんですけれどー?」楓がジト目で言う。
「そーですよ!小さい子にしちゃってることもオカシイです!」とルナ。
「ならばナイスバデーのボインボインにしてれば良かったか?言っておくが俺はナイスバデーのボインボインも大好物だぞ?」とピンクアフロ。
「えーーー、ロリコン嘘つくな!」と楓は言ったがボインボインだけで照れてしまったルナは何も言えないでいる。
「あのなー、ボインボインはいいぞーあの神が与えし揺れエネルギーの破壊力は素晴らしい」ピンクアフロが手で包み込むような仕草をして表現する。
「ただの変態エロおやじじゃん!」と楓が叫ぶ。
「うむ!エロである!だが老若男女問わずに弱者は守られるべきであって自衛出来ない女性や子供がその筆頭であることは承知している!だがなしかし!ボインボインも美しいがつるぺたも美しいことに変わりなし!この感性を犯罪と呼び蔑む連中にはあえて言おう!カスであると!」どどーん
「でもさ結局は小さい女の子が好きなんでしょ?」楓が悪い顔で言う。
「あのなー好きであることは否定せんがな。極端な話だが仮に嫌がる大人のボインボインの姉ちゃんに手ぇだすと犯罪だよな?」人差し指をチッチとしながらピンクアフロが言う。
「当たり前じゃん」ピンクアフロのウザい動きにムカつきながら楓が肯定する。
「じゃあ嫌がらない大人のボインボインの姉ちゃんに手ぇ出すのは?」んんん〜?って言う感じで問いかけるピンクアフロ。
「それは合意の上だからいいんじゃ・・・」ルナが一正の方をちらりと見ていった。
「そーだよ。それはボインボインの姉ちゃんが自分で判断できる大人だから合意が成り立つんだ。だが小さい子供が合意したとしてもそれは人生経験も浅くて責任能力の無い子供の判断であって合意とは呼べないよな?つまり合意があろうが無かろうが守られるべき存在だよな?」ピンクアフロが楓に顔を近づけてウザさ満開で言う。
「えーーー?そりゃそうだけどロリコンなんでしょ?」ウザイが言ってることはもっともで肯定しながらも言い返す楓。
「おう!ロリコンでナイスバデーなボインボインも好きだが俺がいつ犯罪おこした?誓って言うが俺は結以外に手は出さんぞ?フルワンとフルツーの頭くらいは撫でるがな」ドヤ顔で言うピンクアフロ。
「うーん・・・じゃあ鑑賞したいからプールの授業参観したいの?」論点がズレてる気がしたのでルナが話を最初に戻す。
「うむ。授業参観ならば気兼ねなく少女の肢体を堪能出来るかなら!」堂々と言い切ったピンクアフロ。
「どーしてもいやらしく聞こえるんですけれど・・・」とルナ。
「いやいや、不法侵入して覗くという自制の効かないバカと一緒にするなよ。学校側の許可あっての授業参観だからな!」と自信たっぷりに言うピンクアフロに楓がならばと言い返す。
「もし変態の目で見られることを生徒が嫌がるとしたらアンタ授業参観あってもイケないじゃん。」ドヤ顔の楓。
「ワタクシハユイトフルワントフルツーノガンバッテイルスガタヲミマモリタイダケジャナイデスカー」一瞬で菩薩のような顔をしたピンクアフロが嘘っぽく言う。
「心配しなくともプールの授業参観なんて聞いたこともないですよ。ちょっといいか?真面目な話です」盛り上がっているピンクアフロに割って入った一正の表情は真剣だった。
「ん?どーした?判った企業がどえらい悪の組織か?」とタバコに火を付けながら茶化すピンクアフロをいつものように無視して一正が話し出す。
「馬場博士を支援してフルワンさんとフルツーさんを造ったのは日本という国です」包み隠さず結論を真っ先に言った。
国家からみと言われてすぐに事態を飲み込める人間はそういない。横で聞いていた楓とルナは全くピンときておらず、そういう会社名?くらいで受け取っていた。
「まだバレてないからへーきへーき。」ピンクアフロが軽薄に答える。
そんなピンクアフロの言葉に一正がため息をついて言った。
「確かにまだ発見されていないがな。国がなんらかの意図を持って複数の企業に人造人間の開発をさせてる事実を掴んでしまった以上のほほんと構えてる場合じゃなくなるかもしれない」
確かに必要とするから開発する。
開発の目的は馬場博士の話からは「兵器」ではなかったようだが・・・はっ!
「認めんぞーーーー!大量に美少女造ってハーレム計画!」稲妻の走る背景と共に叫ぶピンクアフロをガン無視して話を続ける一正。
「なんにせよまだ企業の開発の段階ですから国を敵に回している訳ではありません。しかし介入されると厄介ですよ?それに目的が正当なものであれば協力することも真面目に考えなければいけません」
一部変態ピンクの趣味が入ってきてはいるが今は学校に通い徐々に表情も豊かになってきて馬場博士に託された望みは叶えられている。
だが国が求める人造人間の開発理由が日本にとって本当に必要なものであれば正義は向こう側にある。
「目的は判ってないんだろ?ほっとけほっとけー」タバコの煙をほわーーーーっと輪っかにして吐きながら呑気にピンクアフロが言う。
「で?いくつか企業は判ったのか?」と今度は真面目に聞くピンクアフロ。
「仲西前総理大臣が関わったとされる汚職事件の公表されていない資料の中に「人造人間」と「明石海峡大橋」と「帝産」「三海」「三崎」の3つの企業名が出てくる。資料がプロットで欠損部分が多くて推測になるんだが・・・こちらとしてはフルワンさんとフルツーさんを保護してしまっているので必要以上に詮索するとかえって怪しまれますからあくまで先日の佐久間氏の依頼のついでで得た情報です」
一正は普段の丁寧な物言いが古くからの腐れ縁の自分だと時折崩れるとピンクアフロは思いながら出てきた企業について考える。
何処の企業も旧財閥から興った日本を代表する企業で造船などの重工業から家電に至るまで製造していて極秘の人造人間開発を依頼されていてもおかしくはない。
銀行も持っていて資金力もありむしろ依頼するならその3つしか無いだろう。
「とりあえず目的が判明するまで気をつけてくださいとしか言えませんが先日の佐久間氏の依頼時に何か聞いていないのか?」
一正は佐久間氏の依頼が仲西前総理大臣が狙撃された銃槍の治療だったことを当然知っている。
狙撃の理由が人造人間からみと断言できないが全くの無関係ではないはずだった。
「いんや聞いてない。俺は聞いてない。明石海峡大橋だなんて初耳である」とバレバレのとぼけ方をするピンクアフロ。
「あの・・・お話中に本当にごめんなさい。林原さんの依頼の件ですがどうしましょう?お返事を早急に頂きたいとメールが来ているのすが・・・」と申し訳なさそうにルナが会話に入ってきた。
「ルナさん、構いませよこちらの言いたいことは言いましたし問いかけには答える気は無いようですからこちらの話は終わったところですよ。林原さんなら調査も問題ありませんから手配を進めましょうか?」とにこにこ笑いながら一正がルナに言った。
「はい。リウマチの症状緩和か完全治療とのことですがどなたをご紹介しましょうか?」ルナが一正の指示を仰ぐ。
「ん?林原って林原 陽子って大女優のことか?宝塚出身の・・・ってそんなリウマチって歳か?」ピンクアフロが聞く。
「いえ、多分林原さんご本人の治療ではないでしょう。患者はご両親か誰か放ってはおけない方だとは思います」一正が答える。
「関西に住んでるんだろーからそっち方面の魔術医師だろ?いーのよりどりだろーに」
ピンクアフロの言うとおり関西にも優秀な魔術医師は多く先日の西門氏や望月氏の様に一度処置を見てみたい魔術医師が多い。
「それが今回の依頼はコッチなんですよ。お前行くか?てかお前行け。ここにいるとうるさい」って訳でピンクアフロはオフィスから追い出されることになった。
ただ言うことを聞いて出掛けるのは腹が立つので行き先を聞いてオフィスを出る間際に爆弾を投下。
「それじゃ純和風大和撫子で眼鏡属性巨乳派の一正行ってくる!」しゅた!
なっ!と焦る一正、おおっ!と喰いつく楓、目がしいたけのルナだった。
行き先は新宿駅近くの有名ホテルで教えられた部屋にフロントから連絡してもらうとロビーまで林原がピンクアフロを迎えに来た。
元宝塚で男役のトップスターであった彼女は今でも映画に舞台にと活躍をしていた。主演を演じずとも存在感は抜群で年齢と共に演技に深みが増していて映画で彼女の出るシーンで彼女だけを追いかけて二度三度と見返す毎に新たな発見ができる。
ファンというほどではないがピンクアフロも評価はしていて観た映画も多かった。
「騙されているかと思う特徴をお聞きしてましたがロビーで探す手間はかかりませんでしたわよ?」エレベーターの中でそう言って屈託なく笑う陽子はやはり大スターのオーラを放っていた。
スラリと背が高く着こなした黄色いスーツが決まっていて歩き方ひとつとっても魅力的に見えるように思える。
案内されたスィートルームの大きなソファに座ってこちらを見ている人物にピンクアフロは更に驚いた。
鳳 沙弥香。昭和を代表する銀幕のスターで彼女の名前を娘に付ける社会現象まで起こりクラスに5人は沙弥香が居るとまで言われた程だった。
「お姉さん。お医者様が参りられましたよ」陽子はソファに近づき沙弥香の立ち上がるのを助ける。
沙弥香は陽子に助けてもらいながらゆっくりと立ち上がるとピンクアフロに丁寧にお辞儀して微笑んだ。
「こんなおばあちゃんのお呼びだてに応えてくださって有難うございます」あちこち痛むのか動きはぎこちないがそれでも上品でグレーを基調とした和服がよく似合っていてピンクアフロは見とれてしまう。
「とんでも御座いません。大女優のお二人の前で緊張してしまいますよ」いつもの軽薄さもぶっ飛んだいー声の紳士な返事のピンクアフロに大女優二人は余裕の笑みを浮かべている。
「お姉さん、私からご説明いたしますね」と陽子が沙弥香を座らせながらいうと「ありがとう。でも自分でお願いしたいの」と沙弥香が言って話し始める。
「私や陽子さんのことはご存知みたいですね。有難うございます。長いこと女優をやらせてもらっておりましたが段々と身体が言うことを訊いてくれなくなって参りましたの」そう言って両手の前に出して広げるとどの指も第一関節で少し曲がってしまっていた。
「歳相応に色々とガタが来ちゃって結構辛くなってましてね。長年続けてきた舞台もこの陽子さんに引き継いでもらうことに決めたんですのよ」そう言って陽子のことを手でふりふりする。
歳をとっていても可愛らしく感じてしまう仕草や言動に全く違和感がない。
もう何十年も沙弥香が同じ舞台を公演していることは知っていた。大正末期から温泉宿で奮闘する女将の話で少女から晩年に至るまでを一人で演じきるもので一度観てもいいとピンクアフロも思っていた。
「でもいけませんね。後をお願いできると決まってしまってからどうしても今季の公演だけはやり遂げたくなっちゃいまして。人間っておかしなものですよね・・・やらなくていいとなると未練が湧いてきちゃうんですもの」沙弥香がまるで子供が我儘言うときみたく悪びれずに笑いながら言う。
「私としてはお姉さんに続けて欲しいんですのよ。お姉さんの代役なんて荷が重すぎますよ」陽子は沙弥香を長年姉と呼び親しんできたし実力を認めて尊敬してきた。
「荷が重いだなんて陽子ちゃん以外私が頼める人は居ませんよ」沙弥香も同じように陽子を認めているんだなとピンクアフロは思った。
「でも今季だけはやり遂げたくなっちゃったの。途中で降板なんて恥ですから頑張ってきたのだけれど本当に辛くなってしまってね」先程みた指先でもこの大女優が背負っている痛みは想像できる。
「本来なら自分を受け止めて恥をかくべきなんでしょうけれど・・・ズルしてでも千秋楽をむかえたいのですわ」真っ直ぐにピンクアフロを沙弥香が見る。
「この痛みを和らげてくださるだけで結構ですので引き受けていただけませんか?」
「またお姉さんはそんなこと言って。完全に治してもらえるなら治していただきましょうよ」慌てて陽子が割って入る。
「いいえ。痛みを和らげてくださるだけで充分ですよ。これ以上欲張ったらバチが当たりますわよ」そう言ってクスクスと笑う沙弥香に未だにファンが多くいるのは当然に思えた。
「申し訳ありません。自分としてはやはり完治させていただきたいです。痛みを和らげるだけも出来ないことはありませんが医者を名乗る者のプライドとして出来ることをさせていただきたい」ハッキリと主張するピンクアフロに「あらあら」と感心する大女優二人。
「安心してください。バチの当たらない悪党を沢山知っているのでバチって当たらないものだと思っていますよ。報酬は1000万円と千秋楽公演のチケット7枚ですがよろしいですか?」
ピンクアフロがサングラスを外して言うとにこやかに頷き「最高の舞台をご覧にいれますわ」と沙弥香は迷いもなく言うのだった。
治療が終わって結達のお迎えに来たピンクアフロ。
水滴の付いた水泳用具の透明バッグを持った生徒たちがそれぞれのお迎えの高級車に乗り込む姿を車の中で眺めながら結達三人を待ちながらあの濡れたスク水を一番生搾りしてその水を飲む行為は直接犯罪とは言えないが濡れたスク水の入手方法はどうやっても犯罪になるなーとくだらないことを考えていると三人が校門から出てくると嬉しそうに結が駆け寄ってくる。
あああ可愛い。
三崎重工のとあるオフィスの一室では01と02の帰還報告を待ちながら進めていた「マスター登録」の解除方法や様々なデータの解析結果の報告を男に女性秘書が行っていた。
ほとんどが解析出来ておらず成果は得られていないが今日の報告の中では「緊急停止キー」の存在が確認されたことが一番だった。
報告後秘書を下がらせた男はいつものように窓の外を眺めた。
馬場博士になかったものを自分は持っていた。
馬場博士にあったものを自分のものに出来なかった。
頓挫してしまっているプロジェクトの責任は自分にあることを01と02ロストしてから痛感していた。
男は机の上の少女の写真を見つめながらため息を付いた。
2017年を末広がりな八話でとめてゲンを担いだオッサンです。
2018年が皆様にとって良い年でありますように。
背中を押してくれた姪っ子に感謝して物語を書ききる所存でございます!