可愛い?
「でもさ、サキちゃんも良かったよな。こんな可愛い弟に会えて」
「可愛いかどうかは……微妙ですけど」
周は間違いなく義姉のことが大好きだ。
が、今まで何度も彼女を困らせるような真似をしてしまった。今では後悔している。
「可愛いに決まってるだろ。なんたってずっと……」
言いかけて孝太は、はっと口を抑えた。
「……どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない」
彼はそそくさと浴槽から出ると身体を洗い始めた。
何なんだ?
風呂から上がって、周は孝太と一緒に旅館から少し歩いたところにあるワンルームマンションに到着する。
あんまり綺麗じゃないぞ、という前置きに違わず、床の上にいろいろと物が散らかっていた。
彼は床の上に散らばっている雑多な荷物をまとめてカゴに放りこみ、押し入れにしまい込んだ。
それから布団を敷いてくれる。
「明日も早いからとっとと寝るぞ」
孝太はさっさと部屋の電気を消し、ベッドにもぐりこんだ。
周も布団にくるまって眼を閉じる。しかし、
「なぁ……」寝ると宣言したはずの孝太から話しかけてきた。
周ははい、と返事をする。
「サキちゃん、旦那さんと上手くやってるか?」
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「……ごめん、変なこと聞いて……」
黙っていたのはなんて答えたらいいのかわからないのと、どうして彼がそんなことを訊くのかがわからなかったからだ。
「義姉は……どんな状況に置かれても、いつも最善を尽くす人です」
「ああ、そうか……そうだよな……」
若い板前はそう言って、それから今度こそお休み、とそれきり口を閉じた。