第八話「フリーダムピンク」
今年ぶんと思っていたのを投稿しておきます。
お時間いただけましたらよろしくお願いします。
挿絵は難しいですねー。画面見ながら手元で描くって難しいです。はい。
川崎の克彦のマンションでは熱いやり取りが暑苦しい男ふたりで秘密裏に行われていた。
ピンクアフロが手渡された封筒の中身を確認する。普段の仕事では決して見せない真剣な眼差し・・・ゴクリ。
克彦が手配した戸籍にはフルワンとフルツーの名前はフルワンには「天条 充羽 みわ」フルツーの名前は「天条 充空 みく」となっていた。
年齢は見た目通りの10歳になっていて非常に満足のピンクアフロ。
「名作美少女ゲームのタイトル「羽空」と馬場 充博士の名前からいただいたでござる!それから結たその戸籍でござるが同姓同名で同じ住所は流石に突っ込まれるので「充生 みう」にしたでござるよー」と克彦が名前の由来を説明する。
「おおおー良いではないか!ラストの「生まれたなら自由な羽で空を飛べ」だな!あのシーンは良かったからな!」とピンクアフロ。
「エロシーンマシマシで羽空アニメ化キボンヌ!」と克彦。
「いやいやアニメ化ではあのエロさは表現出来んかもな」「制作をあそこがやれば」「トラウマになるー」「拙者は天使ルートが至高」「なんの堕天ルートで・・・」と小一時間ほど盛り上がる。
「学校の方はカトリックの小中高の一貫校で探して制服で最終的に決めたでござる」そう言いながら学校のHPをパソコンに表示してピンクアフロに見せる。
「流石克彦!吊りスカートにベレーをチョイスとはわかってるな!」ますますご満悦のピンクアフロ。
「当然でござる!吊りスカートこそロリを最大限に惹き立てる究極!」と盛り上がる克彦。
「誕生日は結たそが12月11日だから11月12日に変えて登録したので五年生でござるよー」
「四年生までを凌駕する圧倒的完成度と六年生にない未完成さが五年生!」「イレブンヘブンへの飛躍の一年!」「五年生こそ至高!」
この後さらに盛り上がりを見せる変態二人だった。
「がっこう?」不思議そうにフルワンが聞く。
「それ できるの?」よくわからないといった感じのフルツー。
「あの・・・それで兄様私も行くのですか?」あまりのことに全く状況を受け入れられていない結。
「はっはっはっ!明日は学校を見学して制服や教科書を買いにくぞー!」どどーんと盛り上がるピンクアフロ。
時間が経って落ち着いて来た頃結は学校の説明をフルワンとフルツーにしながら夕食の準備を三人でしていた。
「えーと・・・それから沢山お友達がいてお勉強したり遊んだりする所なんだけれど・・・難しく考えないでいっぱい楽しくなのです」フルワンとフルツーは知識に足りない所はないと結も思っていた。
しかし学校に行けば二人に絶対的に足りない所は埋まる。
いつもながら驚かされるが兄様が喜ぶのなら何度でも小学校にいってもいいんだけれど・・・いいんだけれどー!!!と思う健気な結だった。
「お前な・・・」
魔術医師協会のオフィスでピンクアフロのスマホで制服姿の結とフルワンとフルツーに校門前で囲まれてピースサインをしている写真を見て一正が頭を抱えて呆れた声で言った。
一正の前ではピンクアフロが小指で耳をホジホジしてふーっとしたりしながら悪びれもなく「皆学校に行って退屈だ」とか「三人とも可愛すぎて生きるのが楽しい」とか好き勝手言っていた。
「でもこの制服可愛い。結ちゃんもだけれどフルワンちゃんもフルツーちゃんも可愛いから超似合ってる!」楓が写真を覗き込んで言った。
「だろー!!プレイ以外のマジもののランドセルは最高だぞ!!」ご機嫌のピンクアフロ。
「うるさい!変態!」楓が応戦。
「でもホントに似合ってるよね?結ちゃんってホントは20歳なのに小さくなっちゃってるから全然違和感ないなー」最後に覗き込んで写真を見たルナも素直な感想を漏らす。
「いえいえサラッと受け入れないでくださいー。突っ込む所沢山有りますよ。」と一正。
「あ、ホントだ!お母さんが居ない!」「お昼ごはんお弁当なのかな?」「俺がお母さんだ!そして豪華な給食で安心!」
賑やかに斜め上を飛行してゆくオフィスの中で一正だけがまともな懸念を抱いていた。
フルワンとフルツーはまだ正体の判明していない企業が捜索しているはずである。いくら容姿が幼くなっているとはいえ指紋や目の虹彩など確認する方法はいくらでもあるし危険が全く伴わないとは言い切れず学校に通うともなると一般の生徒などにも危険が及ぶかもしれない。
悲観的観測ばかりでなくフルワンとフルツーのことを長い目で見れば学校に通い沢山の交流を持ち普通に生活するということには反対は出来ないが・・・。
ふと先代所長の面影がよぎる。
何でも先代所長の地雷的導きにしてこの件を片付けるのは安易ではあるが何か起これば本当に先代所長が絡んだ所為であると一正は思ってしまう。
博士からの依頼があり数年後のこの事態。この先事件が色々と起きたとしても最後は丸く収まるんですよね?所長?と願掛け気味の一正だった。
昼を過ぎてもオフィスに居座るピンクアフロを変態とか罵りながらもネットゲームの話をしたりして楓とルナも暇を潰していると一件の依頼メールが楓のパソコンに入った。
件名 治療依頼
本文 初めてご連絡差し上げます。
私は栃木県宇都宮市在住の加藤 人司と申します。
国会議員の鈴木 清子氏のご紹介によりこちらに息子の治療をお願いしたいと考えております。
つきましては医師のご紹介料と治療費の目安のご連絡をお願いします。
息子は生まれつきの心臓病で心臓移植でさえ完治は困難と言われております。
何卒奇跡のお裾分けをお願いします。
「うむ、なんの捻りもないテンプレ依頼だな」パソコンを覗き込んでピンクアフロが言った。
「あれ?これってテレビの人じゃないかな?」楓が言うと「募金してるんだよね?」とルナ。
「うーん・・・支払い能力に問題有りではないでしょうか?私がニュースで見た限りでは普通の手術の目標額に全く届いていなかったと思います」一正も依頼人の名前をテレビで見て知っていたが印象が悪そうだった。
「議員の鈴木氏のご紹介ですし杞憂かも知れませんが支払い能力も含めて色々調べてみないとですね。私個人の意見ですが全てを人任せの方には奇跡はそぐわないと考えています」珍しく表情を曇らせてそう言いながら調査班へあれこれと指示を出し始める一正。
「人任せ?」と楓が首を傾げる。
「よーするに人から恵んでもらった金に売る奇跡はねーってこった」とピンクアフロが答える。
「どうしてでしょう?お金の出処がそんなに大切でしょうか?悪いことしてる方のお金でも治療することも多いはずではないでしょうか?患者である息子さんはまだ小さい子供ですし助けるのに迷うことは無いと思います」とルナがピンクアフロに食って掛かる。
「いーかいお嬢ちゃん?例えば半分でも自力や身内で用意出来てりゃ一正も依頼を認めるだろーが全額ってことになると駄目だろーな。金を用意出来るってことは信用に値するが一正の勘が悪い方へ働いてるってことは信用出来ないってこった」食って掛かられたピンクアフロがウザい口調で言った。
だが納得いかない顔のルナとまだ判らないという顔の楓にボリボリと頭を掻きながらピンクアフロが「幼女なら無料で俺が行ってもいいがな。」と余計な事を言って煽る。
「じゃあ父に連絡して来てもらいます!」「私のパパなら近いしいーかも?」と子犬2匹も引き下がらない。
「ウチの子達をあんまり煽らないでくれるないかい?」一通り指示の終わった一正がルナと楓を落ち着かせるように会話に入ってきた。
「一正よー、ちょいと箱入りのままにしすぎでねーか?」とピンクアフロ。
「お陰様で楓さんとルナさんが入ってきてくれてから悪い依頼が無かったものでね。今回が悪い依頼になるとまだ決まった訳ではありませんが私の勘は良くない感じと告げていますから先日の馬場博士の時と同様いい勉強の機会になるかもしれません」
一正が全員を見渡して言った。
転入初日から3日ほどはハラハラすることも多かったがそれももう落ち着いてきた。フルワンとフルツーは口数こそ少ないがコミュニケーションは周囲ととてれいるし力加減なども問題なく出来ていた。
結も口数は少ない方なので無口だが勉強も運動も出来るスーパー三姉妹が転入してきて周囲はちょっとした騒ぎだった。
口数が少ないことと少し片言なところもあるので謎めいた雰囲気を三人共漂わせているのに話しかければ一生懸命答えようとしてくれるので好感度も良かった。
転入した聖桜木台学園初等部はカトリック系の一貫校で各学年1クラス編成と生徒数は抑えて良質で目の行き届いた教育をする上品なお嬢様学校で通っている生徒も比較的おっとり天然系が多く平和そのものである。
今日の授業が終わった。校門前でピンクアフロのお迎えを待っていると「充生ちゃん充羽ちゃん充空ちゃんまた明日ね」クラスの子がお迎えの車に乗ってそれぞれ帰ってゆく。
結はまだ偽名で呼ばれることに慣れておらず少しこそばゆい。
フルワンとフルツーはもう慣れてしまったのかそうしなければならないことをこなしているのだけなのかわからないが自分よりも自然に対応していると思う。
まさかもう一度学校に通うとは・・・しかも小学校とは思っていなかったので変に緊張してしまって毎日気疲れしている結だったが兄様が可愛いと褒めてくれるので頑張っていた。
「ますたー きた。」
まだピンクアフロのステップワゴンが見えていないのにフルツーが言った。
どういうことが出来るのか聞いていないので結には判らないがフルワンとフルツーは本当に色々すごいのだった。
今のは音の聞き分けだろうか?もしもそうだったとしたら体育の個人授業が・・・ハッとして耳まで赤くなる結だった。
「明日は学校休みだろ?アニメ「うつメイ」聖地巡礼に行こう!」と学校からの帰りの車中で突然兄様が言い出した。
栃木県宇都宮市が舞台のメイド喫茶でバイトする美少女達の日常アニメで結も気に入ってアニメは見たので街並みは見てみたいがまさか・・・?
「三人共明日はメイドコスで写真撮りまくるぞーーーーーー!!!」どどーーーん
そう言って秋葉原の専門店で三人分のメイドコスやウィッグを買い込んだついでに買い物や食事をすまして家に帰り着くまでに上がりっぱなしの兄様のテンションが下がらないため夜が若干怖い結であった。
定刻が来て楓とルナが帰ったあと調査班からの報告がいくつかあった。
募金活動を初めたのは今年に入ってすぐからでテレビの呼びかけの効果もあって開始当初から順調に集まっていたようだった。
西洋医学では心臓の移植をする治療方法が必要で日本では医学法の壁があるためアメリカでドナーを待つことになる。
そのアメリカでの滞在資金や手術費用合わせて6000万円。
人の善意を一正は否定したりしない。テレビに映った年端のいかない子供を助けたいと思う気持ちは尊いものである。
だが・・・。
愛する我が子を助けたい一心で募って集まった大金が少しづつ本人や周囲を狂わせたのかもしれない。
募金に加担した者の中に人の善意を悪意で私欲にする者がいるのかもしれない。
加藤氏の収入、血縁者の援助、共感した支援者の援助、そして善意の支援を総合的に見て使い道の不明瞭な金額は少なく見積もって3000万円にも上った。
そして三月後半には目標額を上回る募金が集まっているが分散されテレビで発表されている金額は少なく発表されていて未だに募金が続けられているのがわずかな資料でも見て取れた。
物事を悪くばかりも考えてはいけない。
例えば仮説ではあるが募金活動中に鈴木議員と知り合い魔術医師の存在を知り紹介料や治療費が漠然とでも高額であることを聞かされ引き続き募金活動をしていたとすれば募金のスピードが落ちたことも加味すればようやく資金が貯まる頃でもある。
どうしたものか・・・。
紹介料5000万円と治療費も約5000万円と連絡してみて返事を待つのがセオリーなのだがそうもいかない。
資金を自分で調達できる力量がある人間はその収入や地位を勝ち取っているので自然と口は堅くなる。
鈴木議員によって秘匿することが条件と聞かされてはいるだろうが力量のない人間にとって口添えしてくれた人物への配慮は必要ないことなどからやはり信用度が下がるため依頼を断るにしても魔術医師の存在すらここでうやむやにしておくことも考えなければならない。
力量がない人間を紹介した人物にも責任はあるのだが魔術の外部の人間には責任を取ることはの出来ない。
これは一正が負う責任なのである。
断るにしても面倒なケースの依頼に頭を悩ませる一正の携帯にルナの父親である西門 秀樹から電話が入った。
「もしもし?田村です。ご無沙汰しております。お嬢様にはいつもお世話になっております」一正が電話に出て恐縮しながら挨拶をすると電話の向こうでも恐縮しながら「こちらこそご無沙汰しております。娘が世間知らずでご迷惑をおかけしている様で申し訳ない」とルナの父も答える。
「いえいえお嬢様は良く頑張ってくれています。」と一正が伝えたりしばらく世間話をしているとルナの父が本題に入った。
「所で何やら面倒な依頼がある様ですがひとつ私の親バカな提案に乗っていただけませんか?」ルナの父は少し照れている様子で言った。
タイミング的に家に帰ってから実家にルナが電話して依頼のことを相談したに違いない。
親バカと謙遜しているがどういう提案だろうかと考えているとルナの父は話し初めた。
「いやなにね、ウチの娘の話を聞いていると良くない依頼人の様なのですが考えなしに茨城の子供を治療してくれないかと言い出しましてそれは出来ないと叱りつけてやったんですよ」心配そうに見つめるルナの母の横でルナの父の声は少し呆れたように言った。
「助けたいという優しい気持ちを持つ娘に育ったのは親としては喜ばしいことなんですが状況を考えることが出来ないのではただの「お人好し」ですし甘やかして育てた私どもの責任が大きいと考えましてね」
「お嬢さんは素直で優しい良いお嬢さんですよ。西門さんのご教育は間違っておりませんよ」一正が本心から言う。
ルナだけでなく楓もそうだが本当に素直で優しく育ちは良いのだと思う。箱入りだけにまだ人生経験が少ないだけなのだ。
「そうおっしゃっていただけると非常に有り難いのですが今回は少しお灸を据えようと思いましてね。そこでバカな提案なのですが明日依頼に問題があるようでしても田村さんはこの依頼を保留していただけませんか?色々と根回し必要になるので面倒をおかけすることになりますが」ルナの父が少し真面目な口調で言った。
「といいますと?」理由を聞く一正。
「治療の方は明日私が行って完治させてきますが依頼人には秘密にしておきます」
「治療されるのですか?」意外だったので一正が漏らす。
「ええ、子供に罪はありません。この治療が偽善的な行為であると承知しておりますが完治した後の依頼人とその周辺の動きをそのまま娘に伝えて頂きたいのです」ああ、なるほどと一正が気がつく。
「完治した後に依頼人がどのタイミングで依頼を取り下げるのかや募金の扱いをどうするかをお嬢さんに見せれば良いのですね?」
「その通りです。恐らく良い話にはならないのでしょうが人の悪い部分を知ることは出来ますから。親として泥をかぶるのも経験でしょう」一正の察しの良さに少し驚きながらルナの父が言った。
ああ、なるほど・・・ルナさんははこの冷徹になれない両親の元で愛情に包まれて育ったんだなと一正は思った。
所長としては賛成するべきではないバカな提案である。
報酬は発生しないし集まった善意が全て悪用されることも想定した本当に親バカな提案である。
「私は調査結果から判断して依頼を断わらねばならないのですがなかなか方針を決められず躊躇して引き続き調査を続行したままだった−−−。でよろしいでしょうか?」バカな提案かも知れないが愛すべき提案であった。
「有難う。親馬鹿で申し訳ない」自然と自嘲気味に笑ってしまうルナの父だった。
ルナの父との電話の後、楓の父親の望月 松茂からの親馬鹿第2弾の電話の対応をして帰宅する一正だった。
アニメが放映されて2年は経つが未だに聖地巡礼するファンも多く、当初はモデルとなったビルにメイド喫茶はなかったのだが今はアニメを再現して作られている。
日常系アニメだっため街の至る所にエピソードがあるのでそれぞれにキャラクターのポップもあってファンたちは記念撮影したりしている。
地元が一体となってPRしているだけあって色々と工夫されており元々の商売人や一般人との共存がうまくいっていた。
工夫のひとつにHPや観光案内で駅前や駐車場からのエピソードごとの巡回ルートを作っており各所でのマナーや注意事項の認識も徹底化されていたことによりファンも訪れ易くキャラクターの誕生日を祝う大きなイベントなども開催されている。
広い新設された駐車場にステップワゴンを停めてまず巡回ルート入り口に簡単に再現された主人公達の通う学校と教室で結とフルワンとフルツーの写真を撮りまくるピンクアフロ。
コスプレしているので次々と「写真よろしいですか?」と休日で多く訪れている他のファンたちの要望にピンクアフロがOKを出すのでやたらと写真を撮られている。
コスプレした美少女三人を優越感たっぷりに引き連れて巡回ルートを歩くピンクアフロ一行は何処に行っても「おおおーっ」となっていた。
主人公の金髪のウィッグを付けた結はアニメを見て知っているので照れながらも楽しんでいた。
フルワンとフルツーも人気の高いエメラルドグリーンの色の髪の姉妹のコスプレなので注目度が高く無表情な所がキャラクターと被っている。
アニメでは高校生のキャラクター設定だがデザインが可愛らしいので(ニセ)小学生達にはピッタリとハマっており再現されたメイド喫茶のコスプレ店員のお姉さん達には「可愛いーーー!」ともみくちゃにされていた。
満足ゆくまで街を観光して本日は鬼怒川温泉で一泊する予定だが鬼怒川温泉へ行く前にピンクアフロは寄り道すると言って向かった先は大きな病院だった。
「兄様?私もしかして依頼のメール見落としたりしていたのでしょうか?」
バックさせて駐車しているピンクアフロにオロオロと不安げに目をうるませて結が聞く。
「いや、仕事ではなくてちょいとしたイタズラみたいなもんだ」コスプレした結の目をうるませた表情が可愛くて国宝級だと思い満足気にニヤけながら言った。
「早くて10分ほどで戻るから待ってろ。」とピンクアフロが告げて車から降りようとすると面識のある二組の夫婦が近寄って来た。
「あ、楓さんとルナさんのお父様とお母様・・・。」ピンクアフロも結も年末に開かれる魔術医師協会のパーティーで何度も会っており、結はどちらからも可愛がられているのよく知った顔だった。
「田村さんのおっしゃった時間通りですな」と望月夫婦が笑う。
「我々も先程到着して合流したところなんですよ」と西門夫婦が笑う。
ピンクアフロは一正から何も聞いていない。だがすぐに事情は把握した。
これから秘密裏に加藤氏の子供治療を行う。急に完治した後の加藤氏の監視。そして起こる不穏な顛末をあの箱入り娘二人に突きつけるのがこの場に集合した者の目的。
無報酬で奇跡を起こしこれまで集まった善意を無駄にするかもしれない泥をかぶるのはそれぞれの娘の親と魔術医師協会を代表して一正の代理の自分となればこのバカげた策の責任は三等分となる。
一正の考えそうな筋書きで事前に聞かされていれば先回りして済ませてしまうピンクアフロの性格を完全に読まれた形である。
ピンクアフロが来る時刻は長年の付き合いから予測した一正の勘だろう。
休日の夕方の病院ともなれば少し閑散とするので狙ったのだがこうもピタリと当てられると癪に障るが二組の親馬鹿とお節介な道化の自分に笑いがこみ上げてくる。
「とっとと終わらせましょうか?」そう言いながらなんとか笑いを堪えるピンクアフロだった。
魔術医師同士の交流は結構あるのだが実際に協力し合って治療することはこれまでにはなかったのでいい経験になったとピンクアフロは思っていた。
治療方法の考え方もそれぞれ違っていたので考え方の参考になった。
今回は周囲に気づかれない様に結界を張る役目をピンクアフロが得意なので担当し、西門氏が一度心臓を取り出して動きの悪い筋肉部分を目視で特定したあと取り除き望月氏が正常に動いている筋肉を複製して移植したのだった。
西門氏は心臓まるごと作り変える方法だったが望月氏の悪い部分だけ置き換える方法はピンクアフロに近い。
ピンクアフロがやるならば動きの悪い原因となる神経組織の作り替えだったので二人の技術の高さに驚かされたピンクアフロだった。
西門氏の作り変える瞬間は是非一度見てみたいと思うし今日目の当たりにした望月氏の複製も神業であった。
今回も大きな露天風呂の付いた部屋をとっていたので夕食前に4人で仲良く浸かって星空を眺めて「はーーーー」
フルワンもフルツーも前回の草津温泉が気に入っていたらしく今回も大きな湯船がなんとなく嬉しそうだ。
何度も湯船のお湯を掬っては匂いを嗅いだり舐めたりして泉質を分析しているようで真剣そのもののフルワンとフルツーは広い湯船でプカプカ浮いてみたり潜ったりして遊んでいた。
結はピンクアフロに甘えてべったりくっついている。
ピンクアフロは三人の美少女の肢体と星空に満足していた。
「ますたー いたずら うまく いった?」
潜っていたフルツーがザパーッとピンクアフロの前に出てきてプルプルと水気を飛ばしてから聞いてきた。
「ああ、大成功だ。一つの命は救われたよ。幸せになれるかどうかはわからんがな」
フルツーの問にニヤリと笑い答えながら他人の行動に興味を持つのは今までになかったのでピンクアフロは おっ? と思ったが喜ばしいことだった。
馬場博士は決して失敗していたのではない。人間の感情、つまり心は育てるものであって作ることは出来ないのだ。
「しあわせ いま しあわせ」フルワンが誰に言うでもなく呟いた。
後日、涙ながらに募金を乞う加藤氏の姿がテレビに映っていた・・・。
ここまで読んでお付き合いくださってありがとうございました!
物語の進捗は緩めですが書いておきたいエピソードの一つですのでご勘弁を。
あくまでも悪役になってもらっているので実際のモデルやなんかはありませんから!ご理解ください!