第五話「トラベリングピンク」
続きでございます。
お時間いただければお付き合いくださいますようよろしくお願いします。
件の企業の回収が来るとすれば夜のうちに来るはずである。
博士を早々に始末して二人の少女を回収するといった強行手段をとるほどの悪人では無いにしろ昼間は行動するとは思えないため夜である今は警戒するべきだった。
博士の生命維持に使われていた機器から恐らくもう博士の異常は相手にモニターされていると考えられるので早ければ今晩中にもやって来てもおかしくはない。
逃げ切る自信もあるし何人相手でも問題無いが後々の面倒を考えれば遭遇せずに退散しておく方が得策であるが忽然と二人の少女が消えましたでは終わるはずもないので今後追っ手が現れないようにするための偽装工作を色々とやっておく必要があった。
未完成の同じような破棄された実験体でもあれば利用出来るが・・・と考えながら館の探索をすることにした。
二人の少女は博士の死に取り乱すこともなく館の探索をしているピンクアフロの後ろをヒョコヒョコついてく来ており、結も同じくついてきているので結が三人になった様な錯覚を覚える。
企業が何処の企業であったのかの手がかりは見当たらずほぼ資料のようなものも実験の痕跡らしきものも持ち去られているようだった。
とりあえず外部に情報を送っている監視カメラ類が無かった事と盗聴器類の有無を魔術と目視で確認し終わると二階の館の裏側の窓を空けて二人の少女にに聞く。
「この高さ飛び降りられるか?」
黒いワンピースの少女が即飛び降りようとするのを慌てて結と止めながら「出来るかどうかだけでいーんだよ!」とピンクアフロ。
「それから力加減は絶対に忘れるなよ?」と二人に釘を刺した。
コクリと頷く二人の少女。
「じゃあここに仕掛けておくか」とピンクアフロが呟いて館で見つけておいたコピー用紙か何かの白いA4の紙を二枚重ねて大雑把に人型に破り切抜くと片方に「白」片方に「黒」と書いてそっと窓の下へ放り投げた。
ヒラヒラと二枚の紙切れが落ちていっただけにしか見えなかったがピンクアフロによればこの仕掛が発動すれば追っ手に幻覚を見せることが出来るらしい。
それともうひとつ−−−。
二人の少女は結よりも20センチ以上背が高く少し大人っぽい。結は小学生くらいで10歳前後に見えるのに対し二人は中学生になったばかりというところだった。
ピンクアフロの手が二人の少女それぞれの肩に置かれるとぼうっと光った。
「うむ!やはり追っ手の目をくらますには姿を変えるのが一番だな!」
美容整形の応用を使って結と同じくらいの背丈にして顔つきも元々結同様整っていたのでなんとなくそっくりになった少女三人を見て満足気に笑うピンクアフロであった。
そして最後−−−館を後にする前に再度博士の元へ行き一礼した。
奥まった館から女神湖の外周の道路へ出るまでもすれ違う車は無かった。
だが来た道を戻らずに反対側に向かったので緊張した面持ちで「兄様?」と問いかけた助手席の結に「やれることは全てやっておく!ここまで来て観光に行かない手はないではないか!いい温泉にでも行こう」と脳天気に応えた。
コンビニで仮眠をとったり朝マックしたりして時間を潰す間は万が一を考えてピンクアフロと結の二人で行動し、GUで自分と少女三人分の衣類を購入して全員衣替えしてからようやく二人の少女も外に出ることが出来た。
明るくなった車窓から見る景色はどれも新鮮で初めて目にするものばかりだった。
朝食べた食べ物も今までのどの食事より美味しく感じた。
着替えて初めて出て浴びた日差しはとても眩しく、そして暖かだった。
用意された衣類は結が選び三人はお揃いのデニムのジャンパースカートと七分袖の赤、白、黒の色違いのニットでそれぞれ髪も帽子やヘアピンでかわいらしくして仲の良い三姉妹風だったがストレートのジーンズに白のパーカーと黒のベストと精一杯結がカジュアルを求めたもののヘアスタイルで台無しのピンクアフロ。
本来なら着替えることはしないが一応追っての警戒と変装を兼ねているつもりである。問題のピンクアフロは黒のニット帽に出来るだけ押し込んで隠した。
観光するため移動中に結が二人の呼び名を決めようと提案した。
当の二人は滅多に呼びあうことは無いが「ゼロワン」「ゼロツー」と互いのことを呼んでいて呼称としては味気なく今までの型式で呼ぶことに結は抵抗がありピンクアフロもニヤリと笑って賛成した。
だがお気に入りの美少女アニメキャラ美少女魔法戦士の長ったらしい名前を推すピンクアフロを納得させる名前をなかなか出せない結がとうとう結は困り果てて「馬場博士の充と兄様の満からとって(FULL)でフルワンとフルツーはどうでしょう?」と言った瞬間「フルワン」(白の方)「フルツー」(黒の方)と互いを指差す二人。
今までの呼称と似ているし前マスターと現マスターの名前も継げるのでピンクアフロも「良いな!」と賛成した。
「回収に向かった者達の報告です。到着した時に馬場博士は既に死亡しており不審な点も見当たりませんでした。01と02ですが二階の窓から飛び降りて山中へ逃亡したのを目撃したので追跡しましたがロストしたとのことです」
とあるオフィスの個室で女性秘書から不機嫌そうに報告を聞く男はゆっくりと立ち上がり窓の外を見た。
「現在も捜索はしておりますが手がかりも全くつかめていない様です」続けて秘書が報告する。
全くあの博士には困らせられる・・・。少女の姿でも身体能力が常人を上回る実験個体であるし素人研究所職員が追っても見つけられる訳は無いだろう。
人型に成形する技術だけ奪うつもりで協力したはいいがなんということだ。
思惑通りと回収したデータだけでは人型成形は再現出来ずにいる今、マスター登録が解除され博士から離れることを拒まなくなった01と02を早急に徹底的に検査する必要があるのにだ!
マスター登録や格闘術等くだらない機能を実装していたお陰で即回収出来ずに苛立っていた上に逃げられただと?
眠らせようと薬品を使ったが全く効かず力づくは論外、どこぞの軍隊などに売り出せば高値も付くかもしれないがそんな破滅しか産まない用途は必要ないのだ!
SF映画や子供向けのアニメじゃあるまいしあの博士は間違っている!
どうしようもない怒りでどうにかなりそうだが男が指示を出す。
「山中の捜索は無駄なので打ち切れ!山中ならそのまま01と02が野垂れ死ぬかこちらが遭難するのがオチだ!腹でも空かせて戻って来た時のために屋敷には常に3人潜伏させておけ!念のために付近を移動した者の有無の確認もだ!」
ビクッとしながらも秘書は慌てて取り出したスマホで連絡する。
回収したデータで人型を再現出来なったのは予想外であった。必要な情報をその頭脳に隠し持ったままにした博士に科学者としてまた怒りが湧いてきた。
こちらの要望で少女型にするのにも反対されたことやその他でも何度も衝突したことを今更思い出しどんどんと不機嫌になっていく男。
ふと机に飾っていた少女の写真と目が合って男は思った。
技術を奪うのでなく始めからこちらの真の目的を話しておけばこうはならなかったかもしれないのか?と−−−−。
長野県にある善光寺は無宗派の単立寺院で観光地としても有名である。
平日だがそれなりに観光客が居て賑わっていて沢山の人に驚くフルワンとフルツー。
マスターの説明では宗教上の古い建築物で「お参り」するものであると言った。
暗く狭い光の入って来ないところの「お参り」の時は集光率を最大にした。何も見えず結が物凄く怯えてマスターにしがみついているのをフルワンとフルツーは後ろから見ていた。
「お参り」が終わると通りすがりの老夫婦にシャッターをお願いしてスマホで記念写真を撮ったり参道の店でソフトクリームを買って食べたりと初めての事だらけでフルワンとフルツーは今までにない感情に戸惑っていた。
写真も館で撮られる時はどうとも思わなかったが今は違う。妙にそわそわして声を漏らしそうな気分だった。
結と呼ばれる少女個体も新しいマスターもはしゃぎまわり笑って楽しそうである。
知識として知っている「笑う」や「楽しい」が今の自分達にもある感情だとまだ理解できていなかった。
結は物凄く楽しかった。
突如出来た妹のフルワンとフルツーのことも兄様が嬉しそうなので同じく嬉しかった。
こうして歩いているのは他人から見れば親子に見えるんだろうな?と普段の奇妙なモノを見る視線が無いことも一層結を無邪気にさせた。
出来れば三人共大人っぽく大きくしてほしかったが自分の身体と兄様の趣味を考えると仕方ないかもしれないと思う結であった。
心配するほどでは無かったか?とピンクアフロ(変装中)は思っていた。
仕掛けに引っかかってまだ山中を探し回っているだけの連中ならば今後も見つかることは無いだろう。
最低でも広範囲に捜索範囲を広げて女神湖周辺を出入りした車などもチェックすると踏んで色々と仕掛け続けてはいくが過去に経験した思い出の沖縄での派手なドンパチと比べれば平和そのものだったし最愛の妹と自分を「マスター」呼びする二人の美少女に囲まれてテンションがあがりまくりのピンクアフロ(変装中)だった。
昼食の日本蕎麦に悪戦苦闘する二人に箸の使い方を結が教える。
知らないことが多いようだが一度教えるとすぐに何でも出来るようになりどんどんと「普通」っぽくなっていくフルワンとフルツーだった。
まだまだ表情は固く笑うことも無いが無機質少女属性は無くならなくても問題ないとピンクアフロは思っていた。
男の元へは午後になってからも特に目立った報告されて来てはいなかった。
付近を通行した車も地元住民や観光といった目的のものばかりらしく得体の知れない少女を匿って逃走している様な挙動不審な車は無いとのことだった。
ではやはり山中に逃げ込んだままという結論となる。
あの博士のことであるから様々な知識、サバイバル術といったこちらとしてはどうでもいいものを実装していることも考えられたが戻ってくる可能性に賭けるしかなかった。
「広域に捜索している者を戻らせて屋敷に潜伏して詰めるローテーションを組んでおけ。持久戦しか我々には手段がない」
男は秘書に伝えると大きなため息を付いた。
山中を捜索させられた仲間達のボロボロのスーツを見ながら屋敷の締め切った一室では不幸な捜索班達が情報の共有に努めていた。
付近を通過した観光目的の者たちの写真を整理しても家族連れの旅行と思われる男と捜索対象よりも小さな女の子3人は善光寺で補足し現在は草津温泉方面へ向かっており、中年の男二人の旅行者はあちこち山の写真を撮りながら野沢温泉へ向かっている二組だけでどちらも特に急ぐ様子もなく観光に興じていて不審な点は見当たらない。
周辺の住民にも不審な点は見当たっていない。二人が戻って来ると説得が最優先でもしも襲ってきた場合は屋敷を一旦空け渡して撤退との指示だった。
力ずくでどうにかなる相手ではないのは皆知らされているし無茶な指示は相変わらずされないのが救いな捜索班達だった。
草津良いとこ一度はおいでどっこいしょ。
温泉館で湯もみ体験をしている結とフルワンとフルツーを動画で撮影しているピンクアフロ(変装中)
言いつけた力加減も巧く出来ていて周囲も三人共可愛らしいのでつい微笑んでしまう。
大きな名物の湯畑を一周しながら写真を撮る姿は完全に若いパパである。
湯畑近くのホテルの露天風呂付き部屋をとり四人仲良く入浴。
結を膝に抱えて湯船に浸かり頭にタオルを乗せて不格好に沈んだアフロヘアー。
シャワーしか使ったことなく戸惑うフルワンとフルツーがピンクアフロと結に誘われて戸惑いながら湯船に浸かる。
暗くなりかけた空を四人で見上げながら同時に「はー」と息を漏らした。
ホテルの豪華な食事に生まれて初めて満腹でもう食べれないと思ったフルワンとフルツーは布団が敷かれると早々に眠ってしまった。
ピンクアフロが邪悪な眼差しで結と再度部屋の露天風呂へ。
湯船でのぼせかけてピンクアフロにくたーとなっている結がフルワンとフルツーと目が合った。
「マスター ユイ ナニシテル?」フルワンが聞いた。
「ユイ ドコカ イタイ?」フルツーが聞いた。
あうあうと真っ赤になる結は固まっているがピンクアフロは無駄に堂々と二人に言った。
「愛し合ってたんだ!」ざっぱーん。
「アイシアウ?」「ソレ ナニカ?」「ワタシ デキル?」「ワタシ ヤル」詰め寄る二人。
「はっはっはっはっ!俺は結としか愛し合わない主義だが教えてほしくばもっと色々と人生を楽しめ!笑え!今のお前たちもアリちゃアリだが真の意志を持って我が愛を求めよ!いいな!」
言ってることはさっぱり理解できないが今は駄目と言われた事をかろうじて理解出来たフルワンとフルツーと固まったまま戻って来るのにしばらくかかった結であった。
読んでくださってありがとうございました。
ようやく第五話です。
考えてみると話って進まないもんですね。ケッコー端折ってるつもりなのに。難しいです。