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プリンかチョコかクッキーか

 なんなんだ……?


 本当は自分から義姉に電話をしようと思っていた。

 けれど、なんて言っていいのかわからず、悩んでいた時に向こうから連絡がきた。


 何かあったのだろうか? ひどく切羽詰まった様子だった。


 そろそろプリンを迎えに行かないと。メイはまだ全快とまではいかないまでも、だいぶ元気になった。


 和泉達も今日辺り広島の本部へ戻ると言っていたし。義姉はそこを動くなと言っていたが。

 

 少しぐらいなら大丈夫だろうか。携帯電話もあることだし。

 周がそう考えて玄関を空けた時だ。


 ちょうど目の前に、あの駿河が立っていた。

 腕にプリンを抱いている。

「……」

 一瞬、二人の間に沈黙が落ちた。

 えっと……何だろう、何を言えばいいんだろう? 時間的におはようか?


「我々はこれから本部に戻る」

「はぁ、そうですか……」

「プリンなんていう珍名をつけたのは美咲か?」

「……人ん家の義姉さんを呼び捨てにすんじゃねぇよ!」

「君だって『あの女』呼ばわりしたじゃないか」

 思い出したくもないことを思い出させる。


 カチンときて、周は駿河の腕から三毛猫をもぎ取った。

「預かってくれてあ、り、が、と、う。っていうか、俺、和泉さんに預かってもらったはずなんだけど?」

「和泉さんから君に返してくれと、僕が預かった」

「ああ、そう。ちなみにプリンなんていう妙な名前をつけたのは和泉さんだよ!」

 じゃあな、と周は背を向けようとした。

 その肩を掴まれる。


 そう言えば怪我は治ったのだろうか?

「いろいろとありがとう……」駿河は言った。

「へっ?」

「もう二度と会うこともないだろうから、どうしても言っておきたかった」

「なんだよ、それ。どういう……」

 駿河は無表情、無言のまましばらく立っていた。


 が、踵を返して歩き出す。

「ちょっと待て! どっか遠くにでも行くのか?!」

 周は外に出た。すぐに追いつく。

「僕のせいで、君と美咲の間に亀裂が走るのであれば……本望ではない。だから二度と君達には近付かない。そういうことだ」

 呆然とした。声が出ない。

 

 何か言わなければ、でも、何を……?


「嫌だ!」やっとのことで出た言葉はそれだった。


 頭の中で、駿河の部屋で見た昔の写真が鮮明に思い出される。

 子猫と彼と一緒に映っている義姉は笑っていた。見たことのない幸せそうな笑顔で。

 

 駿河は相変わらず無表情だが、微かに戸惑っている気配はした。


「俺、将来は広島県警に入ってやるからな! 刑事になって、あんたの後ろを追いかけてやる!! 見たくなくても、毎日顔を突き合わせるようにしてやるんだからな!!」

「……」

 大きく眼を見開いて、それからふっと笑う。

 周は彼の表情らしい表情を初めて見た。


「できるものならやってみろ」

 ムカっ!!

「待ってろよ、この……」何と言おうとしたのか、言葉が続かない。

 駿河の後ろ姿が遠ざかる。


 周は中に入ってドアを閉めた。


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