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ピンクアフロ  作者: 黒素
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第一話「桜色=ピンク」

オッサンのオッサンによるオッサンための好き放題の世界でありますのでご注意を。





神にとって奇跡は叶えてしまえば軌跡である。

四月の都心の道路、銀座のど真ん中を一台の一際目を惹く軽自動車が走行していた。


車種はホンダS660。本田技研工業が発売しているツーシーターのオープンMT車で車高も流行りのワゴンタイプでは無いので低くコンパクトな車である。



人目を惹くのはホロを全開にしているので丸見えになっているから・・・だけではない。

人目を惹いているのはその車の奇抜な搭乗者のせいである。

運転席でハンドルを握っているのはどう見ても小学生くらいの黒髪ロングヘアの色白の美少女で服装と言えばクラシカルなメイド服である。

前髪の部分だけ少し切りそろえられていて赤いリボン付き白いカチューシャも可愛らしい。

派手さは無く清楚で可愛らしく見えるデザイン重視の黒に近い紺の生地が光の加減で上品に見えるが胸元の大き過ぎるフリフリの白地に赤いストライプのリボンが風になびいて目立っていた。

その服装だけであれば秋葉原も近いせいもあってコスプレか?くらいのものだが子供が運転をしていることで周囲の関心を惹いていた。


そして助手席には体格の良いオッサンが腕組みして乗っているのだが服装が隣で運転している少女とは対象的にテカったオレンジのシャツの胸元をはだけ真っ白のスラックスにピンクのアフロヘアーだった。

80年台にタイムスリップしたかの様な大きなサングラスで素顔は見えないが大きく両手を後ろに広げて脚を組んでくつろいで乗っていて外側に出した左腕には大粒のタイガーアイの数珠を付けていた。



品川方面に向かう銀座八丁目の交差点で信号待ちとなり、通行人の中にはスマホで写真を撮る者も居たがピンクアフロはニコニコと愛想良く手を振ったりしている。


「やはり兄様、お昼間は兄様に運転していただけないでしょうか?警察の方にも停められてしまうかもしれません・・・」

信号が青に変わり発信したタイミングでハンドルを握った少女が弱々しく、やっと口にした様に抗議した。


「んん?どうしてだ?免許も持っているし何も問題は無い。しかも俺はお前の可愛い羞恥に染まった顔を堪能出来るし正に一石二鳥ではないか!免許証確認したあとのポリ公の慌てふためく姿も見れれば実に愉快だ!」

助手席のピンクアフロはサングラス越しでも判るドSのドヤ顔をしながら少女に返事をした。


やはり言っても無駄だったとばかりに「うううー」となる少女。


「まあもうすぐ目的地だし帰りは俺が運転するさ。もちろん夜はゆいにも乗るしな!」(ゲス顔)

そう言ってふんぞり返るオッサンの横でハンドルで赤くなった顔を隠す様にしながら運転する結と呼ばれた少女はこれまた消え入りそうな声で「はい」と答えた。



車はとあるホテルの地下駐車場に入るとホテルのフロントへ繋がるエレベーター入り口からは遠い一番奥へと駐車した。

軽自動車がおよそ場違いと思える豪華な車種を想定した駐車スペースを余りまくらせているのを気にも止めず降り立つピンクアフロと少女の元へ二人の男が近寄って来た。

スーツ姿ではあるがサラリーマン風ではなくその風貌からおよそ真っ当な人種ではないことが判る。

最近はDQNなどと呼ばれるチンピラが多いがこの男達は明らかに凄みが違っておりそれぞれがそれなりの地位であることを伺わせていた。


「魔術医師の天条てんじょう みつる先生でいらしゃいますね?」

前に居た男が低くそれでいて不快にはさせない口調でピンクアフロに尋ねた。


「おーその通り!私が天条である!お兄さんは関西心紀会 土岐組組長の土岐とき 鉄一てついち親分さんですね!ヨロシクー!この子は助手の結ですー!」

対して軽薄この上ない挨拶を返し握手を乞うピンクアフロに苦笑しながらも土岐は「自分も素人さんにまで顔が広まりましたか?お恥ずかしい」と落ち着いた返事をしながら握手に応えた。


「いやいやー、土岐組長さんだけでなく安城あんじょう 耕平こうへい組長さんにと錚々たる面々のお出迎え恐縮ですよー。」とまるで恐縮せずに後ろの安城にも声をかけるピンクアフロ。


どちらかといえばまるで挑発しているような振る舞いのピンクアフロに対して丁寧に土岐が「親分がお待ちなんでこちらへ」と関西弁独特のイントネーションでピンクアフロと少女を誘った。



案内されエレベーターに乗りこんでもピンクアフロは軽薄に一人で話していた。


「15年前の抗争事件の時は大変でしたなー!」


「いやーあの時もあーでこーで・・・」


身振り手振りを交えながら心紀会のよろしくない話も遠慮なくまくしたてる。


傍らの少女はうつむいたまま男たちがいつ機嫌を損ねないかと内心ヒヤヒヤしていたが土岐も安城も苦笑しながらピンクアフロの話に相槌を打ったりしてくれていた。



兄様の仕事は魔術医師といって現代医学の主流の西洋医学。鍼治療などで有名な東洋医学。そして西洋医学とも東洋医学とも違う不可能を可能とされるあらゆる治療が可能な魔術医学を使うお医者さんなのですがどうも今日は兄様は乗り気でないらしい。


今もわざと相手の機嫌を損ねてとっとと帰ろうとしている様に結には思えるし昨日「こーゆー組織の親分さんの依頼なんてどーせくだらない依頼だよなー息子復活とかどーせそんな類っしょー」とピンクアフロが言っているのを思い出していたからだ。


確かに奇跡の代償としての高額な治療費でかつ特殊なルートでしか依頼が出来ないため本当に金持ちのくだらない治療も少なくないのだけれど・・・。



結の内心のヒヤヒヤは収まらないまま最上階にエレベーターが到着し広い一室へと案内される。


部屋に入ると一面の窓から東京が見渡せる絶景の片隅に車椅子の初老の女性とその横に初老の男性がおり、ゆっくりあちこち指差しては車椅子の虚ろな表情の女性に話し掛けていた。


「親分、先生をご案内致しました」と土岐が初老の男性に声をかけると

「おー」と応え窓際の車椅子の女性を気使いながらこちらへ近づいてきた。

「めちゃ派手な先生やなー可愛らしいお嬢ちゃんも一緒やしもっとこーかしこそうなイメージやったんやけどな」そう気さくに笑ってはいるが大柄で内に秘めた迫力は圧倒的だった。


「わざわざ出向いてくれはって堪忍なー、ワシが山吹やまぶき たかしやーよろしゅうなー」とピンクアフロに握手を求めた。


ピンクアフロは窓際の車椅子の婦人に気が付いてからは無駄口は開いていなかった。

決して山吹の迫力に飲まれたのではなく医者として真摯な態度に豹変し「よろしく。天条です。サングラスは目の保護のためのものですのでこのまま失礼します。こちらは助手の結です」と握手に応じた。


ピンクアフロも体格がよく身長よりも大きく見られがちだが山吹は本当に大きく握手の手も硬く大きかった。


「可愛らしいお嬢ちゃんジュースがええかな?先生は何がよろしい?」

握手のあと結の頭を撫でながら山吹が言う。


結はピンクアフロの方を応えて良いか問いかける様に見上げるとすぐに車椅子の女性に視線を向ける。


「いえいえ私はどうかお構いなく、結はオレンジジュースかなー?」と真摯な態度から一変、本当に小さい子に問いかけるように聞くピンクアフロ。


コクリと頷く結は幼く見えてはいるが実は年齢は20歳でピンクアフロと結は実の兄妹であり恋人であり常に変態兄様と行動を共にしていて今日も同行している。

メイド服も変態兄様の趣味で着るように指示されて着ているが兄様に逆らった事は無い。結は変態兄様と相思相愛で慈愛に満ちた天然記念物級の生き物であった。

20歳にはなっているがピンクアフロの子供扱いや先程の様な問いかけ方も結は満足していたし兄様がそうしたいならそれでいいと心底思っていた。


結も車椅子の女性が普通では無いことにすぐに気が付いていた。

窓の外を虚ろに眺める女性の表情は穏やかではあるが意志が感じられなかったからだ。


山吹が結のオレンジジュースを指示して窓際のソファへの着席を2人に促したが結は山吹に「ご婦人とお話したいです」と告げ車椅子の女性の元へとととと駆け寄って行った。


きっとこの方の治療の依頼なのですね・・・と婦人の後頭部辺りが黒い苔が生えたように見えている結は思った。


「奥様今日はいいお天気ですね。お外がいっぱい綺麗に見えますよ」近寄った結は返事は無いと理解しながら婦人の手を取り、優しく優しく話しかけた。




関西で−−−いやこの日本で有名なその筋の団体と言えば心紀会である。

裏社会を牛耳る一大組織で戦後から心紀会のトップと言えば日本の首領と位置付いていた。


仁義に厚く正統派の任侠道を貫く組織であり、20年以上前の大震災時には自衛隊や自治体よりも早く被災者の救助に乗り出し炊き出しをしたり日用品の配布を行った話は有名である。


しかし抗争事件も多く、15年ほど前の内部分裂しかけていた泥沼の抗争に終止符を打ちまとめ上げたのが山吹であった。

度胸もあり腕っ節にも自信がある山吹でも楽な道のりではなかったがその男の生きざまを支え続けたのが美佐婦人だった。


「まー若い頃の苦労話始めたらキリないけどなー」憎めない笑顔を浮かべながら世間話の様に武勇伝を語りながらもその端々で「カミさんのお陰ですわー」とこぼしていた。


ピンクアフロは真面目に山吹の話を聞きいていたが時折視線を結の方へ向ける。


山吹は照れくさそうに頭を掻きながらようやく本題に入る決心をつけた。

「年取ると話長なってすんまへんな。実はボチボチと隠居してカミさん孝行していこかなーと思とりましたんやけどバチでも当たったんかなー。あっちで優しいお嬢ちゃんが話してくれてはるんがカミさんの美佐みさですわ」


そう言って美佐に向ける山吹の視線には優しさが溢れていた。


山吹にとって美佐は正に港であった。

家に帰れば出迎えてくれて世話を焼いてくれる。

あれこれと山吹を気使って満足気に微笑んでいた。

子供は出来なかったがいつ死ぬか知れぬ身にとってはかえって良かったと思うし素直に自分も子供に戻れて美佐一人を大切に出来た。

天涯孤独だった山吹にとって杯を交わした義兄弟とは違う初めての家族であり絶対的な存在の美佐が二年ほど前からおかしくなっていった。

思い違いや記憶違いは年齢と共にあって当然だし物忘れなんて些細なことだと思ってはいたが行動がどんどんチグハグになっていった。


家に出入りする若い衆の名前が覚えられなくなった。


同じ話を何度もするようになった。


同じことを何度も聞くようになった。


美味かった料理が。


好きだった花が。


医師にはアルツハイマー病と診断され様々な治療を行った来たが今年に入ってすぐ山吹の事も美佐にとっては知らない人になってしまった。


「いやー堪えましたわー」そう言ってから山吹は涙を流した。


山吹は美佐を本当に愛していたし今もそうだった。

毎日出来得る限り美佐の側に付いてやり出会った頃や数々の思い出話をしながら元の妻に戻る手立てを模索し魔術医師に突き当たったのである。


しかし魔術医師を名乗るほとんどがインチキであるため都市伝説のようにテレビなどで特集を組まれることもあるのが現状で当初は山吹も半信半疑だったが守秘要請の厳重さと情報提供者への信頼もあったので最後の希望として依頼に踏み切ったのだった。


「先生、どうです?カミさん治したってくれませんかね?っていうか治せるものなんですかね?」

真っ直ぐにピンクアフロを見つめて山吹は問いかけた。


奇跡を願う時の表情は誰もが同じ顔をするものだなと思いながらピンクアフロも真っ直ぐに山吹を見つめながらハッキリと答えた。

「結論から言うとすぐにでも治せます」


「おおー!」思わず声をあげそのまま目頭を押さえてまたも涙する山吹にピンクアフロが治療方法の説明を始めた。


簡単に言えば魔術医師の治療はその名の通り受け継がれた能力を使用して代謝を早めたり直接患部を除去したりして治療を行う医術である。

代々その魔術の家系に伝わる系統により個々の差はあるが基本的には同じであるし西洋医学や東洋医学で使用するメスや器具などの代わりに魔術を使うだけで医療行為としての基本は何ら変わることはない。

裂傷や骨折を治すには周囲の皮膚や骨の組織の代謝を早めてくっつける。自然な治癒力では数日かかることも魔術医学では一瞬のことなのだ。

そういう目で見ることの出来る治療は比較的簡単ではあるが目に見ることの出来ないものの治療には受け継がれた血の密度と能力使用方法のセンスが問われることになる。


そういった意味ではピンクアフロは全てにおいて一流の域である。ピンクアフロだが。


ピンクアフロにとって記憶障害の治療はこれが初めてではなく今回もその応用で治療すると山吹に告げた。


「人の記憶が実際にどういった形で脳に刻まれているのは説明は出来ませんがその刻まれた記憶が取り出せないので思い出せなくなるんです」


窓際では結が婦人にあれこれと話している。虚ろな婦人は何も応えないが結はそれでも楽しそうに話し続けていた。


「簡単に言えば取り出せるように配線をし直すってところでしょうか?変わってしまったために取り出せなくなった配線をもとに戻して繋いであげるだけなんです。イメージ的な話で申し訳ありませんが」


「治るんなら難しいことはかまわへん」山吹が答える。


ピンクアフロが座っていたソファからゆっくりと立ち上がって結と婦人の方へと歩きだし婦人と山吹の丁度中間あたりで振り向いて言った。


「山吹さん、報酬は1000万円ですが結構ですか?」


「無論だ」問いかけるピンクアフロに山吹が力強く答えると脇に控えていた土岐と安城も深々と頭を下げた。




景色は全て白っぽかった。

この子は誰なんでしょう?

何度もそう繰り返し浮かんでは消えていく。

とりとめもなく浮かぶ光景と目の前で自分の手をとる少女。


この子は誰なんだろう?

誰か若い衆の娘さんだったかしら?

若い衆?

私の娘?

私は子供を授からなかった。

この子は誰なんでしょう?

私?

この子は私?


目の前に広がる景色はいつも知らない白っぽい景色。

いつも側に居てくれる方も居た気がする。

誰なんでしょう?


ふと気がつくとビルとビルの間に桜色が見えた。

桜色。


そう桜。思い出した。

子供の頃家の庭に咲いた桜。


校庭の桜。


父が亡くなった時もこの花が散っていた。


「自分が守ります」


この人はなんて真っ直ぐに私を見るんでしょうって思ったっけ・・・


自分の家が普通でないと理解して間もない頃だったな・・・


ビルとビルの間に見えた桜色が一箇所、また一箇所と増えていく。


色のなかった視界がどんどん彩ついていく中窓ガラスに映る酷く懐かしい姿・・・

今も昔も変わりなく私を真っ直ぐに見てくれる目。

大きい癖に

照れ屋な癖に

優しい癖に

この人は・・・この愛しい愛しい人は・・・

「孝さ・・ん」


山吹は夢でも見ている様な光景であった。

ピンクアフロが妻に近寄り左手で首のあたりに触れて数分右手を後頭部かざしただけ・・・それだけの行為で最愛の妻が自分の存在に気が付いたのだ。


魔術のテレビ番組でよくある難解な呪文も無くあっさりとした光景だった。ほんの少しかざした右手がぼうっと明るくなった気がした程度で拍子抜けするほど・・・だがしかしそんなこと以上の喜びで一杯になり恥ずかしげもなく自分の名を呼んでくれた美佐を抱きしめ山吹は泣いた。妻を取り戻した喜びに素直に泣いた。


山吹も美佐婦人もいくらか落ち着いてピンクアフロヘアーを笑う余裕ができた所で退散することにした。


結は美佐婦人に気に入られた様で遊びに来て欲しいとまで言われていた。


ピンクアフロは帰り際に何度も土岐と安城に感謝の言葉を述べ男泣きと報酬を受け取った。




「息子の復活でなくてよかったなー」

なんとなく桜の木を探しながら帰路についた車中で運転をしながら奇跡を起こしてきたピンクアフロはふとつぶやいた。


「いっぱいヒヤヒヤしたのですよ・・・兄様わざと怒らせて帰るつもりだったんでしょう・・・」

結はそんなピンクアフロに向かって精一杯の小言をいう。


「うむ!早く帰って結に乗らないとイカンしな!」

偉そうに返事をして卑猥な腰の動きをするピンクアフロに顔を真赤にしてうつむきながら「はい」と答える結の髪にまだ四月の肌寒さを感じさせる風が桜の花びらをくっつけた。


素人が勢いだけで書き上げたものですので酷い出来であると思いますがここまで読んでくださってありがとうございました。

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