チャレンジ!異世界転生『藤原キリオ』
俺は藤原キリオ。30歳の童貞だ。
職業は、自室という過酷な環境下で日々ストイックにFPSの腕を磨く凄腕のバウンティハンター。現代日本ではこれをニートと呼ぶらしい。
ところがおととい、俺は自室を失いフリーランスになっちまった。親が「もう30だろ!働かないなら出ていけ!」なんて言いやがったのだ。俺はバウンティハンターだっつーの。
しかし、現代日本ではこれをホームレスと呼ぶらしい。
とりあえずネカフェに籠もって2日過ごしたが、そろそろ身体が痛い。俺の豊満な肉体はネカフェの個室には収まりきらないのだ。ヒゲもちゃんと剃りたい。さっきトイレで鏡を見たが、せっかくのイケメンが台無しだ。
……行くか、銭湯。
日々ネットに明け暮れる情報強者の俺にとっては、銭湯それすなわちハッテン場であるという理解なのだが、背に腹は代えられない。尻の純潔を失ってでも清めたい身体があるのだ。
幸い、銭湯はこのネカフェを出て横断歩道ひとつ渡ったすぐ先らしい。さっそく歩き出す俺。
すれ違う一般人どもの視線が痛い。ちくしょうわかってんだよこっち見んなよ。笑ってんじゃねえよ。しょうがねえだろ。
ああ、もしこれが異世界転生モノのラノベだったら、俺はこのたったひとつの横断歩道であっけなくトラックにでも轢かれて、気がついたらエルフの森の中なんだろうなあ。いっそそうなってくれねえかなあ。
そんな妄想をしながら渡り始めた俺だが、まさか数秒後、それが現実になるとは夢にも思っていなかったのだ——
……
「はい、体験終了です!弊社の最新VR魔法技術、いかがでしたか?」
「いやあ、すごい、すごかったです。まるで本当に主人公、キリオでしたっけ?それになったみたいでした」
「ありがとうございます!主人公のキリオは、実際にわが国に転移してきたチキュージンの身体と記憶をモデルにして作ったんですよ」
「へえ、すごい!どうりでリアルなわけです。周りの視線が本当に痛かったですし、鏡を見たときなんてあまりの気持ち悪さに吐くかと思いましたよ。このモデルの方はいまなにをされているんですか?」
「いえ、発見当初から森で死んでいたんです。ありがたいことに死亡直後で新鮮だったので、すぐ解剖して身体と記憶の情報を魔法で取り出せたんですよ。本日はウヨキート魔法ショウ、弊社ブースにお越しいただきありがとうございました!」




