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お迎えにきました

 一人になって少し冷静になるといろいろ妙なことに気付く。

 なんとなく彼の言い方は、美咲と自分が血のつながった姉弟だという前提で話しているような気がした。


 にゃあ、とメイが足元で鳴いた。

「ま、いいか」

 義姉が迎えに来るまでは取り敢えずのんびりテレビでも見ていよう。


 ソファに横になってテレビをつけると、MTホールディングス系列レストランのCMが流れていた。それから朝の情報番組が始まる。


 MTホールディングス社長の高島亜由美が出演している。

 来月、東京と大阪にほぼ同時に2店舗、和食専門店をオープンする予定だという。


 司会者がすごいですね、大都会では競争が激しいのでは? と言うと、勝算はあります、と彼女は答えた。

 日本各地から腕利きの料理人を集め、それでいて気軽に入れるリーズナブルな値段で提供する、今までにない新しい店づくりがどうこう……。


 このオバさん、いくつだったっけ? 周は欠伸をしながらふと考えた。


 テレビが地上デジタル放送に変わってからというもの、以前よりも鮮明にいろいろなものが映し出されるようになった。若く見せているが首や目尻の皺は隠し切れないようだ。


 それからふと、この島で彼女が野良猫を車で轢いたことを思い出してしまった。

 あんなふうに人間のことも切り捨ててきたに違いない。たった一代でこれだけの大企業へ成長させたのだ。かならず何らかの犠牲はあったはずだ。


 そういえば家族はいるのだろうか?

 もし彼女が普通の主婦なら妻としても母親としても失格だろう。仕事第一で家族を顧みない、兄の賢司と同じタイプであれば。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 ぼんやりしている内に眠くなってきた。


 ゆうべも熱帯夜で、あまりよく眠れなかったからだ。いつしか眠っていたらしい。玄関のチャイムで起こされる。


「周君、起きて!」

 気がつくと目の前に美咲が立っていた。

 どうしよう?

 どんな顔をしていればいいのか、まったく考えていない内に会ってしまった。


「なんだよ……」わざとぶっきらぼうに言って身を起こすと、

「孝ちゃんがいなくなったの! 旅館を辞めて、そのままどこに行ったのかわからない。お願い、一緒に探して! 私、孝ちゃんに謝らなきゃいけないのに……」

 ふと周の頭の片隅に考えたくない最悪の事態が浮かんだ。


 周は急いで猫達をキャリーバッグに詰め、荷物をまとめた。

「どこから探したらいい?」

 義姉は首を横に振る。

「わからない。県内にたくさん知り合いはいるみたいなんだけど」

 ところがその時。

「……君もここにいたのか、美咲」なぜかいきなり賢司があらわれた。

「なんで……?」

「周を迎えに来たんだ。帰るよ」

 今日は何曜日だっただろう? 

 賢司はラフな格好をしていた。

「俺は今、それどころじゃないんだ! だいたい夏休みいっぱいはここにいていいって約束だっただろ?!」

 周は今にも腕を掴んで引き摺っていこうとする兄の手を振り払うようにして言った。

「僕の言うことをきく限りはね。けど君は僕を裏切って失望させた。美咲、君にも話がある……二人とも、いいね? 広島に帰るよ」

 美咲は周に寄り添うようにして答えた。

「私、それどころじゃないの! 孝ちゃんがいなくなって、探さないと……!」

「孝ちゃん? あぁ、職場の……」

 賢司は車の鍵を掌の上で弄びつつ言った。「心配しなくても彼には警察の監視がついているだろう」

「え……?」

「いいから帰るよ」

 そう言って賢司はさっさと戸締まりを始めた。


「俺は孝太さんを探す!」

 周は走り出そうとしたが、兄に肩を掴まれてしまう。

「離せよ!」そして、頬を強い力で殴られる。


「周君!」

 焼けるような熱さを感じると同時に、美咲の悲鳴が聞こえた。

 いつかと同じだ。

「もういいから、孝ちゃんのことは警察の人に任せるから……! お願いだから周君を傷つけないで!! あなたと一緒に帰ります」


 美咲の腕に抱えられながら周はゆっくり立ち上がった。

 なんだろう、もしかして賢司は何か焦って苛立っている?


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